第五話【僕へと向けられる、不穏なる視線】
異世界での暮らしにも慣れ、毎日のように繰り返される
そんなある日のこと、僕は誰かの視線を感じて目を覚ます。
僕はすぐに自室のベッドから起き上がると、寝間着のまま窓を開けて、外の景色の中からこの視線の主の居場所を探ってみたのだが……。
不審な人物はどこにも見つからないものの、やはりどうにも居心地が悪かった。
今もどこからか分からないが、確かに何者かの視線を感じる気がするのだ。
「気のせいか? いや、用心するに越したことはないか」
一先ずは心に留めておくとして、僕は騎士甲冑を着込んで部屋に運んでもらった朝食を取ると、部屋を出ることにした。
この数週間程、夜遅くまでウルリナやガナン達と一緒に辺境領内で
しかも寝る間も惜しんで、ここ異世界で体験した目新しい出来事を一心不乱に小説のネタ帳に書き綴ったりもしていたにも関わらずである。
ここまで疲労の蓄積がないのは、このミコトの肉体がそれほど超人的に優れていると言うことなのだろう。
「起きてるか、ガナン。入ってもいいか?」
僕はガナンの部屋の扉をノックすると、少しして扉を開けて彼が顔を出した。
さすがに実質的に辺境伯のお抱え騎士団の団長格なだけあって、今朝の集合時間までまだ時間があるにも関わらず、すでに支度は済んでおり、鎧も着込んでいた。
「どうした、タミヤ殿」
「いや、ちょっと……な。ここだけの話なんだが、耳を貸してくれ」
僕は腰を屈めたガナンの耳に顔を近づける。
そしてさっきからどこかから誰かの視線を感じてならないこと、そしてにも関わらず、それらしい人物がどこにも見つからないことを、小声で伝えた。
「タミヤ殿に気配の出所を感じさせない奴となると、相手は相当の使い手。私には何も感じ取れないが、もし何者かから送り込まれた刺客だとすれば、一大事だ」
「ああ、けどいくら気配を絶つのに長けた奴でも、仕掛けてきたなら姿を確認出来るはずだ。だから、そのことを記憶に留めておいてくれ。今は泳がしておく。それと、ウルリナには伝えない方がいいかもな。あいつは考えがすぐ顔に出るタイプだ」
ガナンは承知したと答えると、僕らは時間的にまだ少し早いものの、集合場所である城外の広場へと足を運ばせた。
すると、そこにはもう数多くの騎士達が集合し、訓練している姿があった。
領民を守ると言う、彼らの士気が高くなってきている証明であり、戦いによる犠牲者が減ってきて、心に余裕が出来てきたと言うことだろう。
――そして太陽がやや上り始めた頃、ガナンが皆の前に立ち、出発を告げる。
行き先は僕ら帝国側の人間が築き上げた、野戦築城だ。
そこでは現在、ウルリナが指揮する辺境伯の騎士団員とクシエル監督官が中央から派遣してくれた主力部隊の一部が駐留しており、
当然、辺境地にそんなものを築けるだけの人手が足りてきたのは、中央から人を寄越してくれた、他ならぬクシエル監督官のお陰だった。
「中央からの補給物資を届けに向かい、交代で今度が私達が野戦築城に駐留する。ここ最近は、勝ちが続いているとはいえ、気を緩めるな」
ガナンは騎士達にそう忠告すると、いよいよ僕達は太陽が照らす中、ここから南方に築かれた、野戦築城に向かって出発した。
この異世界に放り出されてからもうそれなりに経ってきたため、このミコトの肉体の扱い方にも僕は大分、慣れてきている。
このような行軍も、まったく苦にはならない程だ。だが……。
(……やはり視られてるな。今も誰かからの視線がずっと消えない。狙いは誰だ? ウルリナかガナンか、それとも……)
騎士団が行軍を開始してからも、やはり誰かの視線を感じてならなかった。
周囲は平らな地面が続き、身を隠す場所などないと言うのにも関わらずだ。
(まあいい、来るなら来い。仕掛けてきた時が、お前の最後だ)
僕はそう心の中で呟くと、一旦は考えるのをやめて行軍に専念した。
そして太陽が最も天高く輝く時刻、ついに目的地である野戦築城が見え始める。
ここでは南方界外から侵攻してくる
