第56話 対価
「あぁ、そうだったな」
「え? 気付いてた?」
「そりゃ、そうだろ。というかここにいる顔ぶれは全員気付いてるぞ。なぁ?」
アカツキが辺りを見渡すと、うんうん頷く面々のみ。
「……」
穴があったら入りたい。この状況はまさに、その場面にふさわしい。アカツキはめちゃくちゃ恥ずかしかった。
「まぁ、アカツキ君もそれに気づいただけ、なかなか有望だよ」
「……」
グレンのフォローが、アカツキにグサグサと突き刺さる。思わぬ羞恥に悶え続けるアカツキに救いの手が差し伸べられた。
「あなた。今日はこのくらいで終わりでいいんじゃないかしら? もう夜も遅いし」
「む。それもそうだな。今日はさすがに動きはなかろう。あやつらを捕らえたことが周りに知れ渡るのも明日以降ということになるだろうしな」
とにかく場がばらけるのは、アカツキにとってありがたかった。とにかく一人になりたい彼は、早く部屋へと戻りたかった。
しかし、そうは言うが、誰も部屋を出て行こうとはしない。その理由はすぐに明らかになった。
「さて……今日のレムの護衛をどうするか……」
「そうね。レビンとエドも詰所に行っちゃったし、ここには誰も騎士がいないわ」
そう。本来入口に陣取っていたのはレビンだったが、エドと共にオスニエルとダリアを現在連行中である。どうなるかはわからないが、そのまま取り調べに入る可能性もある。
今この場で動けそうなのは……
「なら、その仕事請け負ってやるよ。いくら出す?」
「……がめついな、アレジさん」
「アカツキ。お前も冒険者なら覚えておけ。仕事に対してプライドがあるなら、いくらかでも必ず金は受け取るんだ。でないと、他の冒険者たちに迷惑がかかるからな」
無料で引き受けだすと、必ず「他の人にはただでやってくれたのに」と言い出す輩が現れ、当初は本人だけに影響があったのに、やがてそれは冒険者全体に広がりだすのだとアレジは言う。
「えらく具体的な話だね」
「……実際にあった話なんだよ。当の冒険者は過労でつぶれてな。本来なら簡単な討伐依頼で死んじまったよ」
「……」
「だから、出来ないことは出来ない。対価は必ず受け取る。これは必ずやれ。間違っても『可哀そうだから』なんてやるんじゃねえぞ……あぁ、さすがに目の前で襲われている人にそれはしちゃいかんぞ。そこは助けてやれ。ただ人によっては、そのままタダでついてきてくれなんて言うやつがいたりするから、そこからは対価を要求しろ。払えないなら、そこで縁切りだ。そんな奴と親しくなっても碌なことがないからな」
グレンも「そうだな。そのとおりだ」と同意していたので、なるほどとアカツキはひとまず納得した。
「というわけでだ。どうする? 国王陛下」
「……では頼もうか。アカツキ君には詫びと褒美があるからな。何が欲しいか考えておいてくれよ」
「えっ? いやいや! 僕は別に……」
薬師の免状ももらえそうだしと言うと、「それはそれだ」と言い、結果的ではあるが王太子の命を救ったということで、褒美をくれると言う。
「今、アレジが言ってただろう? 『対価はキチンと受け取れ』とな」
ニヤリと笑うと、したり顔でグレンは言った。
「それにレムを直してくれたら、更に褒美だ。どうだ? 欲しいもの、ちゃんと考えておいてくれよ」
「あっはっは」と楽しそうに笑いながら、グレンたちは出て行った。残されたのは、アカツキ、アレジ、そして……
「よろしくお願いいたしますね」
仮面の王女、レムリアだった。お年頃の女性をこんな熊みたいなのと一緒にいさせていいのかなと思ったが、ソフィアも当のレムリアも何も言わなかったので、思いのほかアレジは信頼されているのだなとアカツキはアレジの評価をちょっと上向けた。
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