第百三十三話 予選のバトルロイヤル
「確かに強引かつご都合解釈でまとめる事になりそうな感じだけど……そううまく行くのかな~。前に『夢魔の
俺が何を狙っているのか察したアマネが暗に“ソレで何とかなるの?”って感じに言う。
確かに以前『夢魔の女王』がリベンジにやった方法そのままでは、単にここの連中が同じ夢を見たってだけで終わるだろう。
そう……それだけで終われば意味がないのだ。
「これからやるのは『夢幻界牢』を使った集団催眠に近いかな? 最初は夢と現実が同じに感じるような夢を続けて、少しずつ夢の内容を変化させる。そして最終的には“夢と現実を逆転させる”のが目標だ」
「夢と現実の逆転!? …………あ~なるほど、確かにそれなら貴方の言うように物語を一本に絞る事が出来るかも……」
同じような夢をしばらく続けて見ていると夢と現実の境目があやふやになって行き……やがてこちらの意図した方を現実と認識させるという荒業。
しかしそれを実行するのは口で言うよりも遥かに難しい難題が幾つも転がっている。
それを見こうして女性陣二人も諸手を上げて賛成……とは言えないみたいで渋い顔になっている。
「でも下手すると全てがその『機神』に集中するって事で……魔法技術の粋を集めた世界にとっての脅威、それこそ人造魔王的な何かが出来上がる危険もあるんじゃないの?」
その危険性は大いにあり得る。
さっきのアマネの情報だけでも軽くロボットアニメの良いとこ取りしたみたいな某ゲームのラスボス感満載な機体が浮かんで来たくらいだからな。
「そこは……マジで調整を気を付けるべきだけど……アマネ、この国での地龍神の扱いってどんな感じなんだ?」
俺の質問にアマネはしばらく「ん~」と思い出すそぶりを見せて口を開く。
「そうねぇ……有体に言えば大地とつながりの深いドワーフたちに信仰されている土着の神様って感じかな? ただ地球でいう所の崇拝的な感じじゃなくて、魔力とか鉱物とかの直接的な恩恵も含めて、更に力でも上の存在としての崇める対象って感じかな?」
さすがは我嫁、現実逃避していようともしっかりと知るべき情報は収集してくれている。
だけど、その情報もあまり俺たちにとっては望ましい事じゃ無い。
それこそスズ姉が危惧するような魔王的な何かが、ドワーフ謹製で作り上げられてしまう可能性もあるって事だからな。
「ついでに聞くけど、制御出来ると思うか? その地龍神の魔石ってヤツをドワーフたちはさ……」
ハッキリ言えばおおよその予想は付いている事だが、アマネは静かに首を左右に振る。
「この世界の地龍神がどんなのかは分からないけど、膨大な魔力を制御する何て事は誰にも出来ないだろうし、そもそもドワーフたちもエルフたちも“制御しようなんて思ってない”感じだったわ」
「制御しようとしていない……か」
「どちらかと言えば魔石周辺にあった魔法陣はエルフたちが魔石の要請に応じて展開して、ドワーフたちも協力しているように見えたのよ……」
協力……か。
俺の脳裏に幾つかの意志を持った機体が登場するアニメがよぎって思いっきり頭を振る。
しかし膨大な力を持った地龍神の魔石自体に意志か、さもなきゃ魔石と融合して命を長らえているっていう輩の意志なのかは分からないけど……少なくとも“その何か”は自力で動けるようになりたがっている。
そんな状況でもしかしたら動けるようになるかもしれない新たな発想を都合よく得たドワーフたちが嬉々としてそのお願いを聞いている。
多分趣味と実益を兼ねて……だ。
「本気でタイミングが良すぎないか? おたくの妹さんがこの大洞穴に現れた時期も含めてさ……。このままじゃイ〇オ〇とか〇ヴァとか制御不能系の何かが出来上がるかも」
「こ、怖い事を言わないでよ。あの娘だってそんな終末的な何かを作りたがっているって事はないと思うし……」
「まあ……俺も神威さんに破滅的願望があるとは思ってないが……」
何となく“思う”が“思いたい”に聞こえたのは気のせいだろうか?
