第60話 世界の終末に興味はありませんか?

 とりあえず、ダリアの家族を救出するところから始めることで一致したのだが……


「これって陛下に話さなくていいのかな?」

「んー……陛下に話したら、大事になっちまうぞ。今回の一件は『王族殺害未遂事件』だからな。当然、国が首を突っ込んでもいい話だ。実行犯の侍女はおそらく死罪だし、下手すりゃ連座で、一族郎党まで責任とらされんぞ」


「どうせ責任とらせんなら、あの貴族の坊ちゃんでいいだろ」と、オスニエルに擦り付ける気満々である。

 オスニエルが指示し薬を混ぜ込んでいるので、このままだったらあのねじれ金髪は断頭台の露となるか、縛り首になるだろう。

 しかし、そんなことを考えなければ、つけこまれることもなかったので、やはりヤツが悪いということになるのかもしれないが……


 どうすべと悩むアカツキとアレジだが、そこへ鶴の一声が。


「お父様に話しましょう」

「……いいのか?」


 それは、ダリアを犯人だと告発することに他ならない。アレジはそれでいいのかと、レムリアに確認する。


「うまく解決できたとしても、それを隠して生きていくのはつらいでしょう。ばれるかもしれないとビクビク生きるくらいなら、罪を贖いながら奉仕に励む方が、幾分かはマシだと思います」


 勿論、後ろ指を指されたりすることもあるだろうが、悪いことをしたのだからそれは受け止めて背負っていくしかないとレムリアは言う。そんな王女を、ダリアは真剣なまなざしで見つめていた。


「ダリア、いいわね?」

「殿下の仰せのままに」


 こうして、この一件はおおっぴらにすることになったのだが―――


「……なあ、アレジさん」

「んだよ?」

「これさ……俺の出番なくね?」

「……かもしれんな」


 この時アカツキは知らないが、裏で影が動いており、クレイ邸に誰もいないことが既に報告としてグレンに上がっている。従って、ダリアも何かしら関わっているのではないかということが、すでに議題にのっていた。


 税金で食べている人間が動いているのだ。傷や病を癒す薬師(見習い)や、ハイランクの冒険者の出番はないだろう。


 纏っていた剄を適当に散らし、ため息とともに力を抜くアカツキ。どことなく締まらないオチであった。






 誰が伝えに行くのかという話になり、この中で一番年長のアレジが、騎士団の詰所へと向かうことになった。アカツキは王城に明るくないし、ダリアは犯人、レムリアは病人と選択肢はなかったと言える。アレジは先ほどの話と、脱獄の際の細かい話をダリアから聞くと、とりあえず詰所へと向かった。


 というわけで残された三人には、微妙な空気がもたらされることになる。


「……」

「……」

「……」

「「「……」」」


 何とも気まずいとアカツキが思っていると、状況を打破しようとしたのか、レムリアが語りかけてくる。


「アカツキ様」

「はい? なんでしょう?」

「今後、のことなんですけれど……」


 要は治療のことが気にかかっているようだと気付くと、アカツキはそれに答えていく。


「そうですね……まずは、さっき俺が何かしたのを見てました?」

「あ、はい。なんだか光っておられましたが……」

「光ってた?」


 レムリアが言うには、アカツキの周りを、うすぼんやりとした光が伝わっていたと言う。


(アレジさんが言ってた『第弐門』ってやつかな……)


 そう言えば、簡単に剄が全身に回ったなと。右手の力が臍下を辿り、一気に全身を駆け巡っていたのを今更気づくアカツキ。


 ダンジョンでどうやって、短時間で剄を巡らすかを考えることをすっかり忘れていたが、思いもよらない簡単な手段で、しかも無意識に克服できたようである。


「あの……?」

「あ、すみません。あの力を殿下にも会得してもらいます。そもそも殿下、魔力持ってませんよね?」

「! ……どうしてそのことを?」


 先ほどの診察で、レムリアの体内に魔力が巡っていないことは分かっていた。剄は魔力や瘴気に反発する作用があり、それがアカツキには分かることを説明する。


「ほぉ~……」

「要はそれを使えるようにして、これ以上の侵食を防ごうということです。もちろん、これ以上体内に取り込まない限り、それはないはずですが、体内からも浄化するということで早く治そうと」

「重ね重ね……」

「あぁ……いや……陛下に言われてやってるだけなので……」


 感心してアホの子のような声を上げ、深々と頭を下げるレムリアに、アカツキは恐縮する。


(やりにくい……)


 大上段から偉そうにされるのも嫌だが、腰が低すぎるのもやりにくいと、思わぬ真理を会得するアカツキ。とりあえずすることもないから今のうちにやってしまいましょうと、レムリアの手を取り「いざ」という所で、外から声がかかった。


「おやおや。ダリアさん、どうやら失敗したようですね?」

「キサマ……」

「なんとなく嫌な予感がしたので、見に来て正解でした……あまりギスギスした雰囲気がないところを見ると、全て話して、なおかつ許された、という所でしょうかね?」


 どこから声がとあたりを見ると、ダリアが窓際を睨みつけている。その視線を辿ると、窓の桟に立つ黒いローブを着こんだ人物を見ているようだ。当然今まで三人しかいなかったのだから、今来たことになるのだが……


「いったいどうやって……?」

「おや? あなたはどなたかな? どうやらターゲットではないようだが……ほう? ほうほう! あなたは剄の使い手でしたか! これは重畳! 各国王族を狙うより、はるかに良い瘴気を生み出してくれそうだ!」

「……何言ってんだ? あんた?」


 てっきりレムリアを狙ってきたのかと思いきや、ローブの人物はアカツキを見るや否や、興奮し舞台俳優のように芝居がかる。何を言っているのか全く分からない三人を放置し、己の世界に浸るローブの人物は、両手を大きく広げ、世界にアピールするようにこう告げた。


「あなた。世界の終末に興味はありませんか?」

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