いつまでも子供じゃいられないでござる!の巻
「フン、お前が俺を呼び出すなんて珍しいじゃねえか」
楓と連絡が取れなくなってから1週間経ったある日の夕方。
いつまでもこうしてはいられない、と思い立ち、
家の外に呼び出して、相談することにしたのだ。
「楓の事なんですが……、もうご存じですよね」
おじさんは、たばこに火を点して一服つけたあと、
「ああ、お前ら別れたんだってな」
「どっ、どっからそんな情報が沸いてきたんですか! て……え、まさか楓がそう言ってるんじゃ……」
「ぶわははっ、冗談に決まってんだろ。それは兎も角、ちょっと来るの遅せぇんじゃねえのか?」
騙されたことは悔しかったが、冗談という言葉に心から安堵する。
「そう、ですよね……すみません」
「ま、ガキにはガキなりの言い分があるってところか……。楓のことなら心配すんな、時間が経てば治る」
「治るって……、病気だったんですか?」
「ンな大層なモンじゃねえよ、ようするにあいつが術を使えなくなったのは、遅まきながら思春期に突入したってのが原因よ」
「思春期、ですか」
正直なところピンとこない。
おじさんは、持参の灰皿にたばこをもみ消しながら、
「誰かさんのことを考えてあっちにソワソワこっちにソワソワ。キスっていつごろするのかなー、誰かさん奥手っぽいし、まさか結婚するまでお預けって言い出すんじゃないかしら、もぅ楓まいっちんぐー、てな具合にウチのお姫様は色恋にご執心ってなワケよ。お、そういやお前、手ぐらい握ったのか? なにい、まだだとう! そんなことだから楓がああなっちまうんだろうが! ……ふぅ、とまぁ平たく言えば原因はお前だ。責任取って別れろ。な」
「そんないきなり……。もっと他に原因があるんじゃないですか? 例えばホラ、
「カーッ、ほっんと冗談通じねえ野郎だなお前は。ったく楓のやつ一体こんなやつのどこに惚れたっていうんだ……。とにかくこればっかは本人ですら手の施しようのねえ難病ってことだ。一族の人間はみんな経験するし、
なんとなくだが、原因は掴めた。
おじさんは時間が解決してくれると言ったが、期限がないと言ってるも同じだ。このまま夏が終わってしまえば、きっと、楓も悲しむに違いない。
恋人として初めて迎える夏休み。
ふいにしたくないのは、俺も同じだ。
けど、一体どうすれば……。
「ここで考えても始まんねえじゃねえのか? だったら思いっきりぶつかってこい」
「で、でも……。そうだ、楓、いまどこにいます?」
「家に泊まりに来た姉ちゃんと一緒に地元の川祭りだ。かわいかったぞーあいつの浴衣姿。そうだ聞いてくれよ、俺と手つないで一緒に行こうつったらあいつ何て言ったと思う?「いつまでも子供じゃいられないでござる!」なーんてかわいくプーッとほっぺた膨らませながら言ってきてよぉ、だから俺はその時こう思ったんだ、娘が成長していくにつれ父親と話さなくなるってこういうことかっ、中学生日記で見た反抗期ってこういうことかッ、てそう考えたら段々と恐ろしくなってきてよう……てオイ、いつまでこうしてんだよ、もたもたしてっと他の男にもってかれても俺は知らねえ、」
気づけば、天正川のほとりに向かって走っていた。
風魔颪は、小さくなっていく彼の背中を見つめながら、新たなたばこに火を点ける。そして、赤方偏移で染まりゆく空に向かって、盛大に煙を吐きだしてこう言った。
「たく、相談相手に礼もなしかよ……。フン、ガキが。まぁ精一杯、夏を楽しんでこい、若者よ」
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