第48話 一番聞きたかったこと

 突然、断罪劇を見るハメになったアカツキは、呆然とマイアを見送った。「貴様のせいで!」とか言って睨みつけられていたような気もするが、特に返事を返すこと間もなくご退場なされた。もうどうしていいか、どこを見ればいいのかと途方に暮れていたが、グレンから声をかけられ正気を取り戻した。


「さて。アカツキ君、これで手打ちにしてもらえるだろうか?」

「え? はぁ、まぁ……」


 正直、もう顔を見なくなればそれでよかったのだが、却って怨まれそうだなと至極当然の結論に辿り着いた。ありがた迷惑だったが、まさか王様にぶっちゃける訳にもいかないアカツキのモヤモヤが、さっきの煮え切らない感じに繋がったというわけである。


「あとは何か詫びをさせてほしい。何か欲しいものはあるか?」


 そう言われたところで、平民に物欲などそうそう湧くわけもない。腕を組み、ウンウン唸るアカツキは一つ妙案を思い付く。これなら確かに王にしかできないことであろう事を。


「ぼ……お……私には……」

「あぁよいよい。普通に話して構わんよ」


 先程の鋭さは何処へやら。にこやかに告げてくるグレンに、アカツキは気が緩む。


「僕には旅に出た幼馴染がいるのですが」

「あぁフィオナ殿のことだな」


 当然アカツキの個人情報など丸裸だ。至極当然のように会話に混ぜてくる。特に不思議に思うことなく、アカツキは話を続ける。


「そうです。で、できたらで良いのですが、手紙のやり取りをお許し頂きたいのです」

「なんだ、そんなことで良いのか? もっと無理難題を言われるのかと思ったぞ」


 カラカラと景気良く笑うグレン。周りもまるで微笑ましいものでも見たような、生温い顔をしている。

 何かおかしなことを言ったかと、不安になったアカツキだが、グレンの隣のソフィアがグレンの代わりに答えてくれた。


「いつも腹の探り合いばかりしているものだから、何の裏もないお願いに思わずホッコリしてしまいましたわ」


「ふふ」とお上品に微笑むソフィア。不覚にも、アカツキは思わず見とれてしまう。そして、いつもスキを伺うような生活をしている王家の皆様方が、それを見逃すはずがなかった。


 そんな中、トテトテと可愛らしく近付く二人の影が、いつの間にかアカツキのそばに。アカツキの肩をとんとんとたたき、ボケていたアカツキを気付かせると、その合図に振り返った瞬間にズビシと人差し指を突きつけた。二人同時に。


「……あの、殿下方?」


 よく考えれば名前を知らないアカツキは無難に殿下と呼んだ。そもそも二人の行動の意味がわからない。

 ただ、何を言いたいのかは次の瞬間、わかりすぎるほどわかった。


「「アカツキくん、母様に見とれてた」」


 むふーと、得意げな顔の二人。食事の時は無表情だったが、わりと茶目っ気はあるようだ。突きつけた指はそのままである。


「ほう?」とニヤリと笑うグレン。「あら、まあ」と頬に手をやり、満面の笑みを浮かべるソフィア。予期せぬ指摘に顔が真っ赤になったアカツキは、隣に座るデイモンにヘルプを求めた。


「で、デイモンさん! なんとかしてくれぇ〜」

「い、いやいや! 私が口を挟むなぞ恐れ多い! 君がなんとかしたまえよ!」

「そんな殺生な〜!」


 こうした息を抜いた団欒は、しばらく続いた……






「まぁ勇者達のサポートキャラバンは、補給のためちょくちょく王都へ戻ってくる。その時で良ければ、承ろう。それで良いか?」

「ありがとうございます!」


 勢いよく頭を下げるアカツキ。すべてが終わるまでただ待ち続けるというのも嫌だった為、大変有難いお詫びであった。


 しかし、これで終わりとはいかない。雰囲気をガラリと変えたグレンが、いつの間にか帰って来ていた執事に耳打ちすると、頭を下げ部屋の外へと向かう。戻って来たときには、何人か引き連れていた。


 入ってきたのは四人。内一人はほぼ身内であり、残りの三人は……見覚えがあるような、ないような。

 その中のほぼ身内が、先駆けて口を開く。


「ようやく目が覚めたかよ、アカツキ」

「……アレジさん? なんでここに?」

「何でって……お前をここまで担いで来たのはオレだからな。感謝しろよ」


 行儀悪くテーブルの上の飲み物を適当に掴むと、豪快に一口で飲み切った。


「かぁ〜、うめぇ〜!」

「いや、うめぇじゃねえよ」


 アカツキがツッコむも、殿下方がアレジの腕にぶら下がる。「そらぁ〜」と二人をぶら下げたまま、くるくると回る。「「キャ〜!」」と楽しそうな殿下方。なんだか親戚のおじさんとじゃれついているような雰囲気を醸し出した。


「何しに来たんだ? あの人……」

「ふむ……やはり知り合いだったのか」

「え?」

「あぁ疑っていたわけではなかったのだがな、今の気安いやり取りで確信できたのだ。君が、七人のランクS達と知り合いだということがね」


 それって疑ってたってことじゃないかと思ってはみたものの、まあそれも仕方ないかなと溜飲をあっさりと下げた。自国の王相手に、噛みついたって仕方がないからだ。


「なればやはり一つ聞いておきたいことがあるのだ。人伝ではなく、君自身の口から」

「……」


 ゴクリと生唾を飲むアカツキ。今日出会ってから一番真剣な顔をしている。


「君が『煉丹術』というものを使えるというのは本当なのか?」


 おそらく一番聞きたかったであろうという事は、アカツキにもハッキリとわかった。

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