疎遠な幼馴染と異世界で結婚した夢を見たが、それから幼馴染の様子がおかしいんだが？

第六十七話 主人公の真の敵は市長とＳＰ

『自分から動く…………』

　しかし俺が言った当たり前でしかない事は横峯の琴線に触れたようで『横峯キマイラ』は落ち込んだように下を向いてしまう。

『そうなんだよな……それしか無い事は最初から分かってるんだよな……ネチネチ言い訳捏ねたところで全部自業自得、動かない自分が悪いって事はよ』

『実行したからこそ言えるけど、お前の今の気持ちは分かるよ……もしも無視されたらと思えば最後通牒のようなもんだものな……怖いよな……』

　天音に何年かぶりの挨拶をする時、俺もこの気持ちを味わっている。

　それは“ここで何もなければ二度と天音と話す事は無いだろう”という背水の気持ち。

　自分が一番想っている人物から更に嫌われるかもしれない……その恐怖を知っているだけに無責任に頑張れも諦めるなも俺には言えない。

　それからしばらくの間主人公機同士が向かい合う沈黙が続いたが、沈黙を破ったのは『横峯キマイラ』の方からだった。

『でも……やっぱりお前と俺じゃ状況が全然違くないか？』

『……んな事無いだろ。さっきも言ったけど嫌われているって思い込んでる今の状況からもほとんど同じで……』

『いや、そこじゃない精神的な類似点とかそんな事じゃ無くてよ……話を聞いてる限りじゃお前は別に神崎に嫌われていたワケじゃ無いだろ？』

『え？　いやまあ…………結果的には……』

　そう言われるとちょっと照れる。

　確かに天音と俺は些細な事情から疎遠になっていただけで、互いに悪印象があったワケじゃないと後から分かってけど……。

『それにお前の周囲だって協力的だったじゃねーか。お前の悪友どもは否定するとは思えねーし、神崎のダチらも俺らと違って好意的だったじゃねーのか？』

『ん？　ん～～～まあそう、かな？』

『やっかんでるのは俺らの大将くらいなもんで……それだって“共通の敵”って良い影響しか無かっただろ？』

　なんだろう？　また何気に雲行きが怪しくなってきたような……。

　肩を落としていた『横峯キマイラ』の瞳がヴンヴンと赤い光を放ち始めている。

　まるで愚痴をパワーに変えてチャージしているかのように……。

『確かに俺はビビって行動出来ないだけのヘタレだ。神威に嫌われているって決めつけて行動を起こしていないだけ……それは認める……認めるけどよ……』

『な、何だよ？』

『少なくともお前らに対する神威の好感度よりも俺が低いのは確定的だろ……』

『……は？』

　何言ってんだお前……と一瞬返そうと思ったのだが、徐々に光を強めて行く瞳の色が言い様の無い迫力を生んで……何やら冷や汗が出て来る。

『お前は……まず見たまんまだし、工藤は神楽狙いだろう？　だけど残りの二人は間違いなくあの娘狙い……なんだろ？』

『え？　ええ？』

　瞬間俺はヤツが何を言っているのか分からなかった。

　何だって？　あの二人、武田と浜中が神威さん狙いだと？？

　そんな素振りや会話を聞いた覚えも無いけど？？

　鬱々と呟くヤツの瞳から更にパワーをチャージする音が……さっきよりも強い光と共に高まって来ている。

『不本意ではあるけどよ、俺はそんな連中を結構見て来たからな。外野から見てれば何となくだけど分かっちまうんだよ……誰が誰を狙っているか……』

『お、おいちょっと待てよ、興奮するな！　少し考えさせて……』

　唐突に言われてた予期せぬ情報に、俺はつい最近の仲間内の会話や行動を思い返してみる事にする。

　まず工藤が神楽さん狙いだと？

