第22話 魔力操作について
エヴォリュース国サイス市への移動を開始して数日。
この間、当然ながら野営も行なっている。
就寝時は馬車の結界を作動させれば済む話ではある。
しかし、なにぶん狭い馬車内、いくらふたり寝転がれる程度のスペースはあれど、だからといって問題ない……とは言わぬが花だろう。
本格的に「冒険者」となってくればそうも言っていられないだろうが、その頃には人数も増えている——はずだ。
とりあえず今は、これも勉強だと見張りと休息を取る役を交代でこなしつつ旅路を過ごしている。
とはいえ、さすがにそんな道中ばかりでは、精神的にも肉体的にも疲れがたまる。なので私たちは、昨日の昼過ぎには町に立ち寄り、数日ぶりの宿のベッドで英気を養った。
そして翌日の今、食料や食材を買い足すためにふたりで店を巡っているところ、なのだが——
「
「ひゃ、ひゃい!?」
私の呼びかけに、
そう。
彼女の様子がどうにも変なのだ。
今の返事もそうだし、馬車の御者台で座っていても、会話していてもこうして歩いていても、ずっと微妙に距離を空けられている。
はて、こうなる要因がなにかあっただろうかと考えてみるものの、とんと思い当たる節もない。
仕方ないので率直に尋ねることにする。
「少々避けられているように感じるのだが、私が何かしただろうか」
すると
「い、いえ!何にも!リュウさ——リュウは悪くない……です!」
ふーむ。
呼び名や敬語を使わないことにまだ不慣れとはいえ、言葉遣いまでがいつも以上にちぐはぐである。
これで何でもないと言われても、はいそうですかと納得しろというのは無理な話だ。
どうやら、
しばらくふたり無言で歩みを進めた時、彼女の方から話しかけてきた。
「えー、と、ですね……」
「?」
「その……名前を呼ばれるのが、ちょっと意識しちゃうというか、恥ずかしくって……」
「名前?
「っ! いえ、その……っですね!」
「『です』は要らないぞ」
「んっあ……うん……笑わないで——ね?」
「ああ」
「この前、私の名前をどう書くかっていうお話ししたでしょ?」
「ああ。『いろどり』の
「ぅ、うぅ……そ、それから、ね? リュウ——の私の名前の呼び方が、日本で呼ばれてた時みたいな感じになったというか、その……」
「——あぁ、ちゃんと『私』を呼んでくれてるんだなぁ、て感じられて……嬉しいというか……恥ずかしくて……うぅ」
どんどんしりすぼみに声のトーンを下げつつ、
俯きつつ、かなり小さな声ではあったものの、私はなんとかそれを聞き取ることができた。
……ふむ? それが理由?
「確かに名の由来を聞いたから、多少のニュアンスの違いはあるかもしれんが……しかし、もともとはずっとそう呼ばれていただろうに。そんなに気になるようなことか?」
「確かにそう——なんだけど……」
もごもごと言葉には出さず口を動かしながら、ちらちらと私を伺う
「おかしなことを気にするんだな、
私としては、本当に何とは無しに口をついて出た言葉——だったのだが。
「リュウの……ばかっ!」
そういってひとり、ずんずんと前に歩いて行ってしまったのだった。
「…………はて? 私は悪くない、と言われたはずなのだが……」
——結局、それから間もなくして、
「ごめんなさい!」
向き直るなり勢いよく頭を下げられたのには面食らったが、機嫌がなおったのならばそれは喜ばしいことである。
……結構重要な何かを先延ばしにしてしまっているような気もするが。
————。
ともあれ、買い物を済ませ町を出て、再び馬車に揺られること数刻。
「
「っ、……どうしたの? リュウ」
「
「う、うん。そうだよ。最初は鎧もなんかすごいの出されて着けてたんだけど、動きやすい方が良くて軽いのにしてもらったんだ。騎士の人たちの剣も慣れたら避ける方が楽だったし。……冒険者みたいだ、勇者様にはふさわしくないってあまりいい顔はされなかったけど。で、剣はね——」
そういって
私は
「……それなりに強力な破損抵抗の
