05
死んだ人間を動かすのがこれほどに大変だと思わなかった。
運転席からさっき自分が座ってた場所までだが全く思う通り動かせない。
たかが一個なのに以前何度もやったウォーターベットの荷運よりも
ずっときつく思えた。
ひえは全く手をつけないで俺の作業を見ている。
手にさっきケンを刺したナイフを持って。
「運転しろ」
ヘッドライトを付けて俺の家まで運転するあいだも
さっきのナイフをちらつかせて俺の横にぴったり座っている。
ケンはシートベルトをされて座ってるもんだから御行儀いいお子様みたいに見えた。
「何で俺ん家知ってるんですか」
「んなもん、この辺農作業で出入りしてりゃ何だって分かんだろ。金のありかからババアの欲求不満度まで筒抜けだよ、この辺は」
おそるおそる尋ねると、ひえは糞に話しかけられたみたいな顔をして答えた。
「使ってない空間を有効利用してやんだからありがたく思えよ、カス」
つい数時間前まで仕事をしていた畑を通りすぎ、家に着いた。
「ぎりぎりまで家によせろ、荷物濡らしたらその度にてめえを刺すからな」
トラックの荷台を空けると中から独特の甘い香りが漂ってきた。
その濃密な空気にどれだけの量が積み込まれてるのか、濡らさずに運ぶ事ができるのか不安な気持ちになった。
と、荷物の中から何かの瓶とともに何かが転がり落ちてきた。
でかい酒瓶を抱えて転がり落ちてきたのはダニだった。
酒でかなり頭がとんでる上に、この空気の中にいたもんだからキマりきった笑顔。
土砂降りの雨の中にほおりだされた事すら気が付いていない様子だった。
「誰だこいつ…おい、中のもん荒らされてないだろうな、確認しろ」
ひえに脅されながら荷台を確認すると一番大きな包みから小便の臭いがした。
包み隠さず報告すると
「んっだてめえ、ブツに傷付けやがって殺すぞっっら!」
とダニに蹴りを入れまくっていた。
それを静かに除けながら、荷物を運び出して納屋に収めだした。
ダニは蹴られてるのが分かってるのかいないのか、ただ酒瓶を抱えた丸まった姿勢でひえにされるがままに転がっている。転がりすぎて俺の家の敷地から出てしまい
今トラックできた泥だらけの道まで行っても
「もっ、もっ」
「おっっふぁ、あ、あ」
みたいな音しか出さずに笑顔を浮かべている。
ひえはそんなダニが面白いのか、笑いながら蹴ったりかかとを落としてみたりと
様々な足技を使っていたぶり続けていた。
俺の足音にひえは振り向きもせず
「とっとと運べよクズ、まだやる事あんだからな」と言った。
右ナナメ45度、根っこ五センチがヤワだからそこ目がけ
ひえの首がとーんと飛んで行った
錆びだらけの鉈を持った俺が立ち尽くしていると農場主が暗闇から表れた
農場主は表情なく俺を見る
見返す俺もきっと表情はなかっただろう
俺は方言で、なんとかなるよと言ったはずだ
じいさんは黙っている。
俺は納屋に戻ってでかい袋を二つ持ってきて爺さんに押し付けた
「問題ないさ」
じいさんは笑顔を見せ
「問題ないさ」と優しい方言で答えた。
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