　俺たちの仲間内で一番上級者のオタクである工藤だが、ヤツは成績優秀で見た目がギャルっぽいのに真面目でこれまた成績優秀な神楽さんと一番話の合う男子ではある。

　それに最近は怪談や都市伝説を一番怖がるヤツは神楽さんのお気に入りでもあったりして…………なるほど、確かにそう言われてみると……。

　男は単純な生き物だがオタクはもっと単純だ。

　自分に親しくしてくれる女子を好きになった所で不思議はないよな……。

　んで肝心な武田と浜中だが……どちらも運動の出来るタイプのオタクで好みも少し脳筋なところもある。

　それは別に肉体的な事だけじゃなく議論を戦わせるなどバトルを好む思考と言うか。

『後は神威さんが来れば激論の続きが出来るな……まさか我らのスーパーとリアルの戦乱に参入する武士が現れるとは思わなかったですが……』

『キャラメインの思想……彼女の考えも間違いであるとは言い難いからな～……ふふふ本日はどんな力強い主張が交わされるのか』

　この前の放課後の馬鹿話前……神威さんの登場を待っていた武田と浜中の実に嬉しそうな、少々舞い上がっている姿を思い出す。

　そう言えば以前好みのヒロインは何かって議論した時に言ってたっけか？

　確か工藤は『ギャップ萌え』で武田は『守ってあげたいお姫様』、浜中は『可愛い系のメガネ娘』だったっけ…………う～む。

　俺は考察に考察を重ねて…………結論を口にした。

『うん…………狙ってるかも』

『ほらみろおおおおおおお！！』

ヴァアアアアアアアアアアア…………

『タワバ！？』

　俺の不用意な呟きに『横峯キマイラ』の瞳から極太な赤い光線が放たれた。

　俺は変なうめき声と共にキ〇ヌばりののけ反りで何とか射線上から身をかわすが、流れ弾と化した光線は遠くの方で月面都市の隔壁をぶち抜いて赤い光の大爆発を引き起こす。

　月面に必要の無い新たなクレーターを作り出した。

　しかしまあ、さすがは夢の世界……こんな大破壊を引き起こしているのに空気が無くなり真空状態～なんて当たり前の事が起こる様子もない。

　何処までも夢を見る者にとって都合の良い世界……俺はそんな状況にホッと一息付いて『横峯キマイラ』に向き直った。

『こらあ！　八つ当たりでキマイラ最大火力『ウィッチの光』をぶっ放すんじゃない！！　今の話だと俺は関係ないじゃないか！！　やるなら武田か浜中にぶっ放せよな～』

『るせええええ！！　スタートラインで出遅れてんだよ俺はあああああ！！』

『そもそもお前らって全員彼女いるって聞いてたけど？　そこは良いのか？』

　以前斎藤が神楽さんを慌ててモーションを掛けていた理由が確かそれだったな……仲間内で自分だけ彼女がいないのに焦ってとか、中々に最低な理由だった事を。

　俺はその事を思い出して振ってみると『横峯キマイラ』は機械の瞳から血の涙を流さんばかりの咆哮を上げ手にしたキマイラの剣を振り下ろして来る。

『ヤツらの手前見栄張る為のウソに決まってんだろうがああ！！　スマフォの女は東京在住、大学生の従姉の写真だ！　文句あっかああああああああ！！』

『よし！　聞いて悪かった！！』

　俺は自分もキマイラの剣を具現化させて攻撃を受け止め謝罪する。

　うむ……聞くべき事では無かったな。

　もう横峯の“チャラ男のメッキ”はボロボロで取り繕う気も無くなったようだな。

　でも、正直俺は感情のままに色々と吐き出す横峯が最早嫌いでは無かった。

　あんなにチャラ男連中と共に俺たちを見下して粋がっていたヤツであっても、苦悩しながら生きにくく生きていて……根っこの部分は自分たちと何も変わらないバカな男であるのだから……。