「見ただけで分かるんだ。でもそれなりって……王家に代々伝わる、決して刃こぼれすることも切れ味が落ちることもない秘宝中の秘宝、国宝だって言ってたんだけどなぁ。……勝手に持ってきちゃったけど、いいのかな」
受け取った剣は、スタンダードな両刃の西洋剣、ロングソードだ。
付与された破損抵抗の魔術は確かにそこそこ上位のもので、同様の魔術で魔化された斧やハンマーと打ち合っても刃こぼれすることはなさそうである。
強力な身体強化によって力負けしない
風の斬撃も、飛ばすには使用者の魔力を消費するが、
確かにこれらの魔術付与が施されたこの剣ならば、現在世界に出回っている武器のレベルを考えると国宝とされるのも不思議ではない。
「別に返さんでも構わんだろう。むしろ迷惑料にもならん。だがしかし、これは……」
と、ふと隣を見ると、
「派手すぎるな」
「だよね……」
意見が合致する。
まさにその通り、なのである。
さすがに
風の斬撃を飛ばすために魔力を通すと、その刀身はまさに「勇者の剣」と喧伝するにうってつけな
鞘など、もう言うまでもなく金銀細工と宝石で眩しいほどの華々しさであり、さらにとどめとばかりに王家の紋章まで彫り込まれている。
つまりそれは——人目のある場所で到底使える代物ではない、ということだ。
そして、
ちょうど今は町からは程よく遠ざかり、周囲には人の気配もない。
「
————。
馬車から少し距離を置き、私と
「全力でかかってこい。手加減は考えなくていい。魔術を混ぜてもいいぞ」
そう
「ぁ……日本刀?」
私の取り出した武器。
細身で反りを持ち、片刃の刀身。
柄には、魔獣の皮の上から柄糸まで巻いてある。
「見た目はな。しかしこの剣は日本刀のように鍛えて造ったものではなく、ある素材から削り出したものだ。刃文もないだろう? 作り方も違うし、見た目も足りないから、日本刀とは呼べないんだ」
「——まぁ、この世界でそんなにこだわる必要もないのかもしれんが、私はとりあえず『カタナ』と呼んでいる」
「ん〜……なるほど?」
私の言葉を聞いた
考えてみれば当然だ。日本人ならば日本刀の形は知っている。しかし、その鍛え方や刃文のことまで知っている元女子高生というのはあまりいないだろう。
「まぁ、それは今は置いておくとして——始めようか」
声をかけ、私はカタナを構える。
……が、その動作には、戸惑いがありありと現れていた。
「ああ、そうか。まだ私がどの程度『動ける』のか、
「……はい」
城では結局、威圧と戦闘には関係のない魔法を使っただけで「戦い」にはならなかった。
死線をくぐるとまではいかなくとも、野盗はもちろん、近衛騎士の剣でさえ楽に避けられることも経験し自覚もしている。
手加減なしで来いといわれても、助けられた味方、しかも「魔法使い」だと思っている相手だ。本気で斬りかかるのに気がひけるのは仕方のないことだろう。
「よし。では先に一度、私から行くぞ」
構えを解かないまま、私は
「——っ、はい」
「ぇ」
そしてその刹那、私は
——相対していた私が消えた瞬間、背後から、自身の首をいつでも薙ぐことができる位置にカタナの刀身を突きつけられている。
それは、自身が抵抗どころか意識すらする暇もなく首を刈り取られた、
——静から動。脱力からの発動。零からの最速。
魔力を一切外に漏らさず体内のみで活性化。
相手の動きと呼吸を把握し、自身の身体の動きの「起こり」を完全に廃する。
これらを瞬時に、同時に行うことで、対峙し、相手の視界に入っていてさえ不意打ちを実現する。
もちろん、魔力による並ならぬ身体強化あってこそのものではあるが、武道において「無拍子」といわれるものを組み合わせた動きだ。
私は、
と、その瞬間、固まっていた
驚きとともに恐れの感情が入り混じる表情を貼り付けた顔には冷や汗が浮かび、顔色は死人の如く蒼白だ。
しかし、それでも。
彼女はすかさず数歩下がり間を取りつつ剣を構えた。
構える剣先は小さく震えているが、彼女の気力は萎えていなかった。
「今のはあくまで魔力での身体強化と体術の組み合わせだ。転移ではないぞ」
「うそ……」
「そう得体の知れないものを見た、という顔をしてくれるな。
