第百三十六話 新婚ドライブ、ただし無免許
開始の宣言直後、俺はステゴロを急加速させてホーネットの8+1の砲身を掻い潜って懐に潜り込んだ。
「先手必勝! 距離取られる前に“取り合えず”やっとく!!」
「“一先ずは”それしか無いでしょうね」
射撃の武器であり弱点は何と言っても距離、離れれば向こうの独壇場だし接近すれば逆に砲身が邪魔して攻撃し辛い。
二つの魔導エンジンを積んでいるホーネットは見た目通りに大きい分重量があるだろうから小回りが利かないだろう。
……ハッキリ言えば不安もあるのだが、開始直後のスタートダッシュはこの瞬間しか出来ないからな。
意を決して四つのタイヤを巧みに動かして俺たちの『ステゴロ』はあっという間にホーネットの側面へと到達した。
『ステゴロ』の武器は機体頑丈さ以外は鉄球を付けた両腕のみ、しかしそれ故に一撃で機体を横転させる威力は十分に持っている。
一発当てて横転すれば、この巨体は起き上がれないだろう……そう思ったが。
「かかった! ネイ!!」
「りょ~かい親方ぁ!!」
『ホーネット』の乗員たちは『ステゴロ』の接近に慌てる事無く、何やら不穏なやり取りが聞えたと思うと、まさに今一撃加えようとしていた側面が“ガバリ”と開いた。
開いたそこから見えたのは巨大な三本の爪……形状で言えば熊手にも見えるけど、そんなもんが何をするか……説明も不要だろう。
「ヤバ!? ユメジ!!」
「分かってらぁ! 緊急回避いいいいいい!!」
俺は慌てて急ブレーキ&急旋回で『ステゴロ』の上から振り下ろされる巨大な爪を回避した。
クソ! やはり対策されていないワケは無かったか!!
巨体で遠距離主体となれば誰だって接近戦を考える……向こうが弱点を理解し対策を立てるのは当たり前の事、むしろそこの対策がなされていないなら本選まで残るワケが無い。
そして……そんなトラップを回避できたからと言って安心は出来ない。
無理な加速からの回避で4輪の『ステゴロ』は現在片輪走行……非常に不安定な体勢に陥ってしまっていると言うのに『ホーネット』の巨大砲身に座るネイと呼ばれていたエルフが“ニッ”と笑うのが見えた。
「こいつか本当の先手必勝だあああああ!!」
ドオオオオオオオオオオオオ!!
放たれた大口径のビームライフルは完全に『ステゴロ』を射線に収めていて、このままでは直撃は免れない。
そう判断した俺は横転しそうな片輪走行を元に戻すでは無く、逆に横転させる方向に『ステゴロ』の腕を地面に叩きつけた。
「うおおおおおお!! 歯ぁ食いしばれよぉおおおおおお!!」
「キャアアアアア!?」
ガン! ゴゴン! ガガガ……
不格好に2~3回の横転を繰り返し、何とか大口径のビームライフルをかわせた。
かすめて行った攻撃で『ステゴロ』の装甲は少し持って行かれたみたいだけど……。
辛うじて横転が正常な配置で止まった瞬間、コロシアム全体から地鳴りのような歓声が響き渡る。
「「「「「「「ワアアアアアアアアアアアアア!!」」」」」」
『うおおお何という事だ開始早々互いに見せてくれます!! スピード全開で『ホーネット』の側面を捉えたかと思われた矢先にトラップを発動、更に狙いすました大口径ビームライフルが炸裂したかと思えば『ステゴロ』は崩された態勢を利用して横転、無理やり車線から外れる事に成功……どちらも目が離せな~~い!!』
盛り上がるコロシアムと的確なアナウンス……しっかりと会場に被害が出ないように防護結界魔法も施されているようで、あれ程の大出力でも他に被害はないようだ。
「どうやらあのビームライフルも魔法の一種と考えて良さそうだな……今ので属性は分かったか?」
俺の質問にアマネは首を横に振る。
「いえ、分からなかったと言うよりは“無かった”が正解かも……。溜め込んだエネルギーの塊、魔力をそのまま放った感じかな? 燃えたり凍ったり分かりやすい魔法的な効果は無いけど、あの口径に見合った鋼鉄の塊がぶつかってくる程度の破壊力はあるみたいね」
「……それ、実弾と何が違う?」
「理屈はな~んにも……精々弾丸が残らない程度かしら?」
「わ~お……完全犯罪成立じゃん。証拠も残らないなんて」
「あははは……確かに」
乾いた笑いが自然と漏れる。
このバトルは生身でのモノじゃないから機体が行動不能になった時点で敗北が決定する。
言いたくはないが、俺たちにとってはハンデも良いところで機体操作に融合魔法を応用して機敏に動いているが……実際の『ステゴロ』の反応速度は俺たちに比べて遥かに遅い。
「さあ、距離を取ってしまったぜ……どうするよ奥様?」
「向こうは魔力が続く限り狙い放題、打ち放題……片や私たちの武器は両手の鉄球のみ……どっちにしても近寄らないと何も出来ないのは変わらないでしょうね」
「残念ながら、それしかないんだよな……それしか……うお!!」
休憩を与えるつもりも無いのか、すぐさま8門のビームライフルの一斉射撃が開始され俺は慌ててアクセル全開、再び緊急回避する。
しかし避けそこなった閃光が『ステゴロ』の肩部装甲をしたたか抉って行く。
「チィ!!」
向こうの攻撃も見えていても機体が反応についてこないジレンマに思わず舌打ちが漏れる……クソ、見えているのにかわし切れない!!
