第13話 寂しい思い

 美優は今、時計と睨めっこしている。


「うーん」


 時計の針が午後十時を指そうとしていたその時、がちゃっと玄関のドアが開いた。

「ただいまー」

 美優は玄関まで走って、守を迎え入れた。

「守くん、おかえりーっ!」

 美優は守にぎゅっと抱きついた。

「ただいま、みーちゃん」

 守は、美優を抱きしめ返した。

「遅かったね…最近忙しいの?」

「まあな。程よい忙しさ、かな」

 守は苦笑した。


 美優は守が持っていた鞄を持った。

「いいよ、僕のなんだから僕が持つよ」

「ううん。持たせて。…おもっ!」

「重いだろ?」

 美優が意外と重かった守の鞄を持っていたら、『だから言っただろ?』と

 守に笑われてしまった。

 そして美優の手にあった自分の鞄を、守は自分の手へと戻した。

「だって、こんなに重いとは思わなかったんだもん」

 美優が唇を尖らせると、守は美優の上唇を指でつん、とつついた。

 美優は目をぱちぱちさせながらも、頬を染めていくのが、守にはすぐわかった。

 リビングに向かった守は、ソファーに身を投げた。

 ソファーには守の体とソファーに乱雑に放り投げられた守の鞄があった。

「お疲れ様」

 美優は守の隣に座って、じっと守を見ていた。

「大変なんだね…守くんのお仕事って」

「んー、まあね。でも、楽しいよ。やり甲斐あるし」

「そうなんだ…」

 私には無理だな、と美優は思った。

「あー!疲れた。みーちゃん、癒してくれよ」

「えっ、癒すって…何をすればいいの?」

 美優は首を傾げた。

「うーん、そうだな」

 そう言ってちらりと美優を見たあと、

 守はにやりと笑った。

 守は急に立ち上がり、美優の膝に頭を預けた。


「もう…膝枕?」

「うん」

 守はそれだけ言って、美優をじっと見つめた。

「ここからの景色、最高だな」

「もうっ!守くんの意地悪!」

 美優は怒って、ぷいっと顔を背けてしまった。

「ごめんって。ね、みーちゃん。許して?」

「いや」

 美優はなかなか譲らない。

 守は、起き上がって美優の膝から離れた。

 美優が一瞬寂しそうな顔をしたのを、守は決して見逃さなかった。

 守は美優の隣に移動し、美優を腕の中に閉じ込めた。


「みーちゃん、許してよ」

 守は切ない声で美優に言った。

 美優は答える代わりに、ぎゅっと守を抱きしめ返した。

「お仕事、たくさんあるの?」

「うん。いろいろとね。お陰様で」

「帰るの、今日みたいに遅くなる?」

 美優は更に力を込めて、守の服をぎゅっと握った。

「うん、遅くなりそう。早く帰れるときは帰るけど、

 基本的には今日みたいな時間に帰ることになるな」

「そっか…」

 美優は守の温もりを感じながら、目を閉じた。



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