第23話 紅茶とサンドイッチ

 麗蘭は、目を覚ました。


(そういえば…昨日、わたし助けてもらって、あの夫婦の家に…)


 目を擦りながら窓を見ると、外はカラッと晴れていて気分がよかった。

 喫茶店を経営している夫婦が優しかったから良かったものの、

 これから先わたしはどうしたらいいんだろう。麗蘭は途方に暮れていた。


「入るわよー?」

 桃がドアをノックして入ってきた。

「あっ、起きてたのね。おはよう」

「お、おはようございます…」

「よく眠れた?」

「少しは…」

「そっか…」

 桃は眉を下げて言った。

「あの…わたし、どうしたらいいでしょうか?」

「どうしたらって?」

「その、ご迷惑をかけてしまうことになってしまうかもしれないし」

「そんなこと気にしなくていいわよ。特に行く宛がないのなら、いつでもいていいんだから」

「でも…」

「安心して。いつでもいていいの。ゆっくりしててちょうだい」

 桃の笑顔に、麗蘭は救われた。

「よろしく、お願い、します…」

「はい、よろしくね」

「桃!麗蘭ちゃん!ご飯できたぞ」

 春彦が入ってきた。

「わかった!麗蘭ちゃん、行きましょ、こっちよ!」

 桃は笑顔で麗蘭の手を引っ張り、麗蘭の部屋をあとにして階段を降りた。


 1階の真四角の長方形をしたテーブルに、桃と春彦と麗蘭が座った。

「麗蘭ちゃん」

「…っ、は、はい…」

 麗蘭は驚いてびくっと肩を揺らした。

「ああ、ごめん。驚かせちゃって」

 春彦が、顔の前で両手を合わせている。

「もう!だめじゃない、春彦!」

「ごめんって。ごめんね?麗蘭ちゃん」

「いいえ、大丈夫です」

「それならよかった。はい、これは麗蘭ちゃんの分」

 お礼を言って春彦から受け取ったのは、皿に置かれたサンドイッチ。ハムサンドとタマゴサンドだ。

「美味しそう…」

 麗蘭が思わず零した言葉に、桃と春彦は笑みを零した。

 麗蘭が美味しそうにサンドイッチを頬張る。とても幸せそうな顔をする麗蘭を、

 桃と春彦は目を細めて見ていた。

「美味しい?」

「はい、おいひいですう、うぐっ、」

「あ、あらあら!大丈夫?」

 桃が急に話しかけたことに驚いた麗蘭は、

 口に入れていたサンドイッチを喉につまらせそうになった。

 桃は、麗蘭の隣で背中を擦っていた。

「はあ…」

 麗蘭が溜息をついた。

「ごめんね?驚かせちゃって…」

 麗蘭が桃を見ると、とても申し訳なさそうな顔をしていた。

「ごめんなさい、わたし驚いてばかりで…」

「いいんだよ。なにせ、知らない人とこうやって食事をしてるんだ。

 知り合いならまだしも、他人とこうやって食事するだなんて、怖くて仕方ないよな。ごめんな」

 春彦が謝った。


 麗蘭は首を横に振った。

 そんなことはありません、と。

「わたし…その、男の人が怖くって…春彦さんはとても優しい方だってわかっているのに…」

 麗蘭の手は少しだけ震えていた。

「いいんだよ、ゆっくりここの生活に慣れていけばいいんだから。ゆっくりしてていいんだよ」

「でも」

「だーいじょーぶ!まずは、しっかりご飯食べて栄養つける!」

 はい、と麗蘭は頷いた。


 麗蘭は、サンドイッチを間食し紅茶を飲んだ。

「あら、どうしたの?」

 きょろきょろと喫茶店の店内を見渡す麗蘭を見て、桃が言った。

「素敵な…」

 素敵な喫茶店だなあ、と麗蘭は思った。昔ながらの喫茶店というレトロ感もあるけれど、お洒落な置物や時計、壁紙の模様などが素敵だな、と麗蘭は思った。

「ありがとうな、麗蘭ちゃん」

 春彦は照れていた。

「なんで照れんのよっ!」

 桃が頬を膨らまして、向かいに座っていた春彦の頬を手で思い切りつねった。

「いてててて!いたいたい!」

 春彦がそう叫ぶと、桃はすかさず

「大袈裟なのよ!まったくもー!」

 とばっさり斬り捨てる。

 そんな仲睦まじい戸田夫妻を見て、麗蘭は笑った。

「ふふふ」

 麗蘭の笑った顔は、とても美しかった。桃と春彦は目を丸くして麗蘭を見ていたが、

 すぐに笑いだした。



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