第18話 遊びの終わり

「せっかくの作戦会議なんだから、もう少し続けたらどうだ」

 そう言った杵塚の目がぬめりと光った。

 僕は愛と空井を見、続けて出口に目をやった。

「表は固めてある」杵塚は言った。

「警察か?」と空井。

「そうです」僕は杵塚を睨んだまま言った。

「お前が空井賢だな。人様のコンピュータにこそこそ入り込みやがって、ゴキブリより始末に悪い」

「何しに来た?」と空井。「証拠が見つからないもんだから、困って本人に聞きにきたのか?」声は冷静だったが、喉の奥のわずかな震えが、僕には分かった。

「おい、警察を甘く見るなよ。うちのフォレンジックチームがな、一晩で全部解析したよ。押収したお前のディスクに、盗まれたゲームのソースコードが、バッチリ残ってたよ」(※9)

 空井は口をポカンと開けた。

「それは嘘だ」僕は空井の代わりに言った。

 杵塚は、執念深い熊のような視線を僕に向けた。

 ……こいつは何が何でも空井を捕まえる気でいる。いや、空井だけでなく、俺たち全員を捕まえるつもりかもしれない。

「あんた」空井が言った。冷え冷えとした軽蔑がこもっていた。「証拠をねつ造したのか」

「人聞きの悪いことを言うんじゃない」杵塚の赤ら顔に、さらに赤味が増した。覚えのある腋臭の臭いが漂って来た。「警察がそんなことをするわけないだろう」

「ふん、どうだかな。警察のコンピュータを見れば、辻褄の合わないことがわんさと詰め込んであることくらい、誰でも知ってるぞ」

 杵塚の顔色が変わった。「入ったのか?」

「さあな……警察のシステムくらい、中坊でも入れるらしいからな」空井は他人事のように言う。

「まあ、お前が何と言おうが、証拠はあるんだ。ねつ造? そういう言い逃れも、三年前は通用したかもしれないが、今じゃ古いぞ。デジタルフォレンジックの解析はなぁ、裁判でもちゃんと通用するんだ。警察は、お前らが考えているほど遅れちゃいないんだぜ」

 空井は唇を噛んだ。

「自首しろ」杵塚はドスを利かせた声で言った。

 愛が、空井の手をそっと握った。

「これ以上警察を煩わせるな」杵塚の声の調子がわずかに和らいだ。「お前らにはな、そうでなくても手を焼いてるんだ。頭がいいのもわかる、世の中に不満があるのもわかる、だけど遊びはこれまでだ。自首しろ」

 空井はふいに緊張を解いた。

「そうか……わかったぞ。まだ俺を捕まえられないんだな。証拠が十分じゃないんだろう? それで、自首しろ自首しろと、キバってるんだな?」

 杵塚の濃い眉が持ち上がり、狭い額に横皺が並んだ。「バカが、チャンスを与えてやってるのがわからないか。せめて自首扱いなら、罪が軽くなるんだぞ」

 愛が握った手を揺さぶる。「……ダメよ」

 空井は愛と杵塚を交互に見る。

 まさか空井が自首するのではないかと、僕は心配した。だが、

「悪いが、また来るんだな。逮捕するなら令状くらい持ってこい」

「ふん、せっかくのチャンスを無駄にするのか。自分のこれからの人生も、よく考えてみろ」

 杵塚は僕たち三人を順番に睨むと、巨体を回して、さっき出てきた調理場に戻った。しばらくすると、裏の扉を乱暴に閉める音が聞こえた。


(※9 デジタルフォレンジック/digital forensicは、コンピュータの中から犯罪の証拠となるデータを解析・抽出する技術。デジタルデーターの「鑑識」と言ってもいい。犯人が証拠となるデーターを消去しても、優秀なフォレンジックチームの手にかかればデータは復元され、法廷で有力な証拠となる)

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