第9話
「姫様直々のお出迎えだなんて、私たち歓迎されてるな?」
「わざわざ丹後の山奥から来たのだから、私自ら出迎えるべきだろう? 一色五海殿?」
「ほう、私のことを知ってるのか。光栄だね」
「申し訳ない、後ろの二人は把握していないが……全国の大名の顔と名前は全て頭に入っている。そも、丹後侵攻は私が決めたのだから、それで知らないというのは失礼にあたる。そこで奮戦し、中興斎の侵攻を防ぎ切ったというのもな。」
「斎なら、今日も私に負けてきたぜ」
「戦というのは負けることもある、仕方なかろうよ。で、今日は何の用だったかな。五海殿の仕官ならば喜んで受け入れよう」
「あいにく、今日来たのは面接じゃない。面詰だ!」
火花を切ったのは五海でした。どこから現れたのか、巨大な鉄砲が爆発音を響かせます。
「い、いきなりですか⁉」「正直に話すわけもなし、これ一発で決まればいいでしょ」
などと動向を見守っていたクララと稲荷でしたが、間もなくそのようなことすら言えなくなります。
「うん、いい腕だ。鉄砲の腕なら、光咲にも劣らないだろう」
鉄の球は、織姫が前に突き出した扇子によってがちりと受け止められていたのです。
「はあ⁉」
五海がそんな無茶苦茶な、と言おうとした時には目の前に織姫の顔があり、一歩退こうと思ったときには石階段を挟むように建っている屋敷の壁に激突していました。
(これはまずいぞ)
「稲荷、サポート頼む!」
五海は叫び、すぐさま体勢を戻しました。
(銃ではだめだ、すぐに距離を詰められる)
火薬まで調達した鉄砲はあまりにも隙が大きいと判断し、使い慣れた長槍に持ち替えます。そしてすかさず織姫にとびかかります。
稲荷の力を借りたおかげで織姫にも負けないほどのスピードを得た五海は迷わず心臓を狙って槍を突き出します。しかし織姫はそれを避けることなく、手にした鉄扇でかちりと受け止めてしまいました。
すぐに槍を引き、頭、肩、足元とあらゆる場所に突き出しますが、悉く鉄扇に弾かれ、すんでのところで躱されてしまいます。
「バケモンかよ」
「五海殿は正直だからな、全部自分から教えてくれてる」
「分かったところで避けられるのかよ……」
なんてやつだ、と気が抜けた瞬間、一気に距離を詰めた織姫は掌底を五海の鳩尾に打ち付け、不意を突かれた五海は数メートル後ずさりせき込みました。
五海の視線が外れた隙に鉄砲を構えた織姫は、最初の五海と同じく頭を狙い引き金を引きました。
その時でした。一瞬ではありますが、五海の姿が消えたのです。織姫の放った鉄の球はその何もない空間を貫き、次の瞬間に現れた五海は、既に槍を突き出していました。
「今のは一体何だ? 反応が一瞬遅ければ貫かれていた……そんなことができるのなら言っておいて欲しいな、五海殿。うん、丹後だけでなく、丹波や若狭を任せてもいい!」
果たして五海の槍はまたしても織姫に躱され、ぐっと掴まれていました。
「……いや、でもそれならば最初から姿を消していればいいだけのこと。と言うことは……」織姫は視線を動かし、
「そちらの子だな」
目が合ったクララはびくっと体を震わしました。
「散れっ‼」
五海は叫び、その瞬間ふたりは屋敷が並ぶなかに紛れ込みます。
「しかし、ずっと丹後を守ってきた五海殿が何故今更安土まで闇討ちに? 長い停滞に耐え切れず、野心が芽生えたか?」
「そりゃあそっちの方だろう姫様? あんたが仏教徒を嫌おうと勝手だけどな。どうやったかは知らないが、あんなことをされちゃあ領主として黙ってるわけにはいかないんだよ!」
「何のことだ? 別に私は仏教を嫌っているわけでも、何かしようとも思わない」
「ああ、あんたはそう言うだろうよ!」
長槍を消した五海は織姫から距離を取り、自らも同じように屋敷のなかに隠れました。そして間もなく、闇に紛れて鉄砲が撃ち込まれました。また違う方から、今度は苦無が撃ち込まれます。
ふぅ、と織姫は息をつきました。
「それは悪手だろう」
それらを弾き返した織姫は、迷うことなく苦無が撃ち込まれた方へと狙いをつけ、そちらへと向かいます。
苦無が投げ込まれたと思われる場所へ来た織姫ですが、どうやら既に移動してしまったのか、クララの姿はありませんでした。織姫がまた移動しようとした時でした。どこからかまた五海の鉄砲の爆発音がしました。すぐさま織姫はそちらを向きます。
(五海殿の攻撃は、あまりにも正直がすぎる)
五海の鉄砲は確かに強力ですが、その大きすぎる音は織姫にとっては絶好の目印だったのです。
しかし、鉄の球は織姫に向かっては来ませんでした。
球はそこにあった木箱を砕き、その瞬間、巨大な爆発が屋敷を吹き飛ばしました。
「火薬があって、爆弾が作れないわけがないってね。」
にやりと笑った五海は鉄砲を構えたままそちらを覗き込みます。
煙がやんだそのとき、五海の目に飛び込んできたのは、寸分違わずこちらへと銃口を向けている織姫でした。
(バケモンかよ)
そう思った瞬間、どこかからきらりと織姫に向けて放たれた光の筋が見えました。
こちらへ鉄砲を向けていた織姫はすかさずその光が放たれた方へと狙いを向け、間もなく爆発音が聞こえました。
織姫が放った鉄の球はその光を弾き飛ばし、クララの右肩を貫いてゆきました。
「しまった!」
思わず声を上げてしまった五海を織姫は見逃しません。すかさずこちらへと凄まじいスピードで迫ってきます。
しかしそのとき、天守から予想外の乱入者が現れたのでした。
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