第3話 勇者様、この世界をお救い下さい
「初めまして、勇者様。この世界をお救い下さい」
それが、目の前の少女の第一声であった。
異世界から召喚された者に対して、いきなりそれはどうなんだ? 話の主導権を握るためにしても、もっと他の言葉があるんじゃなかろうか。
そんな益体もないことを考えている私に向かって、少女は白いブレスレットを恭しく差し出した。
「勇者様、まずはこの腕輪をつけていただけませんか? 勇者様は女神様の加護により私どもの言葉が理解できているかと存じますが、私どもには勇者様のお言葉が分からないのです。これは、勇者様のお話される言葉を私どもが理解できるよう翻訳してくれる魔法の道具なのです」
そう言われ、私は少女が差し出したブレスレットに目を向ける。
そこから感じるのは、つい今しがた目にしたものと同じ淀んだ魔力。
周りを見回すと、私とブレスレットを交互に見る者、私と視線が合うと急かすようにブレスレットに目を逸らす者がほとんど――の中に、目が合っても私を見つめ続けてくる者がひとりいた。
先ほど目についた女性――ブレスレットと同種の魔力を纏う、いや、魔力に纏わりつかれている者だ。
人間としての容姿に優れている――のだが、周りの者とは肌や髪の色が違う。「地球」で言えば、周囲のほとんどの者が白人種の容姿を持つ中、彼女だけは「日本人」的な容姿だ。
彼女自身は言葉を一切発さず、感情を表すような表情も作ってはいない。
しかしその眼差しは、まるで私に懇願するような、縋るようなものだった。
……そういうことか。
このような
目の前で笑顔を浮かべているこの少女は、この魔道具の本当の効果、目的を知った上で話しているのだろうか。
それとも、周囲の者から何も知らされておらず、ブレスレットの効果を言われたままのものと信じているのだろうか。
ブレスレットを嵌める前にひと言話しかけて反応を見てみるか――とも考えたが、手っ取り早く、そしてより深く探るには全て相手に合わせてしまった方が楽だろうと思い直す。
私は、私を見つめる彼女から目の前の少女に視線を戻す。
そしてブレスレットを受け取り、自身の手首に嵌めた。
その瞬間、私を凝視していた彼女が落胆と……絶望の感情をその瞳に浮かべるのを感じる。
――申し訳ないが、彼女には今少しだけ待ってもらおう。
「勇者様?」
「ああ。これで良いのかな? 私の言っていることが分かるだろうか」
「はい! わかります! ありがとうございます、勇者様!」
「改めまして、勇者様。私はペリシュ王国の第一王女、エールティア=ペリシュと申します」
王女の言葉に、私はあえて「日本式」の挨拶を返す。
「初めまして、王女様。私は――リュウ、と申します」
そう言い終えるとともに、軽く頭を下げる。
お辞儀、である。ただし、すでに敬意を払う気はほとんどなくなっているせいもあり、会釈程度の角度でだが。
本来ならば王族に対し不敬と言われる所作だろう。
しかし、何しろ私は「異世界から召喚されし者」という設定だ。
王女も、角度はともかくこの挨拶には覚えがあるらしく、不機嫌を顔に出すことなく言葉を続ける。
「リュウ様、と仰るのですね。よろしくお願いいたします。そのお名前と挨拶の仕方ですと、もしかして……ニホン、という国のご出身なのでしょうか」
「そうです。よくご存じですね。ですが……まず、いろいろとご説明をお願いいたします」
「あ、申し訳ありません!リュウ様があまりにも落ち着いていらっしゃるので私としたことが――」
――――――。
――――。
――。
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