ただまあ……ロボットアニメが好きな輩は大抵“戦争のむなしさ”を語るプチ平和主義になりがちだ。
爆発やら破壊やらで盛り上がっておいて何を……と言われかねないけど。
どんなにご都合展開だったとしても“自分が重ねて見ている主人公サイド”が悪だとは思いたくないモノだ。
これだけのやらかしをしているとはいえ、神威さんもそうであると思う……思いたい。
あの人の根本は単なるイケメンパイロット主義であると……。
「色んなタイミングが悪かったのもあるわね。むしろ反乱軍にとっては良かったのかもしれないけどさ」
そうするとスズ姉が頬杖を着いてため息交じりに言う。
「君らが大好きなロボットアニメなら戦争は双方の主張とかどっちも悪いとは言えないとか色々小難しい問題があってしかるべきだけど……このシャンガリア・アスラル間での戦争は種族差別を理由に友好国に奇襲をかけて侵略したどっちが悪なのか分かり易過ぎる程分かりやすい図式だからね」
「あ~、確かにそりゃ……マズいな」
そう言われると何というか納得が行く。
何故なら同じ立場であったら俺も似たような事をしているんじゃないか? と思うから。
ありがちなヒロイックサーガと同じようなもんで、悪人がしっかりしていてこっちは攻められる弱小王国……恨み募る彼らが立ち上がろうとする反乱軍を奮い立たせて勝利に導く内政チート…………イカン、考えれば考えるほど燃えないワケがない!
「こっちとしては都合の悪い事に、別にカムちょん悪い事してるワケじゃないしね……やってる事は知ってるアニメ見せてるだけだし、理不尽な暴力に対抗する反乱軍を支援しようとしているワケだし」
アマネのその意見は否定しない。
元々彼女だって一般日本人、殺戮を良しとする人格では無いとは思う……しかしだ。
「それでも“面白がっている”のは変わりないと思うんだけど……」
「勿論その通り……趣味全開にしても良いっていう大義名分があるからこそ問題だって言いたいんでしょ?」
「いぐざくとりー…………」
だからこそ問題……趣味全開に色々な部門に分けてあらゆるロボットを製造している。
このまま放置してスーパーとリアルが大集合した某ゲームの戦艦状態になったら、最早手の施しようがない。
まず俺たちがするべきなのはその辺の発想の一本化、そして膨大な魔力の塊である地龍神の魔石を組み込んだ『機神』の開発を遅らせる事が急務だ
俺は目を細めてアマネとスズ姉を見据えて今後やるべき事を口にする。
「一番の問題は……やっぱり向こう側に神威さんがいるって事だ。今のまま『夢幻界牢』で夢と現実の混在を目指しても、彼女にとっては夢だろうが現実だろうが関係なくジャパニメーションを放映すれば元の木阿弥だからな」
「そうか……つまり最優先でやるべきなのは…………」
俺の言いたい事を察したアマネはコクリと頷いた。
*
翌日、ドワーフたちが誇る大洞穴のコロシアムでは早朝から本日の“バトリング”のトーナメント出場を賭けた予選会が行われていた。
予選会に出場する機体は基本的に車に上半身が乗っかったガ〇タ〇クもどきを個々に改造した『二人乗り型』が主流である。
ドワーフたちも各工房で独自に開発し、そして“我こそ最強”と名乗りを上げて出場するのだが、参加する規定は特に決められていない。
大雑把に言えば“再起不能な大怪我や殺しはご法度”というザックリした名目さえ守れば、ワリと誰でも参加する事が出来る。
ただ、やはりトーナメントとなるとベテランたちの腕に敵う者は少なく、運よく勝ち上がれても最後に控える黒い一人乗りの機体『敗北の亡霊』に土を付けられる事になる。
最近では『使いやすさではタンデム、強さではソロ』という固定概念すら生れそうになり始めていた。
そんな風潮を余り快く思っていないのが『敗北の亡霊』の操縦者であるナナリー本人であるのが何とも皮肉であった。
『一人乗りはどうしても操縦者への負担が大きい。私のように特殊な者しか扱えないようでは……』
本日も予選会からコロシアムを眺めるナナリーの目は落胆の色を隠せずにいた。
己が確固たる力を得る事も目標ではあるものの、先の戦争を敗走するしか無かった彼女にとっては使い易さ、運用法に秀でたタンデムでも自分より強者……強い機体が現れる事を心待ちにしていたのだった。
