閑話 トラックは色々なフラグである(神楽サイド)

 神崎、神楽、神威、奇しくも神の名前を苗字に持つ仲良し三人組。

 若干オタクっぽい友人の工藤が「丁度三人の神だから、運命の三女神(ノルン)って呼ぼうか?」とおふざけで言い出したら、バカバカしいと思いつつも……放課後三人でファミレスに集まって『じゃあ長女は誰かしら?』と真剣に話し合ってしまうような……彼女たちはそんな、どこにでもいそうな女子高生である。

 ちなみに過去を司る長女はめでたく天音が任命された。

 理由は『3人の中で一番過去に拘っていたから』と言われてしまい、本人はぐうの音も出なかったようだが……。


 そんな彼女たちの中で一番ギャルっぽい恰好をしている神楽百恵は……最近ちょっとした、それこそどこにでもありそうな悩みを持っていた。

 それは母親との確執……いわゆる反抗期である。

 彼女は元々勤勉で真面目、テスト期間に関わらず勉学を続ける努力家なのだが、反面服装や髪形などは校則の許すギリギリのラインで独自に楽しむ砕けた側面があった。


 その事で最近は母親と少し折り合いが悪いのだ。


 母は最近、事あるごとに娘の格好について『少しでも人から不真面目に見られる格好は止めなさい。第一印象が悪くなるのはダメ』と注意してくるのだった。

 神楽はそれが不満だった……『別に理解しろって言うつもりはないけど、否定してかかる事はないじゃない』と。

 ただ……神楽は何故母がそんな事を言うのか、その理由については理解しているのだ。 

 それが全て、自分の将来を心配しての発言であるという事を。

 彼女の母は昔は『白鷺家』という結構な財閥だったのだが、バブル崩壊の煽りを受けて財産の全てを失い一家離散……お嬢様だった母は幼少期から大変な苦労をしたらしく、だからこそ注意する……してくれている……それは分かっているつもりなのだ。


 それで自分の全てを否定してくる母なら嫌いようもあるのだが、彼女の母は絶対に頑張っている勉学について『もっと頑張れ』だの『成績を上げろ』だのとは言わないし、友人関係にも不必要な口出しを一切しない……頑張りは認めてくれていて、信頼もしてくれている……その事は神楽も分かっている。

 でも……だからこそ……モヤモヤしてしまうのだ。

 くだらない事で……と思いはする……母の事が嫌いなワケじゃ無い……なのに……それでも反抗的な口を利いてしまう。

 神楽百恵16歳は……本当に分かりやすい反抗期真っただ中なのだった。


「……アマッちはどうやって彼と仲直りしたんだろう?」


 不意に彼女が思い出すのはつい最近まで疎遠だった幼馴染のクセに、突然仲直りをしたと思った途端に数日でバカップル化している親友の姿……。

 男女の仲と考えれば違う気もするけど、別に嫌いあっていたワケでも無いのに今まで仲良く出来なかったとしか思えない二人を見ていると……何か参考になる気が彼女はするのだ。

 

