第百三十五話 敵側に持たれたくない柔軟性
「さあ準備は良いか野郎ども! 一週間かけて行われるバトリングの頂点が今日決まる!! 覚悟はいいかあああああ!!」
「「「「「「ウオオオオオオオオオオオオオ!!」」」」」」
「みんな自分たちの機体が一番だと思ってる馬鹿野郎共だが、そんな馬鹿野郎の頂点だけが大洞穴最強を名乗る事が出来る!! その瞬間、てめぇらは見たくないかああああ!!」
「「「「「「みてえええええええええ!!」」」」」」
「今日も揃いも揃ったバカみたいにカッコイイ鋼鉄のぶつかり合いに魂が震えない者がこの場にいるかあああああ!!」
「「「「「「いるわけねえええええええええ!!」」」」」」
「よ~~~し、お前らの気持ちはよ~く分かった。私と全く同じじゃないか! 愛してるぞ馬鹿野郎ども!!」
「「「「「「ウオオオオオオオオオオオオオオ!!」」」」」」
「さあ、おっぱじめるぞ! 鋼鉄に魅せられたバカ共の饗宴! 祭りの…………時間だアアアアアアアアアア!!」
ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ……
相変わらず衣装に“着られる”格好の小夢魔神威さんの可愛らしい開会宣言につられて、主にドワーフ共の野太い声がコロシアムに響き渡る。
そしてここまで伝わってくる地鳴り……ララパルーザっつったっけ?
「盛り上がってんな~会場。神威さんってあんな感じの娘だったっけ?」
「見た目に騙される人は多いけどね……内気な文学少女では断じてないから」
「そりゃもう知ってる……」
ええそりゃもう嫌というほど……。
自分の思うがままに異世界でロボット文明を“映像を見せる”ってだけでここまで発展させてしまうほどヤラかすような娘を内気とは断じて呼ばない。
ただ妙にあの手の輩を煽るのが上手いな~って思ったのだが……。
その辺をアマネに聞いてみると「アレでも社長令嬢だからね。民衆を扇動する術は身についてるのよ」と恐ろしい事を言う。
王に求められるのは個人の力では無く他者を動かす力……以前そんな事を聖女ティアリスも言っていたな。
……本気で神威さんがラスボスじゃね~だろうな?
一抹の不安を抱いていると、既に『ステゴロ』に乗り込んだ俺たちにズボンガ組の組長であるドワーフのズボンガのオッサンが操縦席に顔を寄せた。
茶色い髭のオッサン……どうでも良いけど少し某自動掃除ロボットに似た名前の軍人さんに似てるんだよな~。
「機体の頑丈さを向上させるのは勿論だが、今回は必要に合わせて装甲をパージできるように改修しといた…………どうだ? 動きに違和感は無いか?」
言われて俺は両手の動きを確認してみる……うん、特別ぎこちなさもなく動きはスムーズ、ここから更に軽量化が出来るなら戦闘時に相当なアドバンテージになる。
「いや、特に問題ない。すげーな脱着機能の搭載とか……」
俺たちにとって多少動きが遅く感じるって言っただけで数日でこんな改修を済ませてしまうドワーフたちの技術力はやはりすさまじい。
「一度外した装甲は試合中は戻せんし、もちろん減った装甲の分耐久性は著しく下がる…………だが、お前ら夫婦に言う事じゃないだろ?」
「……ま、そうだな」
「そうね……その通りだわ」
俺たちは二人で組長にサムズアップをして声をそろえる。
「「当たらなければどうという事はない!」」
・
・
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『さあ第一試合は今週初登場で怒涛の強さを見せつけ予選を通過したダークホース。新人のクセにカップルで揃った魔力操作を武器に華麗な操作性を見せつけるその様は正に舞踏の如く……ズボンガ組、タンデム式『ステゴロ』の登場だアアアア!!』
ナレーションが神威さんでは無く若いドワーフの女性だった事に若干ホッとする。
一応変装のつもりで仮面付きのヘルメットを俺たちは被っているけど……見る人が見ればバレるだろうからな。
それに……何か知り合いには見られたくないような……そんな気分。
「神威さん……あんな格好でハッチャけてたけど、大丈夫なのか? 知り合いがいないところでノリにノッてる最中で俺たちに出くわしたりしたら……」
部屋で闇の魔法を詠唱していた時に親に見られるレベルで黒歴史になるんじゃ……と少しだけ心配になったが、アマネは苦笑して首を横に振る。
「あ~その気遣いは無用だわ。あの娘は黒歴史を笑って受け入れる類の人種だから」
「……メンタルつえ~な」
どうやらまだまだ神威愛梨という人物は底が知れないようだ。
あんまり深く知りたいとは思わないけど、アマネを嫁にしている以上今後も関わる事になるんだろうね……末の妹の存在は。
不安の残る未来に言い知れぬ恐怖を感じていると、俺たちが入場した入り口の反対側からもう一体の機体、すなわち俺たちの対戦相手がゆっくりと姿を現した。
ゆっくりゆっくり近づいて来るキャタピラ音が力強く、全貌を露にしたその“巨体”に俺は思わずつぶやいた。
「で、でけえ……」
「私たちの2倍はありそうね……」
まず目についたのはそのガタイの大きさだったが、よく見てみると注目すべきはそこだけではない。
巨大な機体には他の機体には普通に搭載されていた『腕』はなく、代わりのように稼働するアーム8本すべてに砲門が搭載されていて、そして大口径の巨大な大砲を一門背中から担いでいる。
火力重視の砲撃タイプである事は一目瞭然だった。
「ひえ……なんて迫力……」
「多分動きは度外視にした長距離砲撃タイプだろうけど……」
『対するは“魔力エンジンを動作だけに使うのは勿体ねえ”とばかりに
しかしそんな見た目よりも何よりも、会場を盛り上げる為のナレーションの説明に俺たちは耳を疑った。
「ビ、ビームライフルっつったか!? 今!!」
「え!? 三人乗りですって!?」
疑問に答えるかのようにゆっくりと中央に進んでくる機体『ホーネット』の巨体には操縦士のドワーフと、そして俺たちと同じように機体制御の魔力要員のエルフが一人。
そして……右肩に担がれる格好の大砲には一人のエルフが『砲手』としてこちらをスコープから覗いてニヤリと笑う。
『属性が共なわないとその魔法は使えない! そんな概念を覆したのが魔力エンジンのエネルギーを武器に転用する方法!! 機体制御の他に攻撃用としてもう一つの魔力エンジンを搭載した為に巨大になっちまったが、そんなの関係ねぇ!! 予選を砲門の火力のみで突破した“ホーネット”の弾幕攻撃……とくと見ろ!!』
俺たちはご丁寧に対戦相手の説明をしてくれるナレーションに冷や汗が流れる。
だってビームライフルだぞ!?
おまけに魔力を外部に流して溜め込み任意で放出させる、それも属性を関係なしに……こんなもん、科学としても魔法としても先に行きすぎているだろ!?
「独自の発想でアニメの妄想を次々実現していくとは……本気でヤバいぞコレ」
「ドワーフとカムちょん……混ぜるな危険にも程があるわよ!!」
『それでは第一回戦、ステゴロVSホーネット…………レディ~~~~~ゴ~~~~!!』
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