第4話 破れた恋
そんなある日の夜ーカフェにいつも朝にモーニングセットを頼む常連客、
美優のファンなのだが、美優は平田の好意に気づいていない。
平田は片思いだったが本気だった。
平田は、料理を食べながらも一生懸命働く美優を見詰めていた。
すると、店に客が入って来た。
「いらっしゃいま…あ!松田さん、いらっしゃいませ…!」
「今日は、仲間を連れて来たんです」
そう言って、優介は仲間とともにカウンター席へ座った。
仲間といっても、殆どが女性で、美人で色気のある女性ばかり。
優介は女性たちに囲まれて満更でもない顔をしていた。
恐らく、職場の人か知り合いかだろう。とても仲が良さそうだ。
そんな優介たちを見ていられなくなった美優は、注文を受けた後、
逃げるように厨房へと入っていった。
厨房から出て来た美優は、優介たちの前に料理を運んだ。
「美味しそう!優介さん、ありがとうございます!」
「いいんだよ、みんな食べて」
「はーい!」それから女性たちは優介と楽しく談笑していた。
女性たちは皆、優介を見詰めていたが、
特に優介と仲が良いのは優介の左隣に座った女だった。
「真奈美ちゃんって、可愛いよな」優介が酒を飲んで言った。
優介は酒は強い方だが、真奈美の美貌に酔っているのか、少し酔っている。
「もう、優介さんたら!…でも、嬉しい」真
奈美は、優介の肩にもたれかかり優介の腕に自分の腕を絡めた。
優介は鼻の下を伸ばしていた。そんな優介に美優は悲しくなったが、
こんな美人で愛嬌のある人には敵わないという気持ちもあった。
いたたまれなくなった美優は、しばらく厨房の方にいた。
なかなか出てこない美優に、平田は心配になった。
桃は美優を心配していた。
女性たちは帰っていったが、優介はまだ帰らない。桃は厨房から出て来た。
「優介くん、あなたね、なにやってんのよ。
別に女の子たちとイチャイチャするのはいいけど…ちょっと考えてよね」
「あー、ごめんなさい、でも、僕、あの娘、気になってて」優介が言った。
「わからなくはないけど…」桃が美優を心配して言った。
優介は机に伏して寝てしまった。美優がやっと厨房から出て来た。
美優は心なしか、悲しい顔をしている。そんな美優を見かねて、平田は美優に近づいた。
「みーちゃん、大丈夫?」
「はい、大丈夫です…」
「大丈夫じゃねえだろ。」
「大丈夫です」
「無理すんなよ」
「無理なんか…」そう言って美優が顔を上げると、平田が優しい目で美優を見詰めていた。
「僕の前では、無理なんてしないで」平田は美優を優しく抱きしめた。
美優は驚いていたが、平田にされるがままになっていた。
「平田さん……」美優はそれだけ言って、しばらく平田の胸に顔を埋めていた。
「よかったじゃないの〜!ね、あのお客さんやっぱり気があるのよ、みーちゃんに」
桃は美優の肘を小突いた。
「そ、そんな…あのお客さんは常連で、ただ、私に同情しているだけです…。
そんなんじゃありません…」
「いいや?あの客、完全にみーちゃんに気があるね。
俺ずっと見てたけど、あのお客さん、ずっとみーちゃん見てた。」春彦が言った。
「そ、そんな…こと…」美優は俯いた。すると、カランコロンとドアが開く音がした。
「いらっしゃいませ…!」
「いつもの、頼むよ」平田だった。
「はい!かしこまりました」美優は笑って言った。
平田は完全に鼻の下を伸ばしていた。するともう1人、カフェに客が入ってきた。
「あ、松田さん!いらっしゃいませ!」美優が笑顔で優介に駆け寄った。
平田はむっとした。
その様子を見た桃と春彦はクスリと笑った。
「わかりやす」春彦が吹き出した。
「ほんとねえ」桃も笑いをこらえていた。
「美優ちゃん、僕、美優ちゃんの手料理が食べたいな」
「そんな…優介さんったら」美優は照れていた。
平田はむっとしていたが、美優と優介が楽しく話しているところを見ると、
いつこんなに仲良くなったのかと、やきもきしていた。
「優介くんと仲良しねえ。最近知り合ったばかりなのに」桃が言った。
「あっ、はい…実はこの前、悪い人に捕まって大変だったところを助けていただいて…
それから街で会ったりして、いろいろとお話させていただいてるんです。」
美優は嬉しそうに言った。
平田は不服だった。この男に美優を取られたくないという気持ちと、
美優の心が完全に優介に傾いているということを。
切ない片想いだと痛感した。平田は食事をしていたが、いつもは完食する料理を残した。
「みーちゃん、勘定」
「あ、はい!」美優はレジに向かった。心なしか、平田が冷たく感じる。
「また、来てくださいね」
「もう、来ないかも」
「えっ?…そ、そんな…」
「よかったじゃん。あいつと仲良しで」
「ひ、平田さん…」美優は困ったような顔をした。
「仲良くしなよ、じゃ」
「ま、待ってください、平田さんっ…!」美優は慌てて外に出た平田を追いかけた。
しかし、平田は足が速い。追いつけなかった。
「平田さん……」美優はずっと平田の遠ざかる背中を見ていた。
カフェに戻った美優は、痛む心を抑えながら持ち場に戻った。
しかし、美優はコーヒーを飲んでいる優介に自分の気持ちを伝えようとしていた。
「優介さん、お話があるんです」
「なに?」
「私、優介さんのこと……好きです!」美優は勇気を振り絞って言った。
優介は驚いていたが、口を開いた。
「美優ちゃん、ごめん。僕ね、君を恋愛対象としては見れないんだ。というのも、
その…僕、彼女ができたんだ。ここにも連れて来た、真奈美ちゃんって子。
ごめんよ。君とは、友達として…」
「そ、そうだったんですね……ご、ごめんなさい、私……ごめんなさい」
美優は泣きながら言った。
「いいんだよ、わかってくれれば」
「すみません、でした……」
美優は走って厨房へ入った。
「どうしたの、みーちゃん!」
桃が美優を見て言った。
「私、振られちゃいました……」
美優が言った。
「私、もう優介さんには会えない。それに……いつも優しくしてくださった平田さんも、
もう来ないって……私、これからどうしよう。私…私…」
美優は泣きじゃくっていた。
優介は食事を終え、帰っていった。
美優は溢れる涙を拭わずに泣いていた。
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