隠者《ハーミット》と図書室塔の少女
祥之るう子
序章
ゆうやけ
藍と、橙と、紫と。
美しい色彩の中を流れる、薄い薄い雲の切れ端。
いつだったか、思い出の場所で、二人で眺めた夕日と同じだった。
城のバルコニーからさす、思い出と同じの橙色の光の中で、少年はぼろぼろと涙を流していた。
「なかないで」
愛しい声が、弱々しくそう言った。
愛しい、小さくか細い褐色の指が、少年のほほに、ようやく触れたと思った直後。
愛しい、愛しい、少年の大切な存在は、にっこり微笑んで、そのまま動かなくなった。
「い、いやだ……」
少年のかすれた声が漏れた。
「いやだ……リナリア……」
呼びかけると同時、少年の手のひらの上に横たわる、小さな褐色の肌の少女は、背中に生えた半透明の蝶のような羽の先から、ピキピキと嫌な音をたてて紫色の宝石のように変質し始めた。
それは、古い文献で読んだ現象だった。
――死んだ妖精の身体は、宝石のように変質する。これを、結晶化という――
「いやだ! いやだ! リナリアーーーっ!」
銀の髪を振り乱して、少年は、明日から自身が座るはずだった玉座の前で、絶叫した。
彼の名は、アルバート・エルム・ミハイール。
ここタブリス王国の第一王子にして、有り余る知性と魔力の持ち主でありながら、後にも先にも類を見ない「たった一日で退位した王」となった者である。
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