　だから……俺はヤツの為に『夢の本』を開いた。

『夢幻界牢』……市内全土を巻き込んだ市内にいる全ての人々が見る夢の世界。

　媒体となった横峯が夢から目覚めたら大半の人々は『妙な夢を見た』と思うか、さもなきゃ何の夢を見ていたのかすら覚えていないかだろう。

　そしてそれは目の前で本音を暴露する横峯自身も……。

　例外を上げるとするなら俺の関係者、天音やスズ姉は夢の記憶を保持できるだろうけど今回はまるで仕組まれたかのようにいない。

　つまりこの世界は市内全土を巻き込む『共有夢』……何があっても横峯の本音が現実に漏れ出る事は無いみんなで見るだけの泡沫の夢。

　だったら……万人の記憶に夢としてしか残らない記憶であるとするなら……大いに楽しかったって『想い』は残したいじゃないか。

　俺が開いたページを叩いた瞬間俺の体から四つの光が抜け出して、その光は俺が『明晰夢』を見せたい相手全てに向かって方々に散って行った。

夢操作　上級②　『夢人創成』

　夢の世界において自分の分体を作成する。

　ごく単純な見たり聞いたり触れたりするくらいしか出来ず、前任者曰く『読者視点』を夢の中で得る程度との事。

　要するに多少自由に動くカメラくらいの機能しかないみたいで、多くすればする程精度は落ちて行くようで……今のところ限度は５体までだ。

　ただ一応本人の分体なので、特定の対象に“本人が触れた”という影響を与える事は出来るらしい。

　つまり夢の中で俺自身が触れるというのと同じになるって事で……。

『ここからは特別サービスだ。配役なんか取っ払って、馬鹿どもと馬鹿話をして恋敵どもと大いにケンカをして、最後にゃみんなで本人相手に玉砕しろ！！』

　……後から考えるとこの時俺は完全に乗せられていた。

　一度スズ姉を夢の中で“触れた”事で覚醒させた事も含めて……。

　　　　　　　　　　　　　　　　＊

　機械技術の二大理論、始まりは元々企業同士の経済戦争だった。

　しかし万人が使用できる力と選ばれた者が使える圧倒的な力の対立は容易に主義主張から宗教対立にまで発展してしまう大規模な戦争へと発展して行った。

　そんな人類によって生み出された技術によって人類が滅んで行く現状を何とかしたくて、二大理論を掛け合わせて更なる力を生み出す第三の理論で自ら組み上げた最新鋭の『魔動機兵キマイラ』……そんなこの世に二つと存在しない機体をさっきまで修理していた『カムイ・アリス』は隠れ家の廃棄ブロックから見える光景に呆然としていた。

「何よあれ……キマイラが２体？」

　月面都市南部ブロックで激しい戦いを繰り広げる２体の『キマイラ』……そんなものが存在する事自体彼女にとってはあり得ない事なのだから。

　戦争を止めたくて生み出した『キマイラ』は彼女の意志とは裏腹に今までの機体よりも遥かに高い戦闘能力を有してしまっている。

　その為彼女は両方の陣営から追われる身になっていると言うのに……。

「まさか機密漏洩？　いや……そうだったとしたら私が今追われている状況がそもそもおかしいでしょうに……」

　自らの機体が今後引き起こす破壊を恐怖しつつ考えを巡らせても答えは全く出ない。

　そもそも出るワケが無い……本来なら、アニメの本編であればこんな光景あり得ないんだから。

　彼女が遠くを眺めて恐怖に慄いていると、彼女の後頭部に光る玉のような物が唐突に現れた。

　そして光の玉はそのまま彼女の後頭部にそっと“触れる”と、そのまま役目を終えたとばかりに虚空へと消えて行く。

「……？　あ、あれ？？　あれれ？？　何……一体何なの？？」

　その瞬間、遠くで行われる『キマイラ』同士の戦いを恐怖の瞳で眺めていた『カムイ・アリス』の瞳が“恐怖ではない何か”に変わる。

　そして表情を無くしてボソリと呟いた一言はアニメのヒロインではあり得ない……『神威愛梨』としての言葉であった。

「何アレ…………超……楽しそう……」