第9話 不均衡な二人

一方美優は、怒りよりも悲しさで心が痛んでいた。

すると、桃が美優の部屋に来た。

「お客さん来てるわよ」

「誰ですか?」

「わかんない。女の人だったけど」

「女の人?」美優は不思議に思いながらも下に降りた。

すると、カウンター席には2人の女性がいた。

すらっとしていて、いわゆるモデル体型だ。そして美人で色気も愛嬌もあった。


「あなた?美優さんっていうのは」

一人の女性が言った。

「はい、そうですが…どちら様でしょうか?」

「私は、beauty fashionsの保田由美。」

「同じく、那須田 千恵子」

もう一人の女性が言った。

「beauty fashions …?」

美優は首を傾げた。

「あらまあ、知らないのね。ファッションには興味はないの?

…まあ、あなたみたいな人には縁のない世界か」

那須田が嘲笑うように言った。

「女の子だったら、誰もが知ってる有名ファッションブランドよ。

大手アパレル会社。知らない?…まあ、知らないってことは、女としてどうなのかしらね」

保田が呆れたように言った。

「あ、あの…おふたりは、どうしてここに…」

「私はね、この会社でモデルとして活動してるの。もちろんこの子もよ。

あなた、守さんの彼女でしょ?」

保田が美優を睨んで言った。

「えっ、どうして、それを…」

「守さんはね、私たちの上司で憧れの存在なの。

今は、モデルたちが出るショーを手がけていて、とても忙しいわけ。」

「そうだったんですか…」

「知らなかったの?かわいそうに」

那須田が笑った。

「彼氏のこと、なーんにも知らないんじゃないの?

それに、付き合ってるって言ったって最近会ってないんですって?

彼女って言えるのかしらね、それって。遊ばれてるんじゃないの?

まあ、あなたのことを本気にするほど、守さんは馬鹿じゃないけど」

保田が間髪入れずに言い放った。

「お金目当て?それとも、イケメンでモテるから狙ったの?

よくもまあ、色気もないしブスなのに、うまくいったわね?

守さんのこと、たぶらかして何が楽しいの?」

那須田が美優に迫った。


「それに、あなた、守さんを困らせてるじゃない」

那須田が美優の肩を掴んだ。

「えっ、こま、らせてる?」

美優は困惑した。

「そうよ。あなた、守さんにひどいこと言ったんですってね。

たかが一回デートをドタキャンされたからって、守さんに当たることないじゃない!

守さん、すごく落ち込んでたし元気なかった。

それに、いつもはしない凡ミスまでして。あなたのせいよ!どうしてくれるのよ!」

那須田は美優を揺さぶった。

「そうよねー。一回くらいデートをドタキャンされたからって、

そこまで怒らなくてもいいんじゃないの?そういう重い人、嫌いだと思うわよ、守さん。

まあ、あなたみたいな人、守さんが相手にするはずないわよね。

だって守さんモテるし、あなたみたいな人と付き合ってるだなんて思ってないわよ。

遊びよ、遊び。可哀想ね、あなたも。」

保田が席を立った。

「あ、そうそう!ひとつ言っておくわ。さっさと守さんと別れなさいよ、身の程知らず」

保田はドアの方へと歩いていった。

「守さんをこれ以上悲しませたりしたら、許さないから。

釣り合わないのよ、あなたと守さんは。別れなさい?」

那須田は去っていった。那須田の恐ろしいほどの高笑いが響いていた。

美優は、その場に崩れ落ちた。桃と春彦は美優に駆け寄った。

「大丈夫か!?ひどいなあ」

「みーちゃん、気にしちゃダメよ。ね?」

美優の背中を、桃はさすっていた。


それから、美優は部屋に入り寝る準備をした。

さっきのことが頭から離れない。確かに、もしかしたらそうなのかもしれない。

守のようなエリートで素晴らしい人が、私なんかを相手にするはずなんてない。

美優はそう思い、守と距離を置くことにした。美優は守に電話をかけた。

「もしもし、守さん」

「あ!みーちゃん?みーちゃんかい?」

「はい」

「あー、よかった。何度も電話したけど出ないからさ、心配してた。よかった〜!」

守は、胸をなでおろした。

「守さん、」

「こら、さん付けはだめだろう?」

「守さん、今朝はごめんなさい。寂しくてなかなか会えなかったから、

ついあんなこと言ってしまって…ごめんなさい。」

「ん?ああ、いや、良いんだ。

僕の方こそ、仕事ばかりで君を構ってあげられなくて、ごめん。

明日は、なんとか都合つきそうだよ」

「いいんです、もう。」

「え?みーちゃん?」

「私、もう、」

美優は泣きそうになるのを堪えた。

「みーちゃん?どうした?」

「もう、あんな我儘、言いません。それに、仕事忙しいんでしょう。

だったら、仕事が落ち着いてからでいいです、会うの」

「みーちゃん?どうしたんだよ。あんなに会いたがってたのに」

「我儘ばっかり言ってちゃ、バチが当たりますもの。…じゃあ、切りますね」

「みーちゃん、待って!…何かあった?」

「いえ、なにも」

「そうかい?…でも、いつもと違うような…」

「切りますね、仕事頑張ってくださいね。」

「えっ、ちょ、みーちゃん!」

電話は切れた。

「……これで、いいんだ、これで……」

美優は携帯を机に置き、床に座り込んだ。

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