第四章 呪を使うもの

休日

 結局フランが目を覚ましたのは、次の日の朝だった。

 目を覚まして最初に見えたのは、見たことのない天井だった。


 セーラのことを思い出して、慌てて飛び起きて部屋を出たところで、廊下を掃除していたメイドに見つかり、ここが学院長の屋敷の客室だと説明された。


 フランの服は森での冒険で汚れていたので洗濯中と言われ、屋敷にあったお古だという服を着せられた。

 上等な半そでの白いシャツにハーフパンツ。ちょっと大きいサイズだったので、サスペンダーも付けられた。久々に履いた革靴は、なんだか妙に軽くて心もとなかった。


「なあ、あの、セーラはどうなったのか、とか、知りたいんだけど」


 森に行くときと同じように、テキパキ仕度をすすめてくれた使用人たちに、立派なテーブルに朝食を並べられて椅子に座らされながら、フランはおずおずと尋ねた。


「ごめんなさいねえ。詳しいことは解らないの。ご主人様も、お客様も、揃って帰って来られたから、きっと大丈夫だと思うわよ。もし、何か困ったことがあったなら、お二人とも帰って来られないと思うのよね」


 と、まだ年若いメイドが答えてくれた。


「学院長は?」

「お客様と学院に行かれたわよ。今日はお休みだっていうのに、熱心でいらっしゃるわよね。貴方には、お昼まで待っていてほしいと言っていたわよ。それじゃあ、ゆっくり食べてね」


 にっこりと笑って、メイドはキッチンへ向かってしまった。


 学院長の執事だという男性が扉の横に立ってにこにことこちらを見ている。部屋の中に、二人きりだ。

 なんだか、落ち着いて食事をする気分にはならなかった。

 スープを大急ぎで、でもお行儀よく飲んだ。パンは少しのどに詰まりそうになった。


 なんだかんだで食べ終わって、フランは小さな声で「ごちそうさまでした」と言って、執事を見た。

 執事はにっこり笑って、ドアを開いた。


「ではお部屋へお連れしましょうね」

「えっ、いいよ、自分で戻れるよ」

「お屋敷は広いうえ、客間のドアは皆似ています。迷子になってしまいますよ」

「大丈夫だよ」

「わたくしの仕事でございます。どうぞ、お付き合いください」


 やんわりと強く言われ、ここが学院だったらむりやりにでも逃げ出すのになあと思いながら、フランは大人しく連れて行かれた。


 部屋に戻っても特にすることなどない。

 こんなに退屈なまま、昼まで待つなんて地獄のようだ。

 室内にある机に、魔術学の本が置かれている。ごていねいに子供向け。自習しておけと言わんばかりである。


 なぜだろう。


 カチンときてしまった。

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