第11話 なくてはならない存在

 しばらくして救急車が到着し、美優は病院へと運ばれていった。

 美優は階段から落ちたが、大した怪我もなく命に別状はなかった。

 左手に包帯を巻いてはいたが、異常はなかった。

 しかし、美優の心の傷は思ったよりも深かった。

 美優は守に甘えようとはせず、むしろ守から遠ざかっていた。

 美優は守と距離を置いていた。

 守は毎日美優を病院に見に来たが、黙って窓の外を眺めているだけで

 守とはほとんど話もしなくなった。


 美優は心を閉ざし始めていた。

 日々美優の頑なな態度に触れ守は切なくなったが、毎日声をかけ続けた。

 守は美優を献身的に看病していたが、美優とはまるで他人のような、気がしていた。

 そんなある日、守はいつものように美優を見に病院へ来たのだが、

 立ちくらみを起こし、倒れた。原因は疲労だという。

 守は無理を言って美優の同じ病室にしてくれと頼み込み、

 無事美優と同じ病室で横になることにした。

 守は美優の寝顔を見ていた。純粋で可愛い寝顔。

 しかし、美優が起きると頑なに戻ってしまう。

 どうすれば元に戻れるのか。

 守は悲しみを堪えながらも、すやすやと眠る美優を見詰めていた。



「お、起きたかい?みーちゃん」

 美優が目を覚ました。

「……守、さん」

 美優は目を伏せた。

「おはよ」

「おはようございます…どうして、ここに」

「疲れてさ、倒れちゃった」

 守が笑った。

「え、っ…」

 美優は目を見開いた。

「大丈夫。少し寝たら、元気になったし」

「それって、私のせい…ですよね」

「違うよ」

「いいえ、毎日こうやって無理して来てくださってるのに…」

 美優は俯いた。

 そんな美優を見て我慢ができなくなり、守は美優のベッドに潜り込んだ。


「守さん…」

「いけない子だね。さん付けで呼んじゃダメだと、何度言ったかな」

「そ、れは…」

「いいかい。僕は君しか愛していないし、僕は本気だ。

 僕と別れるなんてことは、絶対に許さないからね。

 僕の手を離したら許さない。僕の手をしっかり握っていること。

 どんなときも僕の手を離しちゃいけない。ずっと僕の隣にいてくれ。」

 守は美優の手をしっかりと握った。

「守くん…でも、でもっ…私…」

 美優は涙を零した。

「大丈夫だよ。君がいないと、僕は生きていけない。お願いだよ…みーちゃん」

 守は美優を見詰め、優しく抱きしめた。

「守くん、私……守くんと釣り合わないけど、ずっと一緒に居たいです。

 離れたくない…こんな私と一緒じゃだめかもしれないですけど、

 私、守くんと離れたくない。

 私が離れようとしたら、守くん離さないでください…!守くん…」

 美優は守に抱きしめられながら、目を閉じた。

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