第九十一話 人妻の微笑
そんな二人は自然な様子で俺たちと同じテーブルに着いた。
余談だが、このホテルは宿泊客でなくても朝食代さえ払えばビュッフェを利用できるシステムらしく、後から着たっぽいスズ姉も同伴出来るんだとか。
あと、両家の両親は昨日大分深酒したらしく全員二日酔いでダウン中らしい。
そんな感じで俺たちは取り合えず朝食を取りに行かずに席に座ると、夢香が某指令の如く手を組んで口を開いた。
「お兄ちゃん……一から十まで、などと野暮な事は言わないけど一つだけ確認させてもらっても良いかな?」
「な、何だよ……」
視線は鋭くまるで睨みつけるような妹に俺は額から一筋冷や汗が流れる。
「どこまでイッたの?」
「ぐ……」
それは絶対に聞かれるとは思っていたけど、予想していたからって答えようのない質問だった。
何故なら……それは俺が現在最も知りたい事だからだ!!
俺は昨夜から今までに至るまでに何をしたのだろうか!?
そもそも告白は成功しているのか?
天音はいつナイトドレスからバスローブに着替えていたのか?
一体俺はどういう流れで半裸状態で天音と一緒のベッドで寝ていたのだろうか?
昨夜俺が見ていた夢と無関係ではないと思うんだけど、俺にとっては夢よりも『あのスウィートルーム』で起こった出来事の方が最重要案件である。
だってもしも……もしも俺が天音に色々としているなら…………覚えてないなんて、もったいなさ過ぎるじゃないか!!
俺は全力で、頭の血管がブチ切れる程に全力で昨夜の出来事を思い出そうとする。
しかし、そんな俺とは裏腹に余裕のある感じで隣の席で微笑んだ天音は……自然な感じで俺の首に手を回して体ごと抱き着いて来た。
そして目を見開く夢香に一言……。
「ん~~まあ、もうただの幼馴染には戻れないかな~? 私たち……」
「へ?」
天音の言葉の意味が簡単には飲み込めずに間の抜けた声を漏らしてしまう。
た、ただの幼馴染には戻れないとか……それって……それって!?
その瞬間、反応できずにいる俺とは裏腹に妹は勢いよく立ち上がると、俺の肩を力いっぱいバシリと叩いて来た。
超嬉しそうな笑顔で…………。
「いってえ!? なにす……」
「でかしたぞお兄ちゃん! やっぱやるときゃやるじゃん!! 天音さん……じゃなくてアマ姉! ふつつかな兄ですけど末永くよろしくお願いしますね!!」
*
「お~いアマネ……」
「な~に?」
「いじめ過ぎ……」
「あははは……」
なんかもう一杯一杯な感じで顔どころか全身が真っ赤に染まった夢次を「よ~し朝から祝杯だお兄ちゃん!」と妹が朝食を取りにつれ出したのを見計ってからスズ姉がそう言うと“アマネ”は無邪気な顔で笑った。
「ま、今は非常事態……“あの二人”が何時発見できるか分からないからしばらくは“その状態”でいて貰っているのは、本来貴女には不本意でしょうけどさ……」
向こうの世界で色々とやらかした後……次元を超えてバイクを走らせたスズ姉がアマネを迎えに行った事で彼女は昨夜のうちに“こっち”に帰還する事が出来ていた。
しかし同時期に召喚されたのは『3人』、その事は女神たちも感知していて相手があの時間帯に近くにいた二人『神楽百恵』と『神威愛梨』である事は判明していた。
いつもなら即時封じる『無忘却の魔導士』である記憶を意図的に今回はそのままにしているのは発見次第救出に向かえるようにとの緊急対応なのだったが……。
5年以上の付き合いを経て彼の嫁にまでなった“アマネ”は「なら折角だし」と少し悪乗りしているのだ。
夢次が今の彼女を年上のように思えたのも仕方のない事……実際今の彼女の精神年齢は本来の年齢よりも5歳上なのだから。
「親友の危機に四の五の言ってられないからその辺は仕方が無いよ“ベルの姉御”。それに似たような悪戯を前に姉御もしたじゃない?」
「む……確かに一度朝チュンを仕掛けた者が指摘するのも何だけど、アマネが直接行動起こすのは意味合いが全く違って来るでしょうが……それこそ元に戻した後が問題何じゃないの? 『神崎天音』としてはさ……」
スズ姉の指摘に多少は自覚があった様で、気まずそうにアマネは頬を掻いた。
実際彼女は帰還後に着替えて、寝ていた夢次の隣で添い寝してただけなのだった。
夢次側にも少々の悪ふざけ(半裸状態)を演出して……。
「や~~それは分かっちゃいるんだけどさ~。私たちって
「荒んでたの?」
持って来たスクランブルエッグとウインナーをパンに挟んで簡易的なサンドイッチを自作したスズ姉が豪快にかぶり付きながら聞き返す。
「あ~うん……その時は丁度、初めて大事な仲間を失った時だったから……さ」
「…………」
その言葉でスズ姉は……いや前世名『リーンベル』は何も言えなくなってしまう。
亡くした大事な仲間が前世における自分である事は聞かなくても分かる事。
あの時は二人の弟子を逃がす事に必死だったし、他に方法が無かったのも事実だったから自分の行動が間違っていたとは思わない。
しかし残された二人がどんな思いで魔王討伐まで生き抜いたのかを考えると、スズ姉は何とも言えない気分になった。
「大切な人が突然いなくなる……その事で私たちって当時はちょ~っと共依存状態でさ~。四六時中互いが視界にいないと、触れてないと不安で不安で仕方が無くて……数か月はいつでも一緒で……」
アマネはアンニュイな感じで視線を上に向けて溜息を一つ吐いた。
「“あの時”もそう……何か失う恐怖を誤魔化す為に互いに求め合っていたと言うか、貪り合っていたと言うか……」
「ぶふ!?」
しかしそこまで聞いてスズ姉としては罪悪感を持ったら良いのか、それとも恥じらいを持った方が良いのか分からなくなる。
「だ~からさ……普通の学生してた時の彼はこんな反応するんだ~って思うと嬉しくって……軽くキスしただけで真っ赤っかになってたもん。前なんかはどっちも酸欠起こすくらいに舌を……」
「やめて……朝からハードエロは……」
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