第19話 不調の訪れ

 守は、午後十一時に寝床に入った。

 美優は既にすやすやと寝ていて、その寝顔を見るだけで幸せな気分になる。


「可愛いなあ…」


 ぷに。


「ん〜」


 美優は寝返りを打とうとしたが、守に阻止された。

 美優はぐっすり眠っていて、守の行動に気づいていない。


 ぷに。ぷにぷにぷにぷにぷに。


 守は、美優の柔らかな右頬を指でつん、とつついた。


「あ〜、可愛い。なんて柔らかいんだ」


 守はそう言いながら、夢の中にいる美優を見つめた。

 美優は、明日から仕事だ。あまり意地悪すると睡眠が妨害されてしまうかもしれない。


「よーし、僕も寝るかあ…」


 守は、美優の背中にぴったりとくっつき眠りに落ちた。




 翌朝ー美優は朝早くに目が覚めた。

 というのも、守に迷惑をかけないようにと無理をして起きたのだ。

 美優が目を覚ましたのは朝の三時。

 すごく眠くてもう一度寝ようかと思ったけれど、

 二度寝してしまったらまた寝てしまうと思い美優は起きることにした。


「ううー、眠い〜」


 美優は目を擦りながらもリビングへと向かった。

 テーブルに座って額をくっつけると、ひんやりとした感触が美優を癒した。


「ううー、眠いけど、寝ないぞ…」


 そう言って美優は、椅子から立ち上がり朝食の準備を始めた。


 守は、無意識に美優の温もりを求めて布団を手探りで探すものの、

 美優の柔らかな感触はなく、シーツだけがそこにあった。

「ん…あれ?みーちゃん?」

 守が目を開くと、くっついていたはずの美優がいなかった。

「ん!?みーちゃん?」

 守はがばっと起きあがり、リビングへと向かった。


「あれ?良い匂い…」


 守はキッチンへと向かった。

 守は目を疑った。

 そこには信じられない光景があった。

 あの、朝にとても弱い寝起きの悪い美優がしっかりと起きている。

 しかも、朝食を作っている。


 これは、夢か?


「あ、守くん。おはよう」

「ん?ああ…おはよう」

「どうしたの?」

 その場に固まって美優を見る守を、美優は笑った。

「そんな物珍しそうな目で見ないで」

「いや、だって…珍しいな。みーちゃんがこんな朝早く起きてるだなんて」

 守は、午前三時三十分と表示されていた時計を見た。


 何故こんなに早く起きた?

 いや、なぜこんなに早く起きれた?

 起きれたのに今まで起きてこなかったってことか?

 わざわざ僕に構って欲しくて…ってわけでも、ないよな?

 守はそんなことを考えながら、美優を見つめた。





「守くん、できたよ」

 美優は、テーブルに朝食を持ってきた。美味しそうだ。

「お、美味しそうだな」

「上手く、できたかどうか分からないけど…」

「大丈夫だよ。食べよ」

「うん」

 美優と守は、美優が作ったトーストを食べた。

 美優はバターをたっぷり塗って食べる。守は、ジャムを塗ってたべる。

 二人は微笑みながら朝の朝食を終えた。


 ばたばたしない朝。

 ゆったりとした朝の時間。

 こんなに早く起きると、こんなに楽しい時間を過ごせるのか、と守は頬を緩ませた。

「おいしかったよ」

「ありがとう」

 美優の照れた顔は、一段と可愛い。

 守は、そう思いながら両手を思い切り真上にあげた。

「眠い?」

「うーん、ちょっとだけ」

 守は笑った。


 時間というものはあっという間に過ぎていく。

 あんなに早く起きたのに、もう行く時間になってしまった、と守は残念そうな顔をした。

「みーちゃん、いってくる」

「うん、いってらっしゃい」

 美優は守を玄関まで見送った。



「そろそろ私も準備しなきゃ…」


 そう思った時、ぐらりと視界が揺れた。


「ん、あれ……?」


 しばらくして揺れはおさまったが、

 美優は首を傾げながらもカフェ・テリーヌへ行く準備をした。



 カフェ・テリーヌでは、しっかりと仕事をこなしていた美優。

 以前と同じく、忙しくも楽しい毎日を過ごしていた。


「みーちゃん!アイスコーヒー頼むわ!」

「はい!わかりました!あちらの席におかけになってお待ちください」


 カフェ・テリーヌは今日も明るく営業中!


 それが、ここの営業文句。


「みーちゃん、勘定な。ありがと」

「はい、確かに。ありがとうございました!」



「みーちゃん、もうあがっていいわよ。お疲れ様!」

「ありがとうございます!」

 桃がにこにことしていた。

「やればできるじゃないか、早起き」

 春彦も微笑んだ。

 営業時間ももう終わるとあって、客はもういない。

「はい、失礼しまー」


 その時、視界がぐるりと回った。

 まずい、と思って美優は咄嗟にカウンターに掴まった。

「みーちゃん、大丈夫か?疲れたんじゃないのか?」

「いいえ、そんなことありません…」

「そう?なんか、クマできてない?」

「うん、目にクマできてるな。よーく見たら」

「気のせいですよ」

 美優は笑ったが、目眩が強くなってきた。

「…っ、」

「大丈夫!?みーちゃん!」

「大丈夫です…すぐ治りますから」

「いや、でも…」

 桃は心配そうに美優の顔を覗き込んだ。













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