第15話 寝坊の常習犯
「今日も遅くなるから」
そう言って、守は先に行ってしまった。
「守くん…」
美優は、玄関のドアが閉まると同時にぺたんと床に座り込んでしまった。
しゅんとしながら、美優は朝ごはんを食べ終えた。
片付けを済ませ、今日も仕事へと向かう。
なんとか、ギリギリ間に合いそうー
そう思っていたが間に合わず、営業時間が終了してから戸田桃と晴彦にこっぴどく叱られた。
「みーちゃん、あなたは時間にルーズすぎるの!
いくら親戚だからって、甘えてばかりいないでよね。
守くんといて楽しいのはわかるけど、こうも寝坊ばかりされて遅刻されたんじゃ困るのよ!」
「みーちゃん、桃の言う通りだぞ。約束はちゃんと守らないといけないだろ?
それと同じだ。そのくらいは小学生でもわかることなんだぞ」
「ごめんなさい……」
美優は頭を深く下げた。
美優は、寝起きが悪くてなかなか起きられず周りに迷惑をかけてしまっていることは、
よくわかっていた。
改善しようと努力はしていたがなかなか直すことができず、戸田夫妻や守に甘えてしまった。
「約束を破られたら悲しいだろ?それと同じだ。今後はこのようなことがないように」
「はい……」
美優は沈んだ気持ちで、家路をとぼとぼと歩いていた。
私、みんなに迷惑かけてるんだ。
私が朝に弱いせいで、起きられないせいで桃さんにも春彦さんにも迷惑がかかってる。
守くんにも毎朝迷惑、かけてるんだ。そう思うと、美優は自分に腹立たしくなった。
「なんで私、起きれないんだろう」
みんなができることが、私にはできていない。どうしてなんだろう。
家に着いた。鍵を開けて中へ入ると、珍しく電気がついていて話し声が聞こえた。
「守くん…?」
美優は、守が帰ってきているのだろうかと思い恐る恐る
リビングへ足音を忍ばせて歩いていくと、そこには守がいた。
しかし、そこにいたのは守だけではなかった。美女が二人。
しかも、その二人には見覚えがあった。
保田 由美 と那須田 千恵子。
守はファッションショーも手掛けており、そのショーに出演していたモデル二人。
業界では有名らしく、実力派モデルとしてメディアでも取り上げられるほどの人気だ。
どうしてそんな二人がここに…?
美優は動揺した。
よりによって、こんな時に会うだなんて。
守はなぜ自分たちの住む家にこの二人を呼んだのかが、全く理解できなかった。
自分以外の女性を家にあげているだなんて、ショックだし悲しい。
こっぴどく戸田夫妻に叱られてへこんでいた美優にとっては、耐えられない仕打ちだった。
「あ、みーちゃんおかえり」
「た、だいま…」
二人の痛い視線が突き刺さる。
「あらー?彼女さん。お邪魔してまーす」
那須田がにやりと笑った。
美優は一歩後ずさった。
「ふふ、こーんにちは」
保田の笑みに、思わず美優は顔が引きつった。
「あ、あの、守く…」
「ごめん、今大事な話をしてる。しばらく、リビングに入ってくるの禁止。
仕事の話だから邪魔しないで」
「…!」
美優は目を丸くした。
守にこんなふうに冷たく言われたのは初めてで、ショックだった。
那須田と保田は不気味に笑っていた。
美優は何も言わずに走り去った。
いたたまれなくなった美優は、鍵を開けて外に出た。
しばらく、外をぶらぶらしていよう。そう思った。
美優は、悲しかった。
私はやっぱり、邪魔者なのかな。
一番迷惑をかけてしまったのは守くんだし、朝全く起きない私を嫌いになったんだ。
美優はそう思った。
仕事が終わってすぐ怒られて悲しかったのに、更に追い討ちをかけるように
守に冷たいことを言われ、美優はその場に座り込んだ。
「あれ?美優ちゃんじゃん」
降ってきた声に美優が顔を上げると、警察官の松田が立っていた。
「どうしたの?こんなところで」
「私、どこにも帰れない」
「どういうこと?」
松田はしゃがんで、美優と同じ目線で向かい合った。
「守くんと喧嘩しちゃって。それに、仕事でちょっと失敗しちゃってすごく怒られて。
守くん、仕事で忙しくて私になんて構ってくれないし」
「そっか…」
「私のことなんて、どうでもいいんです」
「そんなことないよ。あいつは、美優ちゃんを大切に思ってるよ」
「いいえ。私、守さんに迷惑ばかりかけているから申し訳なくて」
「改善すればいいじゃん」
「できないんです。改善しようと頑張ってはいるんですけど、なかなか直らなくて」
「直らないって何が?」
「寝坊です」
「寝坊!?」
「はい」
「ははは、寝坊か」
美優は俯いた。
「ああ、ごめんごめん。でも、起こしてくれるんだろ?」
「はい。でも、守くん仕事で忙しくて朝早いから…」
「あー、手を焼いているんだな」
「迷惑になっちゃうから、私なんかいなきゃ」
「何言ってるんだよ。とにかく、ちゃんと話し合って少しずつ良くしていけばいいじゃないか」
「そうですね…」
「はい、帰ろうね」
「はい。ありがとうございました」
美優は松田に頭を下げた。
松田は、美優が見えなくなるまで見送った。
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