第五十七話 末の妹はやらかすものらしい
「そろそろ真面目に情報交換しようか……」
俺の一言でようやくここに至って原因について話し合う事になった。
自分たち以外のすべてが夢遊状態の異常事態に随分悠長に構えてるな~と自分でも思うのだがな……。
神楽さんの「まあ追加情報は時間をかけて口を割らせるとするか」と、何やら不穏な発言があったけど、とにかく今は無視しておく。
「コノハちゃん、夜中に爆発的な力がどうとか言ってたけど……それってどんな物なの?」
俺たちが一番に分かっていないのがまずその事なのだ。
何しろその事について認識しているのはこの場では稲荷神のコノハちゃんだけで、発生当時に守ってもらった神楽さんも正気を保ってはいるけど“爆発的な力”とやらは認識していないらしい。
霊感の無い人が霊の存在を認識できない……みたいな話だが。
コノハちゃんは小皿に取り分けた油揚げをハグハグしながら俺たちを見上げる。
「……とっても強い力です。でも火とか水とか分かりやすい力とかじゃ無いです。もっとこう……一部の神が使う力に似ていた気がするです」
「一部の……って事はお母さん、サカキさんもこんな事が出来るって事?」
俺が何気なく言うとコノハちゃんは小さく首を横に振った。
「同じ神でも色々種類が違うです。干渉できる事には差があって、例えばお母様は白鷺家由来のお山を守護する神ですし、今の私は神楽家を守る為に遣わされた守護神ですから、守る事には特化してますが攻撃的な力はあまり……」
「あ~なるほど……」
つまり使えないと言うよりは使う必要がない……コノハちゃんたち母娘はあくまで言葉の通り守護神なのだろう。
「って事はコノハちゃん、こんな事をしたヤツは神様、もしくは神に匹敵する力を持っているって事になるのかな?」
天音が思わず口に出した言葉に俺は背筋が寒くなった。
神に匹敵する力……漫画みたいな言い方だけど実際に聞くと中二臭くもあるのに、周りの夢遊状態の連中を見ると……一つも笑えない。
『お母様は言ってたですが、市内全土を包み込めるのは相当な力が無くては不可能です。この状態を作り出した何者かが膨大な神通力を持っているのは間違いない……と』
「神通力……名前に神が入るとカッコイイけど、この状況じゃ緊張感しか感じないね」
神楽さんが苦笑してそう言うとコノハちゃんが補足してくれる。
『言い方は色々なのです。自分の意志で行使して自然界に働きかける力という事でしかないのですから、私は馴染み深いので神通力と呼んでますけど人によっては霊力、気力、法力、精霊力、あるいは魔力なんて言い方もしますし……』
「魔力…………」
何かが引っかかったのか、天音がコノハちゃんの説明に呟くけどコノハちゃんは気にした様子もなくそのまま続ける。
『ただ、お母様が言うにはそれ程の力を持って使用した割には目的が全く分からないと言っていたのですよ』
「目的? この状況を作り出す事が目的じゃないの? 市内全域の夢遊状態、コレほどの異常事態が起こっているけどその事は目的じゃないってのか?」
大勢の人間を眠りに落としてその内に何らかの悪事を行う……この状況からベタにそんな感じに思っていたけど……。
『夢遊状態に陥った人々は全て眠ったままでも“日常”を維持してるです。この現象を市内だけに留めて混乱を引き起こす様子は丸一日たっても無いのです』
「はい? 市内のみに留める??」
俺がいまいち理解出来ないでいると、神楽さんはルーズリーフを一枚カバンから取り出して大きく円を描いた。
「この円の内側が市内、そしてこの円は半径10キロ前後って事になる。分かりやすく言えばコレが『眠りの結界』って事になるんだけど……不思議な事にこの境目、出入りは完全に自由自在でね、夢遊状態はここを境に醒めるようになってたわ」
神楽さんは円の外周をトントンとシャーペンで叩いて示す。
「マジで? てっきりここを境に出入り不可だと思っていたのに……」
「うん、試しに電車で市外まで出てみたけど……車内の人たちの夢遊状態が境目を過ぎた瞬間一気に醒めて、一斉にしゃべりだしたし、逆に市内に戻ってくると境目を過ぎた瞬間に目を閉じて一斉にしゃべらなくなる……不気味過ぎて思わず笑っちゃったよ。」
フラッシュモブにでも遭遇した気分だと苦笑して見せるけど、そんな笑える状況じゃない気がする。
