第百一話 ラッパに似た球根植物の危険な香り
それからは神楽さんとコノハちゃんのタッグによる能力の説明会になった。
「本当にコノハちゃんは凄いのよ。稲荷神の末裔は伊達じゃないわ!」
『私の術はモモちゃんの
何というかどちらもが“凄いのは自分じゃない”って感じに相手を持ち上げる発言が微笑ましい。
天音はスマフォと電池って表現したけど個人的には神楽さんが『火薬』であり『弾丸』、コノハちゃんが『銃身』であり『火種』であると考えた方がしっくり来た。
そんな二人が使える能力は『狐火』『狐の嫁入り』『変化』『浮雲』の4つ。
『狐火』は先ほど見たように白い神聖な炎で敵を屠る攻撃、二人がこの町で英雄に祭り上げられた最たる理由だろう。
何しろアンデッドを延焼させると言うより消滅させてしまう攻撃なんだから。
『狐の嫁入り』は大地や生き物を汚す“瘴気”を浄化する聖水を生み出す術……まあ名前的には雨っぽいけどな。
何でもこの瘴気ってヤツに侵され死亡した存在がアンデッドであり、アンデッドに攻撃を受けた者が傷を放置すると次第に瘴気に侵食されてやがて新たなアンデッドになってしまうんだとか……。
もはや日本どころか世界的にもゾンビの定番はウイルスが原因……みたいに言われているけど、こっちの世界の定義ではそれが常識らしいな。
土地も瘴気の浸食を受けると生物が育たたないどころか、新たなアンデッドを生み出す温床になってしまうと言うのだからシャレにならん。
しかしそんな瘴気に犯された物を全て浄化できるらしいのだから物凄い……さすがはカワイイモフモフでも神様のコノハちゃん、ナチュラルに聖属性である。
『変化』はそのまま狐としては分かりやすい、そのまま化ける事が出来る術。
戦闘時に人が乗れるほど巨大な金色の獣になっていたのは勿論の事、神楽さんが銀髪の巫女姿も『変化』によるもので、他者まで変化できると言うのだから素晴らしい。
おふざけで神楽さんがコノハちゃんに頼んで天音の事をケモミミ姿に化けさせキャッキャし始めるのを目にして……俺はどうしてこの場に撮影機材が持ち込めないのかと心底悔やむ。
「何故『夢の本』は持ち込めるのにスマフォがダメだったんだ!? 今まさに歴史に残すべき光景が目の前に広がっていると言うのに……」
「ちょ、ちょっと……本当に血の涙を流して悔しがらないでくれる? なに妙な特技を発揮してんのよ!?」
「ユメジも私も今は水人形の憑依体だからね~。ある程度は感情に沿って自由に“操縦”出来るから……」
天音の分析に神楽さんは心底呆れた溜息を洩らした。
「……そういう凄そうな技術を何に使ってんのよ、アンタの幼馴染は」
そして『浮雲』は空を雲のように駆ける術で……平たく言えば空を飛ぶ事が出来る。
ヒーローの如く空から現れ空へと消えて行った二人のからくりは、まあこの術があったおかげって事らしい。
まあ、ここまで『対アンデッドチート』が揃っていれば『不死病の森』の近隣で苦しんでいた町に現れた日には……そりゃ~ヒーローになっちゃうよな~。
俺は若干の呆れを覚えつつも天音が終始「カグちゃんらしいね」と言っていた事で、この人も天音の親友なんだな~と納得する事にした。
「でもまあ、何にしても無事でよかったよ二人とも。まだ神威さんの捜索があるけど、とりあえず待ってれば時期に赤いバイクのお迎えが来るはずだから……」
しかし俺がそう言うと神楽さんは言葉を詰まらせて、気まずそうに頬を掻く。
「あ~っと……夢次、そのお迎えなんだけど……どのくらいで来るの?」
「あん? どのくらい……かは分からないけど、そんなに掛からないとは思うよ?」
「スズ姉の話では時間のズレは安定していないって事だし、私の時が参考になるのか分からないけど……2~3日中には来るんじゃないかな?」
「2~3日中……か」
しかし神楽さんは尚も唸り何かを悩む素振りをすると、言いにくそうに口を開いた。
「二人とも……ちょっとだけお願いがあるんだけど……さ……」
「「はい?」」
*
「お、おい、アレって……」
「マジか!? 俺実物見たのは初めてだぜ!!」
「おお……金色の……」
俺たちが訪れただけでザワつく荒くれの冒険者共、彼らの注目は勿論我らが姉御である銀髪の巫女『金色の獣使い』こと神楽さんである。
彼女のお願いで再び冒険者ギルドに来た俺たちだったが、『変化』でこの姿になった神楽さんは何というか強者の風格を漂わせていて……その威光に慄いた冒険者たちの中を颯爽と歩いて行く。
中にはさっき訪れた俺たちの事を知っている連中もいるようで「アイツらは!?」とか「本当に知り合いだったのか!?」な~んて会話も聞こえて来る……知らんけど。
神楽さんのお願いで冒険者ギルドに再び訪れた俺達だったが、最初に来た時よりも格段に悪目立ちしているのが分かるな。
