それは、ワタシが!

流々(るる)

ババ抜きでいい?

「それじゃ、いったん休憩時入りまーす」

 スタッフに聞こえるよう、大きな声で合図をする。

 まるでこだまのように、あちこちから「休憩入ります」「いったん休憩です」という声が聞こえてきた。


 ここは東京湾に面した港の一角。

 映画の撮影現場である。

 ここでは助監督のセカンドをしている。

 と言っても、一、二塁間を守っているわけではない。

 助監督にはチーフ、セカンド、サードとあり各々の役割が決まっている。

 チーフは映画全体のスケジュールや段取りを組む。

 セカンドは撮影現場の仕切りやメイク、衣装などを含めて役者さんに関わる。

 サードは美術や小道具、といった具合だ。

 ちなみにスタートの合図で有名なカチンコはサードの担当。


 コミュニケーション力を武器として、役者さんとスタッフが気持ちよく仕事を出来るように仕切っていくのがワタシの役割なのだ。


「これ、晴れ待ちですか」

 休憩スペースとなっているテントへ、窪田君が入ってきた。

「そうなんだよ。ちょっと曇って来ちゃったからね。前のシーンと繋がらなくなっちゃって」

「やっぱ、晴れ待ちだってさ」

 そう声を掛けると、後ろから桃李クンも入ってきた。

 二人が並んで椅子に腰かける。

「雲レーダーを見ると三十分もすれば晴れるはずだから」

「仕方ないっすね、天気こればっかりは」

「雨にならないだけましかな。降ったら、今日の撮影は中止でしょ」

「アスファルトが濡れちゃったら撤収だね」


「お疲れさまです」

 三人で話しているところへ、入りの遅い結衣ちゃんもやって来た。

「ごめんね、晴れ待ちで押してるんだ」

「そうなんですか。もうお二人のシーンが終わったのかと思いました」

「せっかく時間が空いたからトランプでもしない?」

「いきなりですねぇ。持ってるんですか」

「ジャーン!」

 BGM付きでバッグから取り出した。

「こういう時もあろうかと、いつも持ってるんだよ。結衣ちゃんも一緒にどう?」

「いいですよ。ババ抜きか七並べしか出来ないけど」

 そう言いながら隣に腰を下ろす。

「それじゃ、王道のババ抜きで行こう」


 四人分のカードを配り終わる。

「確か、TV番組でもやってたよね」

「ババを持っていても表情に出さない演技をするから、みんなが有利だよなぁ」とワタシ。

 同札を捨て終わり、窪田君から反時計回りに引いていくことになった。

「久しぶりにやると緊張するな」

「お前がババ持ってんだろ」

 みんなの手札が少しずつ減っていく。

「三人は同い年なんでしょ」

「奇跡の八十八年生まれと言われてるらしいですよ」

「そうなの? 知らなかったわ」

「恵梨香ちゃんや雄大くんもそうだよね」


 いよいよ残りも三、四枚となった。

 私の手元にはババが回ってきていない。

「残り二まーい」

 結衣ちゃんが宣言する。

「そこからが勝負だから」

「ババが回って来るかもよ」

「あっ!」

 二人の言葉がフラグになったのか、分かりやすい反応を結衣ちゃんが見せる。

「もう、バレバレじゃん」

 桃李くんは笑い、窪田君はしてやったりの表情を見せる。


 次はワタシが結衣ちゃんのカードを引く番だ。

 彼女のカードは二枚。

「ババがあるなら、上に出して。それを引くから」

「えー!? 本当ですか」

「心理作戦に出たねぇ。結衣ちゃん、どうする?」

 桃李クンがあおっている。

 迷いながらも、彼女は一枚を上に出した。

 そのカードを引くと――ハートの5だった。

「本当に上を引いたぁ」

 結衣ちゃんが口をとがらせる。

「だから、そう言ったじゃない。それじゃ、やり直し」


 一瞬、みんなキョトンとしてる。

「マジっすか、それは無しでしょ」

 窪田君のツッコミを無視して、カードを結衣ちゃんに返した。

 ニコニコしながら、彼女もカードをセットし直す。

「はい、テイク2!」

 彼女が上に出したカードを引くと、今度はジョーカーだった。

「もう、ズルいなぁ」

「こんなのありですか?」

 抗議の声をあげる二人に一言。


「それは、ワタシが流々ルールだからね」


      *


 お後がよろしいようで。


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