眼球林檎

エリー.ファー

眼球林檎

 あの目についている林檎だけには気を付けた方が良い。 

 あんまり、長く見てはいけないそうだ。

 僕は少なくともそう聞いた。

 林檎のくせに、こっちのことをよく見ているから、自分のことを見透かされている気分になって、はだしで逃げ出しくなる。

 でも、この林檎。中々に魅力がある。目が付いているのもそうなのだが、この目が酷く澄んでいるのである。こんなにも引き込まれる魅力的な目はそうそうない。

 いや。

 言うなれば瞳。

 それでは怖さや不気味さがない。

 だったら。

 これは言うなれば眼球だ。

 眼球林檎。

 そんな眼球林檎、基本的には興行に出かけると瞬く間に人を集めた。過去には首無し鶏のジョージなんていうのもいたわけで、それと同じ類のもとの認識されるとこれまた、かなり面白がってもらえた。

 首無し鶏のジョージの死因は確か、餌を詰食べさせる時に何か間違えて、窒息させてしまったことだと聞いたことがある。そう意味では、この眼球林檎、決して窒息するようなことはない。

 これなら安心だろうと、僕はその眼球林檎と共に旅を続けた。

 眼球林檎はあくまで林檎に眼球が付いているだけなので、喋ることはない。たまに目を動かしてみたり、瞬きをしてみたりする程度だ。

 多分、退屈だろう。

 いや。

 多分に退屈だろう。

 できれば、と思って立ち寄った果物屋さんを探していると。

 眼球葡萄を見つけた。

 これならいい友達になれるのではないか、と思ったが、なにぶん、一房果実が何百と付いているし、それ一つ一つに眼球が付いている。余り長く見るべきものではない。

 次に見つけたのは眼球ではなく、口のついているキウイだった。

 何やら小さな声で喋っている。

「んだよ、あのクソ部長、マジ死ねよ。知らねぇよ、必要な資料なら自分で用意しとけよな、マジ馬鹿なんじゃねぇのあいつ。」

 電車の中で壁に向かってずっと話しかけるタイプのお喋りだった。

 その隣を見ると、そこには眼球のついた緑色の林檎が売られていた。

 僕の持っている林檎は赤い色の林檎なので、色違いということになる。これなら面白いかもしれないと思い、財布を取り出す。

 しかし。

 よくよく考えてみれば。

 そこの籠にもあちらの籠にも、人間の体のパーツが付いた、葡萄、キウイ、青林檎が並んでいるのだ。ということはつまり、ここで買い占めておかないと、僕のやっていることはあたりに前になってしまう危険性がある。

 いや。

 もっと思慮深くなるべきだ。

 この町では、少なくとも、葡萄、青林檎の二つは眼球のついているものが発見されている。つまり、果物に眼球は別段特別なことではない。

 それなのに。

 僕に興行をして欲しいと、この町からオファーが来たのだ。

 おかしくないか。

 僕はそんな不安な心持のまま夜を迎える。

 最初は猛獣ショー、その後がピエロたちによるスラップスティックコメディ、次は短い映画、その次にはジャズバンドの演奏が流れた。そして、僕が最後に登場し、眼球の付いた林檎を見せる。

 はっきり言う。

 上手くいったのだ。

 みんな近くで見ては感心している。

 僕は町の町長に、何故、僕の林檎で満足したのか聞いてみる。

「貴方の林檎の眼球の睫毛ですよ。その睫毛、枝毛になって三つに分かれているものがあるでしょう。高校の時、そういうのやったでしょう。変な枝毛抜けた、とか言ったり。別に見せたりしないけど、部活終わった後の部室で着替えている時とかに話したでしょう。あるでしょう、そんな感じのこと。」

「はい。」

「それそれ。」

 はぁ。

 なるほどねぇ。

 はいはいはいはい。

 まぁ。

 はい。

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