第41話 記憶の中にある必殺
何故中段突きが最強なのか? アカツキは以前セキエイに問うたことがあった。
『最強だから最強なのだ』
……しっかりとした意味は分からなかったが、中段突きの鍛錬はしっかりとしていた。
右拳を引き、左手を開き相手に向ける。右足を蹴り、膝を伸ばし、腰をひねり、肩、肘をつきだし、拳をぶつける。いうなればそれだけのシンプルな一撃。取り立てて複雑な段取りがいらない故に、隙の見当たらない技。言い換えれば―――
―――ただ殴るだけ。
体中の力を拳に集中させ、拳よりエネルギーを相手に伝えるという、言葉にすればややこしい言い方だが、体を正しく使うことで拳に力が宿るわけだ。
アカツキは、剄の循環をしない中段突きの訓練を、左右、毎日していた。ひたすら愚直に、積み重ねたものは、確かなものとなりアカツキの血肉となっている。
それが今、花となり鮮やかに咲こうとしていた。
「あぁぁぁぁぁぁぁ……!」
何かしようとしているアカツキを警戒したのか、二匹の蛇もどきは攻撃をやめ、距離を取ってアカツキを観察している。何かがあってもいいように、槍を持つ手には力が込められていた。
「あああああああああああ!!!」
体を巡る剄を拳にとどめ、溜め続けるアカツキ―――
とある昔日。アカツキ親子は、村の外にある巨大な岩の前にいた。石の大きさは約10m。大人でも小さく感じるサイズ差である。
「いいか、アカツキ」
「おー」
「中段の極意は、剄を拳にため、放つことにより、爆発的な威力を発揮する」
「おー?」
セキエイはアカツキが小さなころから、大人にするような説明を行っていたため、アカツキが理解できないことが多かった。今も「けい?」「はなつ?」「ばくはつてき?」と、言葉の意味が全く理解できていないアカツキには、?マークが頭を飛び交っている。
「まぁ、見ていろ」
「おー」
言葉の意味が分からないながらも、動きを理解しようとするアカツキ。セキエイが剄を練り、拳を引くと、何やら引いた拳に異様な圧力が加わったように感じる。アカツキの視点から見れば「とうちゃん、なんかすげー」という幼い感想しか出ないが、巡る力の動きは感じることが出来ていた。体中を駆け巡っていた圧力が、拳へと集まっていく。
「おー……ひかってる……」
靄が集まり、密度が増した剄は、やがて光を放ち始める。さらに「ぬぅぅぅぅぅん!」とセキエイが踏ん張ると、拳の輝きがさらに増す。
「おー!」
興奮する幼少時のアカツキ。両手を握り目が輝いている。額にうっすらと汗をかいたセキエイは、視線を巨石へ向けた。
「良く見ていろ、アカツキ」
「おー!」
何が起こるかワクワクしているアカツキは、返事も素直ないい子だった。それを満足げに聞き届けたセキエイは、「ふんっ!」と輝く拳を巨石へと放った。
―――ゴガァ!!
あまりにも大きな音がしたので、ビクッとなったアカツキは、セキエイの一撃でひびが入った巨石から、光が漏れだしていることに気が付いた。
―――ピシリ……
―――ピキピキ……
「おー……?」
石の割れ目が徐々に広がり、そこから光があふれ出す……そして……
―――ガガァァァァァァァァンンンンンン!!!!!!!
岩のかけらが飛び散るということはなかったが、岩はいくつかのかけらに分かれると、砂となって崩れ落ちていった。
「おー……」
「どうだ? アカツキ」
満身創痍といった感じで、やけにくたびれた感じのセキエイだったが、アカツキがそのことに気付くことはなく、ただ、意外とインパクトが弱い演出だったため、興奮は尻すぼみになっていた。
「……あんまりすごくない」
幼児の正直な感想に、苦笑いするセキエイだが、
「まぁ、今のお前には分からんかもしれんが、これは凄い事なんだぞ? だから、いつかお前もできるように修行しないとな」
アカツキの頭を撫でて、ニカっと笑うセキエイ。アカツキはそんな「どうよ?」という父の笑顔が大好きだった。
「おー! おれもしゅぎょうがんばる!」
「ふんっ」「ふんっ」と見よう見まねの中段突きを一生懸命マネするアカツキに、笑顔がこぼれるセキエイだった。
―――
岩が砂になるような攻撃を、セキエイは見せていた。あれをできるかどうか。あの時は全く理解できなかったが、今のアカツキには理解できる。
巡る剄はすでに拳の中。記憶の中のセキエイのように拳は輝いている。準備万端とばかりにナーガのほうを見れば、ナーガはすでにレンジ内へと入って来て、槍を突いてきていた。
頭が冷えていたアカツキはすっと、拳を溜めたまま、半身で突きをよけると、がら空きのナーガの半身がさらされた。今までのパターンだと……
「そらきた」
姿勢を崩したナーガのフォローとばかりに、ナーギィが槍を突いてきていた。それもかわすと、ナーガとナーギィが一直線に重なる。
「ここだぁ!」
―――ダンッ!
左足を踏み込み―――
―――ギュンッ!
腰をひねり―――
―――ゴウッ!
肩、肘を突きだし―――
―――ドォンッ!!
拳をインパクト―――
「「GYAAAAAOOOOHHHHH!!!!!!」」
ナーガの前にいたナーギィは、どてっぱらをぶち抜かれ、その余波でナーガの上半身と下半身が生き別れとなった。
ナーガ達の断末魔は一瞬で、倒れた体にはヒビが入り始めたと思うと、端から体がサラサラと分解されていく。実態を持たない粉のようなものが散ると、やがてそこには鮮やかな緑色に輝く石が二つ。まるで置き土産のように残留していた。
「や、った……」
拳を突き出したままの姿勢だったアカツキは、力のすべてを放出しきると、目を閉じ、そのまま前に倒れ込んでいく。
「おっと」
倒れるアカツキにすでに意識はなく、抱きとめてくれた人物がいることも、もちろんそれが誰かということもわからない。
アカツキを抱きとめた赤毛のひげ面は、ニカっと笑って、聞いていないことを承知で一言告げた。
「さすが、俺の弟分だぜ」
力を使い果たしたアカツキの顔は、とても満足げだった。
――――――――――――――――――――――――――――
必殺、シャイニングナッコォ。
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