『侵略道』選手権【KAC5参加作品】

『侵略道』選手権

「さあ始まりました、第4853回『全宇宙侵略道選手権大会』!」

 中継映像の中、左側に座る男が叫び、開幕のベルが鳴った。


「実況はわたくしソロンが、解説はデュオール=トリニスで務めさせて頂きます!」

「どうモ」

 右側に座る解説の男の方は素っ気ない態度であった。


「さてデュオールさん。この大会についてご存知でない方もいらっしゃると思われますので、まずは簡単に説明をお願いできますか?」

「分かりましタ」

 デュオールは1度咳ばらいをしてから話し始めた。


「まず『侵略道』というのは、となっていまス。審査基準としては、主として被侵略星に対する配慮などがありまス」

「なるほど、分かりやすい説明ありがとうございます。おっと、そろそろ最初の侵略のようです!」

 実況ソロンの言葉の直後、中継映像は宇宙空間へと切り替わった。そこには巨大な宇宙戦艦が浮かんでいた。


「はい、今映し出されているのは、1番目の侵略星、惑星クインティアの艦隊ですね。被侵略星は惑星カルテッタとなっています。この組み合わせ、デュオールさんはどう見ますか?」

「そうですネ……クインティアは科学力の進歩が目覚ましく、今後の侵略道界で期待のかかる、文字通り新星ですネ。カルテッタに関しては侵略道連盟から頂いたデータしかありませんが、特にこれといった特徴のない平均的な惑星なので、クインティアにとって楽な侵略となるでしょウ」

「ありがとうございます。では、侵略開始までもう少し待ちましょう」


 そして、始まりを告げるゴングが鳴り響いた。

「さて、いよいよ始まりましたが……クインティアの戦艦に特に動きはありませんね」

 現在クインティアの宇宙艦隊はカルテッタをあらゆる方向から取り囲んでいる状態だった。

「おや、母艦の中でクインティアの司令官が何か空中モニターに表示させていますね。文字のようですが……」

「あれは宣戦布告の口上ですネ。その内容も審査の対象となりまス」

「なるほど。では、司令官が読み上げるようですので、聞いてみましょう」


『拝啓、惑星カルテッタ殿、貴星では芽吹きの季節と実りの季節が訪れている頃でしょうか。季節の変わり目で体調を崩されている方はいらっしゃるのでしょうか。さて、私事ではございますが、この度我々クインティアは貴星カルテッタを侵略させていただきますので、ご了承ください。なるべく手短に済ませたいと思っておりますので、抵抗は御遠慮いただきたい所存でございます。敬具』


「——はい、いかがでしたか、デュオールさん」

「実に模範的で礼儀正しい文章でしたネ。相手の星の季節を理解し、体調を気遣っていまス。これは高評価が期待できますネ」

「そうですか。しかしデュオールさん。これを聞いてカルテッタは降伏するのでしょうか?」

 ソロンがわざとらしく質問した。


「それはないでしょウ。連盟も馬鹿ではないので、『はい分かりました』と二つ返事で侵略されるような星を被侵略星として選ぶことはありませン。カルテッタの反応としては沈黙か攻撃のいずれかでしょうネ」

「なるほど。ではカルテッタの方を見てみましょうか」

 中継映像はクインティアの艦隊から、カルテッタの地上を宇宙から撮影した映像へと変わった。


「カルテッタに特に動きはないようですね……これは沈黙を選んだ、ということでしょうか」

「まだ分かりませんネ。星としての対応を決めかねている可能性もありまス」

「決めつけるのは早計ということですね、この隙にクインティアは……攻め込もうとするような素振りはありませんね」

「相手が抵抗するかどうか分からない状態での侵略行為はルール違反ですし、何より侵略道の精神に反しますからネ。被侵略星を尊重することは礼儀でありルールでス」


「その点でいえば現時点でクインティアは侵略道を体現したような侵略をしているのですね。おおっと! どうやら動きがあったようです!」

「カルテッタから返答があったようですネ」

「では、その映像を見てみましょう」


 中継映像に壮年の男が現れた。カルテッタの代表らしいその男は、星全体としての決断を語った。

『ドウセ滅ブノダロウ。ソレナラバ我々ハ玉砕モ覚悟シテ最期マデ抵抗スル。好キニ攻撃スルガヨイ』

 最後まで語り終えた男の顔は憔悴しているようにも見えた。


「このカルテッタの決断、デュオールさんはどう思われますか?」

「力量差を考えた結果の潔い判断ですネ。カルテッタはデータによると、宇宙開発に関しては周囲の星々のデータを集めている程度で、宇宙船は無いようですから。宇宙から攻撃されれば勝ち目がありませン」