「…………」
今度こそ返す言葉もなく、無言になってしまう
確かに、衝撃を受けたばかりの今は目指す山の頂が全く見えず、私の言葉が信じられないかもしれない。
しかし、
だからこそ、私はあえて最初に見せつけたのだ。
「
「……はい」
「君が君の覚悟を押し通すには、圧倒的と言える強さが必要だと言ったはずだ。そして君はそれを望んだ。ならば……わかるな?」
「自分を信じろ。道筋は私が示す。出来ないと思うな。必ず出来ると思え。言っただろう? 想像力が大事だと」
「それに、
「私は
私の言葉に、
「……ありがとう、リュウ。信じるよ」
「リュウを信じる。そして、リュウが出来るといってくれた自分を信じる」
「いい目だ。『これ』に関しては厳しくいくから、覚悟しておけ」
「お手柔らかに」
そういって、口の端を上げる
やせ我慢かもしれないが、それでこそ
「とりあえず、今は手加減なしでかかってきてくれて大丈夫だというのは分かっただろう?」
「はい」
「では、来なさい」
「——行きます!」
————。
——。
その胸は大きく速く上下し、相当に息が荒いのが見て取れる。
私は、彼女の攻撃のほとんどをいなすことで外させた。
斬りかかってくる
それを
いなされる度に体幹がぶれ、無理やり体勢を立て直さなければならないのだから。
それでも収穫は大きかった。
剣を振るう度、より鋭く、より避けにくく。切り下ろしと横薙ぎだけだった剣筋が、切り上げや突きなども交えた工夫あるものに変化していったのだ。
斬撃の風魔術も使い、それが発動を感知され当たらないと知るとフェイントに組み込むという真似までしてみせた。
膂力に任せた断ち切るだけの剣が、創意工夫し、身体全体を使い、斬るための剣術に進化していったのだ。
それも、驚くべき、いや、恐るべき速度で。
「どう、して……当たら、ない……の……」
ぜぇはぁと息もままならない状態ながらも、
剣術自体は、城で騎士にも習ったのだろう。
しかし、やはり積み重ねと実践がなければ身にはつかない。
そして、残念ながら
それだけのことだ。
みるみる冴えを増していく
「悲観することはないぞ、
「その、すぐに、までが……命取りになる、のが、この世界で、しょ?」
「いい心がけだ。大丈夫。今は心配せずに格下ではなく対等以上の者と場数を踏むのが最優先だ。つまり、私との立ち会いをこなすことだ。
「……全然勝て、る気が、しない——んだけど……」
「はは。そんな簡単に追いつかれては私の立つ瀬がない。簡単には譲らんさ」
「うぅ〜……頑張、る……」
————。
「剣については、先ほど話していた通り進めれば問題ない。そしてもうひとつ、これも重要だ。というより、こちらが本命だ。なぜなら——」
「どれだけ『剣術』に
「魔力をなんらかの形で行使する者は、大気中の魔素を魔力に変換し、身体という容器に溜める」
「
と、そこで
「え〜と? ……ごめん、その……よく分からない、かな」
「ん? あ〜、それもそうか。
苦笑しつつ、私は例えを変える。
「では、こう考えよう」
「
「必要なのはほんの数滴なのに、洗剤は大きなサラダボウルになみなみと入っていて、傾けただけでどばっとこぼれてしまう。——これでどうだ?」
「要はものすごく無駄遣いしてるってことね」
「ああ、そうだ。ものすごく——を明確なイメージとして分かって欲しかった」
「あはは。うん。よく分かったよ」
「ふ。なら良かった。でだ。そのままでは、あまりにもったいないだろう?」
「うん」
「だから、洗剤をきちんと容器に入れ、ノズルをつけて使いやすくしよう——という訳だ」
「必要な魔力を、必要な瞬間に、必要な量だけ、必要な場所に集中して使えるようにする。そうすることで、効率も効果も何倍にも跳ね上げることができる」
「イメージはわかった。けど、実際どうすればいいの? 魔力を集めるっていうのなんとなくは分かるんだけど、一箇所に完全に集中させるとなると……」
「そうだな。まずは魔力操作とはどういうものかだが——」
