第35話 ハーレムパーティ
「来ないな……」
アカツキは六時の鐘が鳴る少し前に正門前にやって来た。朝日もまだ昇り切っていない時間である。きっちりと朝ごはんも食し、今日も荷物運びをする気満々である。ところが、そんなやる気に水を差すようにパーティのほうがやって来ない。キョロキョロと周りを見渡しても、ハーレムパーティらしき軽薄な雰囲気の連中がいないのだ。
「……おかしいな。六時の鐘ってリアさん言ってたのに……」
冒険者見習いの自分が時間に遅れるなんて論外とばかりに、張り切ってやって来たのに、すっかり待ちぼうけである。周りを見てみれば、すでに合流を果たし銘々目的の場所へと動き出している。
ハーレムパーティなど見れば一発でわかるのに、未だ視界に入ってこないのは、何かがあったのか、それともずぼらなだけなのか。
少し知りあいにでもどんな連中か聞いとけばよかったとかなり後悔しながら、仕方なしにアカツキは一枚の紙を取り出した。
「第三資材ダンジョン、採取するのは『マクダ茸30本』その他採取してきたものは、時価で買い取ります……か」
特に特徴というものがないダンジョンは、番号で呼ばれるのだ。強烈な個性を持つダンジョンや、有名な守護者がいるような場所には名が付けられる。今回行くのは、そんな名前が付かないような、ギルドで管理している『資源ダンジョン』と呼ばれる場所である。
目的の物とは別に、適当に取って来たものでも時価で買い取ってくれるのが、ギルドの強みである。個人として受ければ、いくら余計なものを持ってきたところで徒労に終わるのだが、ギルドでは需要と供給に応じて時価が変化する。必要とされているのに足りなければ高価で買い取ってくれるが、在庫がいっぱいあるなら高価では買い取ってはくれない。時価とはそういうことである。
渡されたダンジョンの情報を見て、「マクダ茸って薬に使う奴だよなぁ。あの精力剤の元になるやつ」などと独り言をつぶやいていると、
「君が今日、僕たちに付いてくる見習いクンかい?」
「ん?」と顔を上げるアカツキ。そして目の前にいる男一人、女三人を見た。きらびやかな金ピカ全身鎧。鎧とおそろいの色の兜を脇に抱き、反対側の手でえらく美人な女性を抱き、後ろからこれまた美人がしかも二人、がっちりとしがみつき、何やら動きにくそうな御仁が現れた。
「マジか」
アカツキの驚愕を一言で表すならこうだ。
口元がヒクつくのを必死にこらえ、アカツキは念のため確認する。できれば別人であってほしいと切に願いながら。
「……エドガーさん、ですか?」
「YES! 今日はよろしく頼むよ! 見習いクン!」
「はぁ……」
「なんだい! 朝から辛気臭いね! 張り切っていこうじゃないか!」
テンションが低いのはお前のせいだとは言えない、見習い冒険者アカツキであった。
「いやぁ、ごめんね! 昨日の夜は子猫ちゃんが寝かせてくれなくてさ!」
「……いえ」
HAHAHA! と背中をばしばし叩いてくるエドガー。寝かせてくれないということは、エドガーにへばりついている彼女たちとイイことをしていたのだろうなと、思春期男子らしいあちらの想像を巡らせているアカツキ。ただ、そう言われてどう返していいかが分からないので、消極的な相槌を打つにとどめていた。というよりもあまり寝ていないのに、異様なテンションを維持しているエドガーが異常だ。
聞いてもいないことをペラペラと喋るエドガーに辟易していると、美女軍団の一人が近づいてきて、アカツキの耳元でわりと本域でささやく。
「変な想像してんじゃないよ、エロガキ」
「……」
とてもだるそうなウェービーなロングヘアをアンニュイにかきあげた美女が、アカツキを見ている。その視線だけで射殺せそうだ。災害種の一体『メドゥーサ』に匹敵するんじゃないかと錯覚するほどの圧力である。
「まさか、そんな……」
「へへっ」とまるで下っ端のチンピラのような態度をとってしまったアカツキ。「……フン」とアカツキに向けていた視線を切ると、途端にエドガーに媚びるような態度へとスイッチ。
「エドガーさまぁん♡ 昨日はすてきでしたわぁ♡」
「わたしもぉ♡」
「今日もイタしたいですわぁ♡」
黒髪ウェービーに続けとばかりに他二人も追随する。エドガーも「しょうがないなぁ。ダンジョン内では手軽に行くよ」と耳を疑うようなことを宣言した。「キャー、ステキっ!」と取り巻きが浮き足立つ中、「おえっ」と心で吐いたアカツキは、道中不安を隠せなかった。
―――たった三つで冒険者がいい人だと判断するのは早かったかもしれん。
エドガーの人当たりはいいのだが、どうも取り巻きがヤバそうと判断した。そしてそれは間違ってはいなかったのだ。もちろん、程度の差はあれど、取り巻きの要求に応じるエドガーも大概だとアカツキは評価を下す。
――――――――――――――――――――
短いですが、ここで区切ります。
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