「よく来てくれたな、ガナン、タミヤ。父上の城の周辺では大事はないか?」
ウルリナは僕達を出迎えてくれると、毎回恒例の引き継ぎ確認を行ってくる。
僕とガナンはここに野戦築城を建てる前にすでに辺境領内に入り込んでいた、
地の向こうを見ると、疎らに魔物タイプの
「こちらの兵力は十分。二年前に帝国を襲った魔人タイプの
「ああ、中央の主力部隊が来てくれてからは、こちらの犠牲も大幅に減った。これも彼らを派遣してくれた、クシエル監督官の力添えのお陰だな」
ウルリナは満足げな様子で、地の向こう側を見つめている。
だが、油断は禁物だと言うことは分かっているようで、すぐに毅然とした表情に戻ると「後は頼んだぞ。くれぐれも気をつけてな」と僕に伝えて、部下達を引き連れて辺境伯の城へと帰還していった。
そして彼女らが帰ってから間を置かない内に、どう見ても数百体は下らない魔物タイプと魔獣タイプの
「またいつもの連中か。それじゃ今日も仕事を頑張らなきゃなっ!」
僕はそう叫ぶと、ガナンと共に先陣を切って二人だけで奴らに突撃していった。
これまでの戦いで、僕の力は
現代日本で暮らしていた頃は特別、正義感が強いタイプではなかったが、正しい事や人を守るため、こうして力を使うことに僕は居心地の良さを覚え始めていた。
そして野戦築城がある限り、たとえ取り逃した
だから僕とガナンは攻撃にのみ専念し、迫りくる奴らの群れとぶつかり合った。
「『牙神』っ!!」
僕は下段の構えから村正の切っ先を向けて奴らの群れの間を駆け抜けると、肉の塊と化して飛び散った奴らの死体が、血飛沫と共に雨のように戦場に降り注ぐ。
そして駆け抜けた先で僕は踏み止まり、更に矢継ぎ早に牙神を繰り返し放つ。
――その度に戦場が、血に染まっていく。
「見事、タミヤ殿。君の働きに敬意を表したい」
ガナンも雷神の槌を振りかざし、力一杯地面に叩き付けると発生した雷撃が、
何でも彼愛用の雷神の槌は帝都の武闘大会で優勝した景品として皇帝から彼に与えられたものらしく、国宝級の一品なのだそうだ。
ただ重量もあまりにも途轍もないため、まず彼以外には扱えない代物なのだが。
――そんな戦場の光景を見て、自然と僕の顔から笑みが漏れる。
平和な日本では味わえなかった刺激的な体験に、小説を書くことが趣味の創作者としての僕の心が躍って仕方がなかったのだ。
この異世界では創作のネタ集めの易さは現実世界の比ではなく、いずれここでの体験を元にした小説を書いてやろうと、そう心に決めていた。
「これで終わりだ! 僕の最高の奥義でなっ!!」
僕の姿が蜃気楼のように歪み、村正もまたぶれて見える。
そして刀身から黒紫色の波動が放たれ、もう数が残り少なくなってきている
「喰らえ、『牙神・冥淵』をっ! これでお前らも終わりだっ!」
黒紫色の波動が襲い掛かってくる
そして……黒紫色の波動が収まった時、目立った外傷はないものの、完全に機能停止している
「ふうっ……終わったな」
だが、僕が勝利したことに安堵して一息ついた、その時だった。
突然、両足を誰かに掴まれた感触がした。
そして瞬く間に僕の体は転倒させられ、地面の中に……いや、自分の影の中へと引きずり込まれていく。
「だ、誰だ! お前はっ!?」
僕は自分の両足首を掴んでいるその何者かの姿を確認したが、全身黒ずくめで漆黒のフードの下に、僅かに口元だけが見えた。
だが、肌は土気色で、まるで死人か何かのようだった。
「タミヤ・サイトウ殿ですね。貴方の身柄を貰い受けに参りました」
「な、何だって……!? 一体、誰の命……っ!」
言いかけた途中で、僕の体は完全に自身の影の中へと引きずり込まれてしまう。
そして僕はここに来て、ようやく気付いたのだった。
今朝から感じていた姿の見えない視線の主は、ずっと僕の影の中でチャンスを窺いながら潜んでいたのだと……。
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