第9話 あざとい少女

ヒーローショーの舞台袖では、赤いツインテールの髪に黒いメッシュを入れた、紅い眼の少女が悶々としていた。


(あいつ……ステージの上で何勝手な真似してくれてるの!?)


「あれ? なんか台本と違くないか?」


「そうだったか?」


「ああ。ただの斬られ役だったはずだが……」


舞台袖で困惑しているキャスト達を他所に、ステージ上の攻防は激しさを増していた。


「グハハハッ、防戦一方だなぁ! オラオラオラァ!」


「くっ……粗暴な攻撃のようで、反撃の隙がない……。秘宝バトルのスタイルそのものだな」


「これしかねぇんだよぉ! 悪いかぁ!」


「否、理(り)にかなった戦法だ」


「お、そうか? ガハハハッ」


褒められて機嫌をよくした山賊のような男は、攻撃の手を緩めた。その時、ステージ演出の白い煙と共に、恥ずかしいくらい可愛いアイドル衣装を来た少女が、観客に手を振りながら現れた。


「キラーン☆ キラキラ☆(キュート!) キラキラ☆(ラブリー!) 銀河ナンバーワンアイドル、アザトスだよー☆(アザトカワイイー!)」


あざとい少女ことアザトスは、コンサートであればコールアンドレスポンスが成立するのだが、今日の観客は子どもたちしかいないので、一人コールアンドレスポンスをしながら登場した。


「みんなー☆ ピンチになってるヴァルカンを、一緒に応援しよー☆ せーのっ!!」


「頑張れー、ヴァルカーーーン!」


なにか始まったようだ。


「あれあれー? 声が小さいぞー☆ 大きな声で、せーのっ!!」


「頑張れー、ヴァルカーーーン!!」


「もっと全力でー! せーのっ!!」


「頑張れー、ヴァルカーーーン!!!」


会場が一体化したことによって、ただでさえアウェイであった山賊のような男は、終わった。


「ハアッ!」


ヴァルカンは、短くも気合いを込めた一撃を放った。山賊のような男は、「グハァッ」と断末魔をあげ、膝から崩れ落ちた。


「安心しろ、峰打ちだ」


そう言い残し、ヴァルカンは日本刀をおさめた。その迫真の演技に、泣いていた子供たちも笑顔に戻り、一斉に歓喜が沸き起こった。

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