第22話 宿探し

 アカツキ、リディア達、そしてラリー達は、もうすっかり暗くなってしまった王都をてくてくと歩いていた。


「いいのか? アカツキ」

「え? 何が?」

「アドルフたちだよ。お前、決闘挑まれてスカすとか冒険者としてはありえねえぞ」


 ラリーが言うのは先ほどの騒動の話である。イラつきがピークを迎えたアドルフから決闘を申し込まれたアカツキは―――


「―――いや、受けませんけど」


 と、あっさり拒否した。


「「「ええええぇぇぇぇ!!!!???」」」とギルド内が騒ぎになったが、なんのその。アカツキにとっては国家薬師になるのが第一歩であって、冒険者同士のいさかいなどどうでも良い話である。まして何か理由があるならまだしも、正当な理由もなく絡んでくるような輩など、余計にどうでも良かった。


 ポカンとしているリディア達のところまで赤眼猪を配達し、「手続きが終わるまで、外で待ってるわ」とギルドをとっとと後にした。


 その後、ギルドマスターが「やかましいぞ!」とか言って、災いの種だったアドルフたちが連行された、というのを今さっき聞いたアカツキ。「はっ、ざまぁ」と一瞬思ったが、覚える価値もないとばかりに、もう忘れようと努力をしている。


 そんな中、申し訳なさそうな顔で申し出てくるリディア。


「本当にいいのか? アカツキ」

「何が……って、臨時報酬のこと? 俺、冒険者じゃないしもらえる資格がないでしょ。肝はダメみたいだったけど、牙はもらえるみたいだからそれでいいよ」

「しかし……命まで助けてもらって、報酬まで譲ってもらうなど、いくらなんでも……」

「いらないって言うんなら、もらっといてもいいんじゃないかなぁ」

「お前はちょっと黙ってろ、ルイ」

「は~い」


 アカツキが仕留めた赤眼猪は、ギルドで賞金が掛けられていたのだ。そこそこランクの高い魔物だったので、賞金額も金貨三枚となかなかの大盤振る舞い。しかもほぼ傷がなく、内臓が痛んでいただけなので、追加報酬も出ていた。


「ちぇ~」とふてくされるルイーズを無視し、なおもアカツキに言い募るリディア。


 どうしたもんかと思っていると、「んじゃあ、俺らこっちだから」とラリーが誰ともなしに言う。


「あ、そうだ。ラリーさん」

「うん?」


 手を振りながら背を向けていくラリーに、声を掛けたアカツキ。「先行くぞー」とジェイコブは声を掛け、三人で先に行く。


「ラリーさんたちの宿賃っていくらすんの?」

「お前、リディアのところに、厄介になるんじゃなかったのか?」

「今日はそうだけど、いつまでも騎士様の家にお邪魔するわけにはいかないでしょ?」


 今日すぐに宿を探すのは難しそうだから、リディアのお言葉に甘えたアカツキだが、いつまでも好意に甘えるというのはさすがにどうかと思っていた。なので、ラリーたちが泊まっている宿のことを聞きたいと思っていたのだ。会えなければ、一か八かで適当な宿を探す羽目になっただろうが、運よく会えたのでこの際聞いてみようと思った次第である。


「まぁ、そうだな。俺らが泊まってんのは、この先にある『双葉亭』ってところだ。葉っぱ二つのマークがぶら下がってるとこだな。宿賃は朝晩飯付きで銀貨五枚だ。ちょっと高めだが、飯もうまいし部屋も清潔。看板娘もかわいいぞ」

「ちょっと高いなぁ……さすがにムリかな」


 試験までの日数はこれから確認しなくてはならないが、試験の日数は何日あるのかとか、合格までどれだけかかるのかとかよくよく考えてみれば、アカツキは何一つ確かなことは知らない。だが、毎日銀貨五枚を仮に一月とすればとても払えた額ではないのだ。看板娘が可愛いとかそんな次元の話ではないし、そもそもどうでも良い。


 そこへ割って入ってきたのがリディアだ。「好機!」とばかりにぐいぐい押してきた。


「ならば! ぜひ我が家へ! この際報酬はこちらでいただいておく! その代わりと言っては何だが、試験の結果発表までうちでゆっくりしていただきたい!」

「おわぁ! 近い近い! わかった! よろしくお願いします!」

「本当か!? ……これで我が家の面目も立つ」


 ホッとした顔をするリディア。さすが勇者が目を付けるロクサーヌの妹である。そこら辺の女など歯牙にもかけない笑顔で、アカツキを見る。優しげなまなざしに一瞬引き込まれるアカツキ。


「!?」


 圧倒的な好意を乗せた笑顔を見せられ、思わず目線を切るアカツキ。耳からは「あたしは~? あたしは~?」というルイーズの恨めしい声が聞こえる。目線を切った先には、ニヤニヤ顔のラリー。


「お前、何したらそんなかわいい子に好かれるんだよ。お兄さんに言ってみ?」


「ん? ん?」と肩に手を回され内緒話を要求してきた。


「いや……分からんて」


 アカツキは元々村長の進言に従い、見捨てる気だったのだ。ただ良心が許さなかったから乱入しただけの話で。その結果、滞在する宿を見つける必要がなくなったのだから、世の中何がどう転ぶか分からない。もちろん墓まで持っていく話だが。


「なるたけ人助けはしたほうがいいのかもしれん……」

「人助けか……」


 アカツキの独り言を、答えだと受け取ったラリーは「なるほどなぁ」と納得したのか、「じゃあ、またな。今度飯でも食おうぜ」とさわやかに離れていった。


 答えじゃないんだけどなぁと思ったが、まあ命を助けられて悪い気する奴はいないだろうと考え、訂正するのをやめた。


 またヤァヤァやり始めているリディアとルイーズに、アカツキは声を掛ける。


「そろそろ案内してくれないか?」

「あっ、そうだな。行くぞ、こっちだ」

「あ! 待ってよぉ~」


 ルイーズを引きはがし、アカツキの手を掴むとずんずん先へと進むリディア。その後を追いかけるルイーズ。リディアの足が向かうのは、上級市民区である。

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