しかし、コロシアムに集まった予選の機体を眺めてみても……今のところはナナリーどころか、ナナリーが今まで倒してきた対戦相手よりもつたない操縦が目立つ。
『操縦と魔力運用……言い換えれば一つの体を二人で動かそうとしているのだからな。タンデム式で一人乗りより機敏に動くのは理論的に不可能……なのでしょうか?』
本日の予選参加の機体を見てみても、操縦士の操作と動きに関して僅かなタイムラグが生まれる。
ソロでの機体の操作方法は『自分の動作』である事を考えれば当たり前の事、何せ一人なら右手で物をつかむ動作にワザワザ思考などしない。
異世界からの協力者であるアイリがタンデム式の事を『まだまだ重機みたいな動きね』と言っていたのをナナリーには実物がどんなものなのかは分からなくても、何となく言いたい事のニュアンス『一つ一つの動作が生物よりもぎこちなくなってしまう動き』である事は感じ取っていた。
予選会は一試合十機の機体が入り乱れるいわゆるバトルロイヤル形式、最後まで操縦不能にならずに生き残れば勝利という単純な形式だ。
コロシアムに幾つかある侵入口から入場して来た十機は製作者の指向で少しづつ武器や装甲が違うものの、全て同系統のタンデム式だった。
本日も最終的には自分が勝利して終わるという不毛な結果になる……ナナリーはそんな風に思って予選を眺めていたのだった。
……数分前までは。
ドガアアアア!!
「…………え!?」
一つの巨大な装甲を重ね二本の腕をそのままハンマーにした武骨な機体。
しかしの動きは他のタンデム式とは一線を画していた。
パワーや速度が特別秀でていると言うワケではない……しかし動きに少しの無駄もないのだ。
最初に見慣れないルーキーだとタカを括って突っ込んでいった一機が、まるでダンスのターンでもしたように華麗に身を翻した瞬間、ナナリーの目はその一機のタンデム式にくぎ付けになった。
「な、何だあの機体は!? ズボンガ組?? あの重量特化の激突バカたちがあんな動きの機体を作り出したってのか!?」
「驚いてないでよおじさん! かわした反動でそのままこっちに……来たああああ!!」
「う、うおおおおお!? は、はええ!?」
他の機体から慌てて攻撃態勢を取ろうと必死になる声が聞えてくるが、ナナリーはそれが機体性能のせいでは無い事を正確に把握していた。
『す、すごい……あの四つタイヤのハンマーハンド、5機の中で多分実際には一番重くて遅い機体のはずなのに動きがまるで生き物のようにスムーズで“速く見える”』
驚愕の声とほぼ同時に金属がぶつかる轟音が響きわたる。
いつの間にか危なげなく2機の機体を行動不能にした一機に、残りの機体が全てが距離を取りつつ取り囲んでいた。
バトルロイヤルならではの常套手段、強者がいるなら取り合えずみんなで協力して潰しにかかる……それは特別卑怯でも何でもない。
しかし囲まれた一機は、まるで歴戦の剣豪がゆっくりと剣を手に歩むかのように……ほぼ同時に向かってきたすべての機体の攻撃をかわし、叩き落とし、その上で無駄なく向かってきた機体の足回りを狙って攻撃する。
負傷を最小限に目的を達成するのは一番の方法だが、そんな事を操作の難しいタンデム式で出来る輩がいるという事が脅威なのだ。
「そ、それまで! 予選第3回勝者は19番、ズボンガ組の『ステゴロ』だ!!」
観客のいないコロシアムに審判の戸惑いを孕んだ声が聞えてくる。
その声に無理もないと思いつつ、ナナリーはひそかにほくそ笑んでいた。
すべての機体が横転する中、悠々とコロシアムを出て行く『ステゴロ』と呼ばれた機体を見つめて、もしかしたら、あの二人であれば自分をタンデム式で下してくれるのではないだろうか……と。
「凄い……タンデム式の欠点など関係ないとばかりに、むしろ一体を二人で操作するじゃなく一体で二人分の性能を発揮するかのような無駄のない魔力運用……一体何者なのだろうか? 魔力が動力とかと違って精神エネルギーであるから、その辺はどうしようもない事のはずだったのに……」
チラリと見えた操縦席の二人、黒髪の男女である事だけ確認したナナリーは小さく唸る。
「まるで互いの全てを知り尽くしているかのような見事なシンクロ……一体何者なのでしょうか?」
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