 あからさまに人目を避けてどこに行くのかと思って後を付けたら、案の定裏門で『天地夢次』と待ち合わせしていた天音を思い出して……自然と笑みがこぼれた。


「……考えても仕方がないっか……ヤレヤレ……」


 神楽はちょっとだけ幸福感をおすそ分けして貰った気分になり、これからテスト勉強に勤しむつもりで図書館へと歩みを進める。

 ……しかし、そんな穏やかな気分は後ろから掛かって来た声によって一瞬にいて台無しになった。


「よう神楽ぁ~、今ヒマか?」


 それは天音に最近まで言い寄っていたチャラ男と一緒にいた……こっちも何度となく神楽へ気がある風な事を言ってて、辟易していた人物だった。


『最近天音が天地と交流し始めてアイツらが寄ってこなくなったから、コイツも近寄ってこなくなってかな~り快適だったのに……』


 神楽の口から思わずため息が漏れるが、そんな事はお構いなしとばかりに『斎藤拓』はニヤニヤと笑いながら近寄ってくる。

 しかし神楽はそんな輩を一瞥したのみで歩みを止める事は無く……その事が気に入らないらしい斎藤は慌てて追いかけて来る。


「お、おい、ちょっと待てよ! 話聞けって!! 今ヒマか聞いてんだよ!!」


 自分優先に話を進めようとして、こっちの都合も考えていない言い様に神楽の口から再び深いため息が漏れた。


「……これから勉強するのよ」


 端的に冷たく言い放った神楽の言葉は、どう考えても『忙しいから付いて来るな』としか言っていない……拒否を示す言葉だった。

 しかし、その言葉を斎藤は独自の解釈で受け取り……おかしな事を言い出した。


「なんだよ、だったらヒマなんじゃね~か! だったらこれから一緒にどっか行かね~か?」

「……はあ?」


 神楽は一瞬、斎藤が何を言っているのか理解できなかった。

 勉強するつもりだと、端的にだがこれからの予定を正確に伝えたと言うのにヒマだと思えるその思考が……。


『何言ってんのコイツ?』


 しかし同時に以前天音がチャラ男連中がモーションを掛けていた後、不機嫌全開に愚痴っていた事を思い出した。

“アイツらは女性をアクセサリーか何かと勘違いしてんじゃないの? 外見だけで内面なんて少しも興味ない”と言っていたのを。


『ああそうか……コイツは私が放課後勉強しているとか、成績がどうとか、そんな事は一切知らない……と言うより興味無いのね……。コイツが仲間内の見栄だけで私に言い寄ってたのは知ってたけど……ここまでとは……』


 ようするに少しギャルっぽく見える自分の格好だけを見て“遊べそう”“軽そう”と判断して、自分が“勉強をする”と話したのは体のいい冗談か何かだと判断したのだ。

 神楽はそう判断すると目の前の男に益々苛立った。


「冗談じゃない……喩え本当に暇だったとしても、私はアンタみたいな男は願い下げだわ」

「え~? そんな事言うなよ~奢るからさ~~」


 尚もしつこく言う斎藤に、神楽は歩みを速めて立ち去ろうとする。

 そんな様子に斎藤は慌てて追いかけて、今度は彼女の前に回り込んだ。

 その顔にはもうさっきのニヤニヤ笑いは無くなって、焦ったような感情が浮かんでいた。


「ま、待てって! 神楽、お前今彼氏いないんだろ? だったら俺と付き合わね? あんなダセー男共と付き合うよりさ~」


 その言葉に、神楽は心の底からイラっとした。

 何なのだろうか、この自分勝手なクソガキの発想をする男は……と。

 今彼氏がいないから何だ? 何でだからって自分がコイツと付き合ってあげる必要があると言うのだ?

 それにダセー男共と言ったのは、話の流れから最近仲良くなり始めた天地の友人たちである事は明らかで…………“ダチ”をバカにされた神楽はとうとう怒鳴った。


「ふざけんな! 私の事を理解しようともしてないヤツの見栄の為に、何で私が付き合ってやるとか思ってんだ!!」

「う、うえ!?」

「それも理解してくれるダチを悪く言うクソ野郎なんかとさ!!」


 それと言うのも最近天音と天地の交流の余波で話すようになった男仲間で、神楽はオタク趣味ではあるが成績上位の工藤とライバル関係を築いていた。

 神楽百恵は好敵手(とも)を貶され大人しくしているような、そんな性格はしていなかった。


「今私に彼氏がいるとかいないとか、そんな事は関係ない! 納得行かないならハッキリ言ってやる、私はアンタが嫌いだ! だからアンタと付き合うつもりは無い、それだけだ!!」

「な、な、な…………」

「じゃあ……もう私に近寄って来ないでよね……」


 そうとだけ言い残し、神楽はショックを受けて固まっている斎藤を避けて颯爽と歩き出した。

 しかし……言いたい事を言い切ってちょっとだけスッとしたと思っていた彼女だったのだが、突然自分の背後からドンと衝撃があった。

 その瞬間……自分の体から重力が感じられなくなっている事に気が付いた時に、自分の体がガードレールから車道に投げ出されているという、余りに唐突な出来事に理解が及ばない……。


「…………え?」


 何が起こったのかは分からなかった。

 ただ……自分が投げ出された体が……迫りくるトラックの目の前にあるのだという事だけは……何故か理解できたのだった。

 突然目の前に現れた女子高生に驚愕する、トラック運転手の青ざめた顔すらしっかり見えたのだった。

 まるで他人事のように……。

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