主に神楽さん《あねご》のせいで……。
そんな当人である神楽さんは注目を気にした風もなく、金髪オカッパバージョンのコノハちゃんを伴って俺たちの対応もしてくれた猫耳獣人の受付嬢の前に立った。
猫耳少女は耳と尻尾をピンと立てて、神楽さんに対して緊張しているのが丸わかりである。
「お、おま、お待ちしていましたのにゃ! 金色の獣使い、カグラさん!!」
そんな緊張しっぱなしの猫耳少女に神楽さんはクスリと笑うと何を思ったのか、優しく頭を撫でてあげた。
その瞬間、猫耳少女の顔がボンと爆発したように真っ赤になった。
「は、はひ!?」
「そんな緊張しなくても大丈夫……いつもありがとうねニーナちゃん」
「ふ……ふわ…………そ、そんにゃ事……」
「ギルマスはどこ? 二階なのかしら」
「そ、そうですのにゃ……応接室でお待ちですのにゃ……お姉様……」
「そう……ありがとう、ニーナちゃん」
礼を言われた猫耳少女のニーナちゃんとやらは目に見えて瞳を潤ませてうっとりとしてしまっているし……何だろう、あの受付に気のせいか白い花が見えたような……。
そんなやり取りに注目していた冒険者たちが男女を問わずに顔を赤らめて見ている。
中には悔しそうな瞳で睨んでいる女子の皆様もいて……。
俺は天音をチラッと見ると、何か“またか”的な顔をしている事で妙な疑念が浮かび上がって来た。
「……なあ天音、もしかして神楽さんって」
「疑うのも無理ないけど違うからね?」
しかし天音も俺が香りが強いラッパにも似た球根植物を思い浮かべたのを察したのか、瞬時に釘を刺してきた。
「カグちゃんって昔から頼りがいがあって姉御肌、見た目ギャルなのに努力家で成績優秀、それでいてカワイイのが大好きだから年下の娘に慕われやすくてね~。オマケにああいうのをナチュラルにやっちゃう男前だから学校でも……結構……ね?」
「マジかい……」
仲良し『三女神』の意外な情報を知ってしまった気分である。
天音にはその手の後輩がいる事は知っていたが……その辺に付いても聞いてみると天音は笑いながら否定する。
「私なんて大した事ないない。せいぜい“そう言う意味で”私たちを三姉妹と考えたい娘たちがキャーキャーしてるくらいでね~」
「ブフ!?」
あっけらかんとそんな事を言われて俺は思わずそんな図を想像してしまい、吹き出してしまった。
「お……お前らは良いのか? そんな風に言われてても……」
「別に良いんじゃない? 気にする人は気にするでしょうけど、私たちは気にしないし……カムちょんなんてむしろダメ出しするくらいよ? 『絡みが甘い!!』ってさ」
「つええ……」
俺は変な所で女子と男子の友情形成の違いを確認した気分だった。
そして少し複雑な気分も……もしかして俺が警戒すべきなのはチャラ男とかそんなんじゃなくて……。
そんな事をチラッと考えた途端にバシリと後頭部を叩かれた。
「あた!?」
「妙な事考えてないで……カグちゃんが呼んでる。ほら行くわよ」
「……はいはい」
水人形の憑依体だから痛みはないのに、痛いと言ってしまうのは本能なのだろうか?
というか今何も口にしていないのに完全に考えを読まれたような気が……。
少々複雑な気分で促されるままに俺たちはギルドの奥、2階の応接室へと入ると……そこにいたのは見た目の年齢は20代前半って感じの男性が座っていた。
男性は俺たちを見ると気さくそうに、何とも爽やかなイケメンスマイルを向けて来た。
「やあカグラ君、待っていたよ。それにお仲間のお二人も……」
「約束通り来てあげたわよ、ギルマス」
「ギルマス!? この人が!?」
冒険者たちのまとめ役、社長とかに分類される人物と考えていた天音は目の前にいる人物が自分たちとあまり変わらない年齢に見えたようで驚きの声を上げていた。
しかし俺はそれ以上に気になった事が目の前の男性にあった。
金髪碧眼の美青年、そして特徴的な長く尖った耳を持つ種族……その種族だとするなら、目の前の男性が見た目通りの年齢なのかは甚だ怪しくなってくる。
「エルフ……?」
俺の呟きに目の前の男、エルフのギルドマスターは特に機嫌を悪くした風も無く笑ったままだが……明らかに警戒をしたような“目が笑っていない”笑い方に変化する。
「どうぞお掛け下さい皆様、私は表向き当ギルドのまとめ役を担っておりますブロッケンと申します……お察しの通りエルフ族の一人でございます。以後御見知りおきを……異界よりの訪問者の皆様」
「「!?」」
その一言で今度は俺と天音が神楽さんの言う“お願い”に警戒色を強める事になった。
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