第13話(完)
「よっ」
彼女は久しぶりに会った友人に言うように、右手を少し上げてそう言いました。
「あはは、ドッキリです! 姫様の間違ってること二つ目!」
「ふふ、姉様驚いた? 驚いた?」
二人は嬉しそうにきゃいきゃいとはしゃぎます。それとは対照的に、織姫は一体何が起きているのかと呆けてしまっています。
「あら、賑やかだと思ったら来てたのね。」
3人の様子にようやく気付いたのか、社務所からのそのそと稲荷が現れました。
「い、稲荷殿なぜここに? いや、これは一体……?」
織姫はもう何が起こっているのか、完全に理解の範囲を超えてしまっているようでした。
「ああ、こんなことがあったのよ。あんたが自分の能力で依姫ちゃんもろとも炎に消えようとしたとき……」
と、稲荷はつらつらと語りだします。
……
「怨霊には焚き上げか……」
依姫自身の危機により黒い霧も薄くなり、ようやく五海は起き上がります。
そのとき、もやがかかっていた五海の脳内に、ふとある考えが生まれました。
「稲荷、三大怨霊の恨みはどう抑えたんだ?」
「そりゃ、神としてあがめることにしたんじゃない」
「目の前にデカい怨霊がいるぜ」
「……まさか、そんなこと」
「できるかどうかって聞いてんだよ!」
「不可能ではないけど、成功するかは」
「出来るってことだな! バカタレが織姫の奴、先走りやがって」
稲荷が言い終わるのを待たず五海は言います。
「いや、あんたがけしかけたんでしょ……」
……
「依姫ちゃんを神として祀り上げることで、この世界に残ることができるかもしれない……ってことよね。」
「そ、そんな不確定要素しかないことを……?」
「で、そのイチかバチかの賭けに乗せられて、この神社を作らされたのが私ってことです。五海本人はさっさと帰っちゃうし。ほんとあいつ次会ったら縛り上げてやる」
「まあ、無事まとわりついていた他の怨霊も祓えたし、上手くいったんだからいいじゃない?」
むすっとする光咲を、半ばめんどくさそうに稲荷がなだめます。
「これからは、一緒に出かけることもできるのか?」
「うん。」
「背も、伸びてゆくんだろうな。」
「もちろん。すぐ姉様くらいになるよ」
「依姫の未来は、良いことしかないんだろうな。」
「それは私たち次第、かな。」
ゆっくりと立ち上がった織姫が、依姫を抱き寄せます。
ようやく重なった二人の影は、金色の世界の中に、どこまでも伸びてゆくのでした。
安土城の戦いから早半月が経とうとしていました。五海はいつかと同じように、外出の準備をしています。あの事件で流れてしまっていた宴会を今度こそ開こうと、小町のもとに向かおうとしていたのでした。そんな五海のもとに客人が訪れます。
「あれ、五海、どこか行くの?」
「ああ、今度こそ宴会を開きに、小町んとこに。」
いつかと同じように現れた稲荷と、いつかと同じようなやり取りをします。
「今回は稲荷も行くだろ?」
「う~ん、小町のところに、ねえ。」
何故か稲荷の返答は歯切れが悪いものでした。
「どうした? あの事件も解決したし、もう心配事もないだろ、今度こそ月一か?」「バカタレ。」
またしても、そんないつかしたようなやり取りをしていると、
「相変わらず、仲がいいですね。」
「あれ、クララ? こっちに来るなんて珍しいな?」
「えっ、ええ……」
何故かクララは五海と目を合わそうとせず、すいっと視線を外します。五海が不思議に思ったところで、またしても聞き覚えのある声がします。
「あれ、まだこれだけですか?」
「や、久しぶりー」
声の主は、中興斎と今から向かおうとしていたはずの穂母衣小町でした。
「あれ? 2人ともどうした? 今から小町んとこに行こうとしてたとこだったんだけど。」
「あ、あはは。」小町もまた苦笑いを浮かべます。
どうしてか例の事件で関わった人たちが一色邸に集まっており、五海は状況を飲み込めず、困惑の色を浮かべます。
「なんだ、もう全員集まっているじゃないか。遅れてしまってすまない」
「えっ、織姫まで⁉」
遠く安土にいるはずの織姫まで現れ、五海は混乱してしまいます。
「あれ? 呼ばれて来たのに、まだ何も準備してないじゃない。主催者は何やってるの?」
織姫の隣についてきていた光咲が不満そうに五海を見ます。
「えっ、主催者って私?」
「えっ、違うのか? 事件解決祝いに一色殿の家で宴会をやると聞いて来たんだけどな?」
織姫は驚いたように言いますが、五海にはまるで覚えがありません。
「さあさあ五海、みんな揃ったんだし早く用意しなさいよ。」
「えっ、稲荷、これってどういうことだ?」
「さあ? 私だけ安土に残して一番めんどくさいこと押し付けたこととは全く関係ないし、私にはさっぱり?」
「お、お前⁉ ってことはみんな……」
稲荷はもちろん、皆を見渡すと、やはりにやにやと笑っているのでした。
「謀ったな⁉」
「へへ、大成功だね!」
織姫の後ろからにゅっと姿を見せた依姫が、稲荷と示し合わせてくすくすと笑います。
「あ~~~~、仕方ねえか、お前ら全員酔い潰してやるから覚悟しとけよ‼」
五海は腕まくりをして準備を始め、皆は一色邸に上がり込み、思い思いの相手と談笑しあいます。あの事件を経て、ひとつの場所で笑い声が響きます。その声は、夜が更けても静まることはないのでした。
戦国少女 @ohbanico
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