つまりこんな状況を起こした何者かは社会的に混乱を起こさないように注意しつつ、膨大な力を行使して、この『眠りの結界』を維持している……だからこの状況には市外の人間も気が付く事が出来ない。
何しろ市内に踏み込んだ瞬間に眠りに落ちるのだからな。
大規模な事をしておいて人間社会を混乱させるつもりはないような……随分とちぐはぐな印象だけど……。
一体何のためにこんな状況……市内全土を夢遊状態にする意味があったのか……。
「目的って……やっぱり私たちが見ていたあの夢の内容にヒントがあるのかな?」
「夢の内容にヒント…………まさか……」
その時、俺の脳裏に何やら逆転の発想と言うべき妙な考えが浮かんできた。
俺はまさかそんな事は無いよな~と思いつつ……その考えを口に出してみる。
「まさか……なに?」
「まさか主目的は『夢』の方で、夢遊状態の方が『オマケ』って事は無いよな?」
「え!?」
天音は俺の突飛な発想の転換に目が点になってしまった。
だけど何故かそう考えを転換した途端に思考にブーストが掛かったように、さっきまで見ていた未来世界の夢について考えがまとまって行く。
……極力俺と天音のゴニョゴニョについては思い出さないようにして、夢の中の他の部分に注目する。
そうすると……だ……『未来の世界』『月面都市』、そして『ロボット思想の違いから発展してしまった戦争』を題材にした設定……ここに至って俺はようやくあの夢の概要が分かった。
「……何で夢ってのは見ている時にはどんな荒唐無稽な状況でも受け入れてしまって、それ以上の事には気が付けなくなるんだろうな」
「……何か分かったの?」
最近は夢の中で自覚できる『明晰夢』ばかり見ていたせいか、その辺の感覚を忘れていたけど、本来夢は勝手に流れるムービーみたいなものだ。
何故か世界観が『今期の量産型ロボットのアニメの世界』であっても気が付けないと突っ込む事すら出来ず、夢の間は気が付く事は出来ない!
そして目が覚めた時に思うのだ“○○の夢を見た”と……。
「分かんないか? 未来の月面基地に二大ロボット理論から発生した戦争に終止符を打つべく混合した第三の理論を打ち立てた博士がテロに遭うところから始まるストーリー。この前工藤たちと激しい議論の対象になった今期のロボットアニメ……」
「え? まさかあの夢って……」
「大学に特別講師で来たヒロインの博士がテロに襲われて爆発事件が発生、そこを主人公が助けてヒロインのロボットに乗り込む下りは第一話の流れそのまんまだ……。くそ、道理で爆発が起こるのを俺が察知できたはずだよ……」
夢の中で咄嗟に天音を助けた時、俺は第六感がどうとかハズい事を口走っていたけど、知っていて当然だったのだ。
何せ俺はあのアニメを今期、第一話から欠かさずに見ているのだから……。
つまりあの夢は『絶賛放送中のロボットアニメのパクリ』だったワケだ。
「あ……そうなんだ。私、あのアニメ実は最初の方を見逃してて……月面都市から始まるんだ~あれ…………………………」
天音はそこまで自分でしゃべってから……表情を無くした。
どうやら……あの夢が『あのアニメ』を忠実に再現した何者かの夢だとするなら、その夢が誰の夢なのかが問題になってくる。
だって、それはつまり……犯人か、それに準ずる何者かである事になるのだから。
最初からちゃんと見ていない天音は当然だけど『月面都市』の下りを知らなかった。
夢とは自分の記憶の中から構成されるものであるらしく、忠実な再現を行う為にはあのアニメを第一話からしっかりと見る必要がある。
更に……あの世界が何者かの夢ならば、その何者かが主要人物になりたがらない理由はない。
その辺の気持ちは散々明晰夢で遊んだ俺が一番よく知っている。
主要人物で、一話からしっかりと干渉する人……あの夢の中でそれに当てはまる人物は……俺たちの中では眼鏡を掛けて、どや顔で笑っていた。
「第三のロボット理論の博士様……でしたっけ? 神威アリスさん……」
「正確には神威愛梨だけどね、カムちゃん…………」
「あ~~……あの娘なら……やりかねないかも……」
俺の言葉に何か色々察したらしく、天音だけでなく神楽さんも溜息まりに頭を抱えた。
三人の中では最も大人しそうで、文系よりと思っていたのだけど……どうやら親友たちにとっては違うようだ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます