会議はこうなるから面倒でござる!の巻

 今日は生徒会主催の部活会議だ。


「みんな集まったでござるね? それでは、会議をはじめるでござる!」


 楓のキビキビとした号令で、全員が立ち上がり、礼をして座った。

 今日ここに集まった面子は、役員全員と、それぞれの部活の部長たち。

 司会進行役は俺の務めだ。


 立ち上がり、みんなを一望に収め、


「今日は、毎年恒例の意見会議だ。部活動内で、こうしてほしい、ああしてほしい、といった要件などがあれば、遠慮なく申し出てくれ。但し、結局決めるのは先生なんで、責任は持たないけどね」


 室内にどっ笑い声が響き渡る。そんななか楓がひとり、隣で俺を見上げながら拍手してくるのが、恥ずかしくてたまらない。


 笑いが収束したのち、さっそく柔道部の五十嵐鉄平が手を上げてきた。

 どうぞの意味を込めて手を向けると、五十嵐は咳払いをして、椅子から立ち上がり、


「畳が傷んできたから、新調を希望したいんだけど」


 要望を聞いた途端、楓がバンッと机を叩き、


「どれくらいの損耗度でござるか?」


「……歩いているとヘコミが感じられるくらい、かな」


「ムムム、それは難儀でござるな。転んで怪我でもしたら大変でござる。して、一畳辺りいくらくらいするでござるか?」


「え……? わからない、でござる」


 早速ござるがうつってやがる。


 話がややこしくなりそうなので割って入り、


「まぁ、値段のことはさて置いて、その件は予算会議のときに上げとくから、今度、替えてほしい畳の枚数を教えてくれよ」


 すると楓が、手を叩きながら、


「さすが孝之氏、見事な締めでござる!」


「いや、いたって普通のことだからな」


 楓に影響されたのか、拍手がみんなに伝播していく。

 やめてくれないかな、そういうの。


 続いて、茶道部の織部おりべ百合子が手を上げ、


「あの、活動とは関係ないのですが、校門沿いの花壇の一部が壊れてて、危ないので早めに修理してくれるとありがたいです」


 楓がバンッと机を叩き、


「それは事件でござるか?」


「多分……、違うと思うでござる」


 織部。


「そ、それについては、早急に対処してもらうよう先生に掛け合っとくから安心してくれ。木下、その件は別の上申書を作成しといてくれ」


 書記長の木下美香がノートパソコンをパチパチ鳴らしながら、


「わかったでござる!」


 お前もか木下!


 楓が羨望の眼差しで俺を見上げ、


「……やっぱり孝之氏は天才でござる……皆の者っ、拍手でござる!」


 万雷の拍手が巻き起こる。


「そういうのほんといいから!」


 これらを手始めに、各々から忌憚のない意見が生まれてくれたのは、大いに喜ばしいことではあった。が、思わずつられてしまうのか、続くひと皆々が、楓の特徴的な語尾を真似していた。


 そして、ひと通り意見が交わされたあと、楓が立ち上がり、


「皆の者、今日は有意義な時間であった。ではこれにて会議は終了と致す。お疲れさまでしたでござる!」


『お疲れさまでしたでござる!』


 こうして会議はつつがなく終了したのだが、ほとんどの生徒は帰ろうとせず、楓の机を囲んで井戸端会議をはじめた。


「後輩が会議があるって言ったら羨ましがってさあ、なぁ今度、野球部に遊びにきてくれよ、みんなお前のファンなんだ」


「わ、私には心に決めた人がいるから無理でござる……」


「ねぇ、風魔会長って本当に忍者なの? 今度、吹奏楽部きて何か披露してよ」


「うぅ、忍びの者がこんな所にいたら誠に不自然ではござらんか……」


 人垣の隙間から、一転、困り顔で縮こまっている楓が見えた。

 忍者の話題はあっという間に加速し、楓の取り合い合戦が勃発したのを頃合いとみて、仲裁に入ろうとしたところ、


「私はどこからどう見ても一般人でござるっ!」


 と、人垣の中で楓は煙となり、突如として俺の前に姿を現した。


「孝之氏、退散するでござる!」


 生徒たちが煙にむせこんでいる隙に、楓に腕を引かれながら会議室を出た。

 出る間際、人垣に目を移すと、楓が座っていた所に、体操着を被せた丸太が見えた。

 多分、変わり身の術でも使ったのだろう。


 そして渡り廊下を走りながら楓はこう言うのだ。


「会議はこうなるから面倒でござるー!」

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