「なるほど。さて、クインティアの方ですが、攻撃準備を整えているようですね。母艦から小型の戦闘機が何機も出てきています」

「ルールでは第1撃は10メートル級の小型機100機以内ですかラ。そこから中型機、大型機を出撃させるタイミングが審査に関係してきまス」


「はじめから大型機で攻めてはいけないと。ではこれからクインティアは侵略を完了させるために、どう攻めていくべきなのでしょうか」

「カルテッタ人が決断を曲げないとすると、攻撃の威力を見せつけても降伏しないでしょウ。これはクインティアにとって難しいところですネ」

「というと?」

「ルールでは被侵略星の人口を半分未満まで減らすと『侵略』ではなく『殲滅』とみなされて失格なのでス」

「それでは……原住民を傷つけずに捕らえる方が良いのでしょうか」


「その場合、住民をどの程度丁寧に扱うかがポイントになってきまス。。難しいですが上手くいけば大幅加点があるかもしれませン」

「それは期待大ですね。さあ、この間に100機の戦闘機が続々とカルテッタへと降りていきます。どうやら有人機のようですね。地上からカルテッタが攻撃をしていますが……全く効いていませんね」

「兵器の防御力もルールで下限が設定されていて、カルテッタの保有する兵器の攻撃なら無傷で済む程度になっていまス」


「そうですか。——今すべての戦闘機が着陸しました! いよいよ本格的な侵略の開始ですね。戦闘機からクインティアの兵士が出てきました。手に抱えている武器は……なんでしょうか? 一見銃のようにも見えますが……」

「あれはクインティアの最新型スタンガンですネ。人体に後遺症を残すことなく気絶させることが可能でス」

「そうだったのですか。実に侵略道向きの武器ですね」


 このまま順調に事が進めばクインティアの好成績は間違いなし、そんな時だった。

「おや、クインティアの母艦が何やら慌ただしくなっているようですね。何かあったのでしょうか」

 中継映像はカルテッタの地上からクインティアの母艦内へと移った。

 艦内では警告灯が煌々と輝き、人も壁もガラスも、すべてが真紅に染まっている。


「っ、見てくださいデュオールさん! クインティアの艦隊が次々にカルテッタから遠ざかっていきます!」

「これは……私にも分かりませんネ……。少なくとも侵略道のルールとして逃亡は原則認められないのですガ」


 クインティアの艦隊は一斉にUターンしてカルテッタから離れようとした。


 ——だがしかし、その瞬間は無慈悲にも訪れてしまった。


 クインティアの艦隊を映していた映像はブツリと途切れた。いや、それ以外のカルテッタの地上の映像も見る事が出来なくなった。

「ク、クインティアやカルテッタに一体何が起こったのでしょうか……!」

「あ、もしかしテ……」

「何か思い当たる事があるんですか!」


「カルテッタの恒星が、超新星を起こしたのでハ?」


「つまり、クインティアの艦隊も惑星カルテッタも爆発に巻き込まれたということですか」

「カルテッタの玉砕する覚悟も、星の寿命が近いと知っていたから、ということだったのでしょウ」

「では、この場合判定はどうなるのですか?」

「直前までの姿勢は立派ですので、順位には加えず記録だけは出ることになるかト」

「なるほど。それでは全宇宙侵略道選手権大会、クインティアの侵略はこれにて終了となります。この後も他の星が侵略をしますので皆さんご覧ください。実況はソロン、解説はデュオール=トリニスでお送りしました。次の侵略でまたお会いしましょう。さようなら」

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