第14話 慌ただしい朝
しばらくの沈黙の後、守は美優を見た。
「なんだよ、寝てるのか?」
「うう〜ん」
美優は、守の胸でぐっすりと寝ていた。
恐らく、眠いのを我慢して守を待っていたのだろう。
「ごめんな、いつも遅くなって」
守は、すやすやと寝息を立てている美優の髪を撫でた。
「休みが取れたら…どこか行こうな」
美優は、あまり遅くまで起きていることはない。
朝が弱いから早めに寝なければいけないのだ。
守は美優と住むようになって初めて気がついたのだが、
美優は朝が弱くてなかなか起きられないのだ。
夜遅くまで起きてしまうとなかなか寝付けず、
朝になっても全く目覚めることもなく夢の中にいるのだ。
「みーちゃん、起きて」
「……」
何度起こしても、全く気づかずに寝てしまう。
寝過ごして遅刻してしまうこともあるくらいだ。
戸田夫妻が優しいからまだ多少は許してくれるものの、
これが厳しい人達だったらと思うとぞっとする。そう守は思った。
美優の寝起きの悪さは深刻で、
僕が何度起こしても揺さぶってもなかなか起きない。
こんなに目が覚めない人を見たのは初めてだ。
守は毎朝、そう思いながらため息をつく。
守はいつも、寝起きの悪い美優に手を焼いているのだ。
美優は、目覚ましを何個かけても全く起きない。
耳元で何度も何度も、じりりりりりりと鳴るめざましをよそに、美優は全く目を覚まさない。
それどころか、布団を被って夢の中に潜ってしまう。
そんな調子なので、守は頭を痛めていた。死活問題だぞ、これは。
仕方ない、と守は起きない美優が掴んで寝ている布団を剥ぐ。
すると美優は大抵起きる。
「んううう、寒い。ふとん、ふとん〜」
そう言いながら最初はまるまって動こうとしないが、少しずつ目を開けて背伸びをする。
「ん〜〜」
目を擦りながら、美優は渋々起きてくる。そう、これが日常。
それで起きてくれるならまだ良いのだが、本当に酷い時はそれでも起きない。
まるまったまま、むにゃむにゃ言いながらぐっすりと眠っている。
そんな時、守は美優に跨り顔を近づける。
「早く起きないと……キスマークつけちゃうよ?どこにつけようかな…」
そうすると、美優はぱっと驚いたように目を見開いてがばっ、と起きようとするが
守に阻まれて起きようにも起きられない。
「起きちゃった?…残念」
そう言って守は笑いながらも、『遅刻しちゃうよ。早く用意して』と言い、美優から離れる。
すると美優は目覚まし時計を見て慌てて準備をする。
そんな感じで、いつも二人の朝はばたばたしている。
おかしいな。
本当なら朝は甘々な時間になるはずなのに、と守は寝起きの悪い美優の寝顔を見て思う。
そんなことを言っている暇はない。守も美優も朝は早い。
守は朝には強い方だが、それに反して美優は朝に弱い。
何も言わずにいたら、お昼まで起きないんじゃないかと思ってしまうほどに。
朝ばたばたするくらいなら、もうちょっと早く起こそうかと何度思ったことか。
そう守は天井を見上げる。
「でも寝顔可愛いんだよな…」
結局、可愛い寝顔が見たくて起こすのをためらってしまう。
そしていつも朝はばたばたしてしまう。その悪循環。
「布団を剥いだときの、まるまったみーちゃんも可愛いし…」
そう思っても、起こさなければいけない。そして今日も、守は美優を起こす。
「起きて〜、みーちゃん」
「ん〜〜」
布団をがばっと剥ぐ。
「んう、ふとん、」
そう言いながら手を伸ばした美優を見て、守は美優の手をぐっと引っ張り、美優を起こした。
「むうう、ん…」
寝言すらも可愛いなと思った守だが、
美優の手を引っ張り起こしたにも関わらず、美優は起きずに目を閉じたままだ。
美優は温もりを探して守の胸に擦り寄った。
「んふふ〜、あったかい〜」
可愛い。可愛いが、さすがにもう起きないと間に合わない。
守は心を鬼にして美優を自分の胸から剥し、美優から離れた。
守はリビングへ行こうとしたが、
後ろから甘い声が聞こえてきて守の足が止まってしまった。
「んううー、待ってよ、守く…ん、むゃにゃ」
守が振り返ると、美優は布団に寝そべっていた。寝そべって守の名前を呼んでいる。
「…ったく、何だよ。むゃにゃ、って…」
守はがしがしと髪を撫でて、仕方ないなと言わんばかりに美優をまた揺さぶり始めた。
「起きて。起きないなら、置いてくからね、みーちゃん」
少し冷たく言い放った守の声に、美優ははっとした。
守は、リビングへとすたすた歩いていってしまった。
目を擦りながら布団から立ち上がり、美優は小走りで守を追った。
「守くん…おはよう」
「早くして。間に合わない」
「わ…!もうこんな時間!?急がなきゃ」
美優は相変わらず呑気で、時間にルーズなところが少しだけある。
「はあ…遅い」
「守くん…」
立ちすくむ美優に、早く食べなよ、と呆れたように言う守。
「うん、いただきます」
美優は、守が作った朝食を食べた。
「じゃ、あと頼むね」
「ええっ!?守くん?」
美優は目を丸くして言った。
「みーちゃん遅すぎ。僕は先に行く。片付けとかよろしく」
「待ってよ、守くん」
美優は慌てて立ち上がって玄関へと向かう守を追いかけた。
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