まるで操作性の悪いレトロゲームでもやっている気分だ。
「だああもどかしい!! モー〇ョン〇レースシステムでも欲しいくらいだ、こんちくしょう!!」
「私は全身タイツは嫌よ! 着るのも見るのも!!」
「アマネのパッツンパッツンスーツ姿なら俺は見たい!!」
「こんな時に何言ってんのよ! 走って走ってええええええ!!」
ドドドドドドドド!!
間髪入れずに追いかけて地面を抉る閃光の弾幕を回避するために、俺はコロシアムを蛇行運転で走り回るしか無かった。
こちとら無免許運転だと言うのに! 変なクセが付いたらどうしてくれる!!
*
一方主導権を握って一方的な攻撃に転じている『ホーネット』側の三人だが、コロシアムの中央に陣取り距離を取った自分たちに有利な状況になっても油断なく『ステゴロ』を睨みつけていた。
ネイと呼ばれた砲手のエルフは楽し気に口笛を吹く。
「ヒュウ~やる~。完璧に主砲が直撃するコースだったのに無理やり転倒させて射線を外すし、今もあの波状攻撃を避けてるし……早いじゃない!」
「回避の仕方は不格好だし強引なやり方だが……俺ぁ~嫌いじゃね~な。ああいう泥臭い戦い方はよ~」
物静かな者が多いエルフの中でも珍しく血の気の多いネイとドワーフのゴーンは不敵に笑うが、魔力制御を担当しているエルフのパルムは冷静に相手を見据えていた。
「あんまり呑気に構えてられないわよ二人とも。初見殺しのトラップを使ったから、もう同じ場所を狙う事は無いだろうし……そもそもあの二人、まだバトリングに慣れていないだけで魔力の研鑽に関しては私よりも遥かに上回る実力者よ」
「……アスラルでも指折りの魔術師だったお前がそこまで言うのか?」
「ええ……今の反応速度、それに操縦と魔力の完璧な同調……あの二人“融合魔法”を使っているハズよ」
懐疑的な瞳のネイだったが、パルムの爆弾発言にギョッとする。
「ひゅ、
「いたって事でしょうね、そんな変人が目の前に……私はあんなに“壊れるほど”人を愛した事が無いから使えそうも無いけどね」
驚愕するエルフと冷静に分析するエルフ……どっちもが物凄く不敬な事を口走っているけど、生憎誰も突っ込まない。
唯一の別種族であるゴーンすら『言われても仕方がねー』という顔になっていた。
魔力に長けていればいる程、魔力の流れに機敏になり目視観察する事も出来るようになって行く。
そんな彼女は目のまえの『ステゴロ』から完璧に混ざり合った二つの魔力という強力かつ“異様”な魔力が機体とかみ合わずに右往左往しているように見えた。
「ヤツら、多分まだ慣れてない……融合魔法ってあり得ない魔力を使えるのに機体操作に慣れていない今なら勝機は十分ある」
「……なるほど、今のうちなら……か」
ネイは弾幕を絶やさず、縦横無尽にコロシアム内を走り回る『ステゴロ』を徐々に、しかし確実にコロシアムの左へ左へと追い詰めて行く。
退路を断って最後は狙いを定めた一斉射撃、それこそが『ホーネット』の常勝手段……決勝の『敗者の亡霊』を駆るナナリー以外は全てこの手段で沈めて来たのだ。
「ネイ! 八門のビームライフルで足止めしての主砲で止めってセオリーは良いけど、あんまり射線をまとめるなよ! 相手はその隙に突っ込んでくるからな!! 場合によっては主砲を囮にするのもアリだ!!」
「了解親方!! 今度こそ私らがナナリーを止めてやらんとな!!」
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