「単純な身体強化自体は、体全体に魔力を回し活性化させるだけでもそれなりの効果がある。だから使える人間も多い。実際、魔力さえ持っていれば多かれ少なかれ無意識に身体能力が強化される」
「そうやって漫然と使っているだけでは効率も悪く効果も低いんだが、ほぼ全ての者はそれ以上があるとは考えてもいない。これも『そういうものだ』という固定観念ができてしまっているからだ。だから、いかに魔力を身体に充填できるか、魔力の総容量のみが重視され才能とされている」
「そんな状況だから、
「加えて
私は
「——それこそ、『圧倒的』な力になる」
「といっても、実のところ、そんなに難しく考える必要はない。
私の言葉に、あらら、という感で
気負いすぎてもあまり良い結果は出ないので、このくらいが良い。
「ただこの時、まず身体強化を発動し、その上で眼に魔力を集めるという動作を行なっているのが今の状態だ」
「全体の魔力を10、そのうち視力に使われてる魔力が1だとする。そして、遠くを見る時だけは視力に使われる魔力が無意識のうちに2になる。だがこの
「それを視力だけに10を回せるように、あるいは2の魔力のみ使い、あとはカットしてしまえるようになろう、ということだ」
「そうなれば、強化した箇所の効果が何倍にもなるし、逆に最小の魔力でこれまでと同様の効果を得られる。そのためにやらなければならないのが——」
私は
「第一段階」
「意識して魔力を必要なところだけに集中させ、ほかにはまわさない。それを『意識して』しっかり出来るようにする魔力操作の会得」
さらにもう1本。
「第二段階」
「といってもこれで終わりだが、魔力操作を完全に物にした上で、今度はそれを『無意識に』使いこなせるようになる」
「で、その方法だが——」
「これを使うといい」
私は小ぶりのナイフを1本、またVサインを出しつつ、二本の指の間に挟むように取り出す。
「これを? 全然魔力とか特別な感じはしないんだけど……」
収納空間を掌に展開し手品のように見せたのだが、残念ながら
ちょっと悔しい。
「私のカタナと同じ素材のナイフだ。この素材は、魔力を吸い、内に溜め込む性質を持っている」
「魔力を吸って、溜め込む?」
「ああ。つまり——
そう
日中でも十分眩く球状に輝くそれを、私は鞘から抜いたナイフで薙ぐ。
「あ。消えた」
正確には——魔術を魔力に分解し、吸い込んだのだ。
「こんな感じだ。魔術に使われていた魔力は、ナイフの内部に取り込まれている。取り込んだ魔力は外には一切漏れ出ないから魔力は感じない、という訳だ」
「…………ひとつ聞いていい? リュウ」
恐る恐る、といった感を出しつつ、
「ああ。なんだ?」
「これ、どのくらいの魔術まで取り込めるの?」
「そうだな……人間が使うレベルの『魔術』ならほぼ大丈夫じゃないか? とはいっても、直接取り込める状態、刃が魔力に当たる状態じゃないとダメだから、全てとは言えないが」
「っ! えーと、それでもそれって……」
「ほぼ完全な『魔術殺し』だな」
「っ!」
「それに、純粋に斬るための道具としても
「…………う〜わ〜。国宝の立場が……」
少しの間の後、聞くんじゃなかった——とでも言いたそうに声を出す
それでも、その声色には、「やっぱりか」と呆れるような、あるいは半ばそうだろうな、と考えていたような雰囲気も含まれている気がする。……それを諦観、とは思いたくはないが。
いずれにしろ、それが多少なりとも私を理解してきてくれている証左ではないか? などと考えるのは都合よすぎるだろうか。
まぁ、ともあれ。
「しかしだ。このナイフは、それがたとえ所有者であろうとも、触れたものから発する魔力を無条件に吸いあげる。そしてその容量は、人間が持てる魔力よりもはるかに大きい。となると、だ」
「このナイフを持つと、どうなるか」
考えれば誰でもわかることだ。
ひくり、と
「鞘にはそれを止める効果を施してあるが、不用意に抜けば、おそらくものの数秒で体内の魔力が枯渇して満足に立つことも難しくなるだろう。魔力量が少なければ、あっという間に意識を失う」
「……え〜と、リュウ? なんでそんなものを私に?」
