第50話 ファーストコンタクト
二、三質疑応答を終えると、グレンは本題に入った。
『とある娘の容体を見てほしい』
王城より少し離れた場所にある、『ダナエの塔』。そこは、わけありの王族が収監される場所である。そこにいるとある娘の容体を見てほしいとグレンより要請されたのだ。
「……僕はまだ未熟者ですので、力になれないかもしれませんが」
「もう発症してかれこれ一年になる。未だに回復の兆しは現れず、なんなら悪化していると言っても過言ではない。とにかく何でもいいから縋りたい状態なのだ」
「頼む」。そう言われて王に頭を下げられた平民に、選択の余地などない。ほぼなし崩しにすぐさま塔へと向かうことになった。
塔へ向かうメンバーはアカツキ、王夫妻、ゲーアノートにエドアルド。そして宰相シャーリーに、アレジとデュークとなる。
なおデュークお付きの二人(一人減ってミランダとアイリーンだけになった)は、少し仕事が残っていると自室へ向かい、双子殿下はもうおねむの時間ということでこれまた自室に。デイモンは王族の秘密なんか見たくないと、とっとと家に帰った。何でアレジが付いてきているのかはわからない。ついでに誰も疑問に思ってない。
アカツキも家(デイモンの家)に帰りたかったが、王が招きたい本丸であったため、そんなことできるわけもなく。
王城の周りには森とは言わないまでも、林と言っていいくらいにはまばらに木が植わっており、その中に道が一本通っていた。特に向こうが見えないわけではないので、道の先に何があるのかは明確。夜なので、はっきりしたことはわからないが、そこそこ高い塔が道の先にはそびえ立っていた。
特に会話もないまま、足音だけを立てて歩き続け、微妙な空気のまま塔の前までやって来た一同。塔の前には1人の騎士がハルバードを持って、姿勢良く立っていた。
「あれ? あなた様は……」
「おぅ! 久しぶり! 俺のこと覚えてっか?」
「え? あぁ、まぁお久しぶりです」
受付であったエドと一緒に座っていたもう一人、レビンであった。
「首尾はどうじゃ? レビン」
「どうもこうも。いつも通り、オスニエルのクソが入り浸ってますよ」
レビンの顔がひん曲がっている。相当嫌なようだ。
「あやつには姫様の面倒を見るよう言っておいたが……全然成果がでんのう」
「お前……ちょっと怠慢すぎやしないか?」
「ワシはワシでいろいろと研究しておったのじゃよ。あやつが解決できればそれで良し。ダメでも……他におらんしの」
グレンが責めるようにゲーアノートにぼやくが、ご老人はどこ吹く風。どうやら人材不足のようだとアカツキは推察したが、一年以上効果の出せない者に世話を任せるなんて、治すつもりがないとしか思えなかった。そもそもあの試験官の実力が分からない。いけ好かないことはアカツキにもはっきりとわかっているのだが。
実際ゲーアノートは焦ってはいたものの、治せる目途も立たない状態であるので、開き直っているっちゃあ開き直っている。
「では、中には?」
「はい、陛下。レムリア殿下に側付きのダリア。そして担当薬師のオスニエル様がおられます」
「ちょうど良い。アカツキ君、ついて来たまえ」
返事も聞かずずかずかと塔に入っていくグレン。アカツキも慌てて後を追い、レビン以外の他のメンバーも中へと入っていった。
人の気配が遠ざかり、元の静けさを取り戻すと、今日の当番のレビンがポツリとつぶやいた。
「これは新しい風が吹くかな」
いつもの代わり映えのしない夜番だったと思ったが、思わぬ来客についに事態が動き出した気がするレビンだった。
階段は螺旋になっており、一同は黙々と昇り続けた。誰に言われたわけでもないのに、声を立てることがはばかられるほどに静かだ。
足音だけを響かせながら登り続けること数分。人の気配がする階層に出た一同。上へと向かう階段はまだあるが、グレンはそのままその階へと踏み出した。一同もそれに続く。
しばらく歩くと、明かりの漏れだす部屋が一つ。ノックをグレンがすると、間をおかずに扉がわずかに開く。漏れだす光も太くなった。
「! 陛下……」
「すまぬな、夜遅くに」
「滅相もございません。殿下に面会でしょうか?」
「あぁ。かまわないか?」
「もちろんです。殿下もお喜びになられます」
グレンと話していたのは、側付きの侍女『ダリア』であろうとアカツキはあたりを付ける。ダリアはすっと頭を下げ一歩退くと、客人を迎えるべく一礼して、扉を通る人を出迎えた。
部屋に入った先に見たものは、いつぞや見たねじれ金髪オスニエルと……
(仮面……?)
視界を塞がないように、目だけをくりぬいた頭部を完全に覆う金属製の仮面と、肌をすべて隠すような長袖の薄い黄色の寝巻。胸には病人とは思えないような、立派な双丘を窺うことが出来る。
(あれが、レムリア殿下か……?)
グレンにはとある娘としか言われなかったが、グレンとレビンの会話で『側付きのダリア』『担当薬師のオスニエル』『レムリア殿下』という言葉が出てきたのは聞こえていた。
オスニエルは事前に会っていたことがあったので、知らないわけもない。一悶着あったわけであるし。
メイド服を着たダリアを側付き以外で表現することは不可能だろう。
とすれば残りは一人。レムリア殿下というわけだ。
(なるほどなぁ……わけありか)
仰々しい仮面を装着していることといい、かなり歪な姿であることは間違いないが、アカツキは寝巻の首元を見て、一人納得していた。
(……肌が瘴気で荒れている。仮面を被っているのも恐らく……)
顔も瘴気で荒れているであろうことを予測することは、そんなに難しい話ではなかった。
後々長い付き合いになるアカツキとレムリアのファーストコンタクトは、劇的ドラマティックなどではなく、とてもひっそりとしたものだった。
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