たらり、とこめかみに汗を浮かべそうな表情で
「そんなものとは失礼な。ふむ……最初は、このナイフを抜いても魔力を吸い取られないよう、ナイフを持つ手以外に魔力を逃す練習だな。それができたら、ナイフを当てた箇所以外に魔力を逃せるように」
「そこまでクリアできたら、今度は逆に魔力を一箇所のみに集中させる。そして、身体のどこにでもすぐに集中させられるようになるまで繰り返し練習だ」
「魔力を必要な場所に集中させて身体強化、魔術を発動できるようになれば第一段階達成だ」
「それができるようになれば、細いラインを通すイメージで、ナイフに溜めた魔力を逆に吸い上げて使うことも可能になる」
「最終的には、ナイフを握っていても無意識で魔力操作ができるように、ナイフを使っての戦闘が行えるように、だな。いってみれば、そのナイフと同じような構造に自身の身体を鍛えなおすようなものだ」
「魔力を内に閉じ込め、無駄に外に漏らさなない。身体の表層は絶縁体のごとく。そして常に身体の中を魔力が循環し、いかなる時でもすぐに集中できる状態に、と」
「ここに至れば、第二段階もクリアだ」
「長い道のりだね……」
不安そうに
「
「賞品?」
「ああ。第一段階をクリアできたらそのナイフを、第二段階をクリアできたらメインになる武器を進呈しよう。カタナでも剣でも、あやの使いやすいものを選んでくれていい。もちろん、素材はこのナイフと同じものだ」
「使いこなせれば、これ以上に便利なものはないぞ? 壊れない、相手の魔術を無効化できる、無効化し吸い上げた魔力を逆に利用できる、しかも万一相手の手に渡っても使えないどころか弱体化、無効化できる」
「それは本当にすごいと思うんだけど……もらっちゃっていいの? それに、使いこなせるかな?」
「ふふ。もう受け取った後の算段とは頼もしい言葉だな」
無意識で言ったのだろうが、私の返しに
私はその仕草に口の端をあげながら言葉を続ける。
「むしろその意気だ。もちろん、喜んでプレゼントする。それに、そのナイフで魔力の扱いを習得できれば、魔力操作は万全だ。獲物の大きさは関係ない。もっとも、容量はかなり増えるがな」
「そのカタナくらい?」
「だな。試しに持ってみるか? 容量が大きいぶん、そのナイフの30倍以上の速さで魔力を持っていかれるぞ? 常人なら、触れた瞬間に意識を失うんじゃないか」
「なにそれこわい」
「ふっ。それだけ軽口が叩ければ十分だ。期待しているぞ、
私の言葉に、
「うん……そうだね。はーい。先生、私頑張ります!」
明るく元気な声につられ、私も笑顔になる。
「ああ。頑張れ、
「うん、ありがとう。リュウ」
——なお、すっかり話が講義と化してしまい失念していたが、
もちろん、見た目は極めて普通の、地味なものを。
〜おまけ〜
「先生、質問があります」
気持ちが和らいだのか、軽い口調で
「——どうぞ、
私も苦笑しつつ、先を促すよう言葉を返す。
「身体が動いても、思考が追いつかなくなったりしないのかな……? さっきのリュウの動きも全然見えなかったし……」
まだ具体的なイメージが浮かんでいないだろうこともあり、不安、というよりも不思議に感じているようだ。
だが、重要な疑問でもある。
「いい質問だ。もともと脳は、たとえ一瞬といえど『こうしてこう』と未来を予測しながら身体の動きを作り出している」
「脳というのは結構優秀でな。魔力も作用するのかもしれないが、身体が『そう動ける』のなら、それに対応して『そう動かせる』ようになる。でなければ、生き物はここまで進化していないだろうしな」
「それに、先ほどの私の動きは、魔力操作に武道の体術の動きも組み合わせている。今はまだあまり気にしなくてもいい」
「あと、そうだな。
「そうなんだ……慣れるってことでいいのかな」
「だな。何か気になったら今のようにその都度聞いてくれ」
「はーい、先生」
——————。
————。
——。
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