第四十三話 情報拡散という恐怖

 俺が予知夢で見た加害者の名前を口にすると天音は目を丸くして驚く。


「あ、あいつがぁ~? あんまりそんなイメージ湧かないんだけど……」

「それは俺も思うけどな……。そもそもコノハちゃんと一緒に遊んでいた頃ってちーちゃんは何歳だったんだ?」

『確か……八つって言ってたです』


 俺の質問にコノハちゃんは不安そうに答えてくれる。


「八つ……つまり単純計算で現在は38歳くらいの女性って事だろ? そんな年齢の女性と男子高校生の立場で口論出来るとなると……大分立場は限られてくるんじゃないか?」

「限られた立場って?」

「……そんな年齢の大人と高校生が口論が出来るとしたら、相当近しい存在……母親とか親戚とか……」


 自分を例に挙げても口論出来るとしたらそれくらいなもの……いや、そもそも女性ってだけで出来るとしたら母か妹しかいない。


「え? じゃあアイツがちーちゃんの息子って事!?」

『そんな!? ではちーちゃんを自分の子に殺されてしまうのです!?』

「あ~~そうとも限らないよ? 『予知夢』が示していた人物がそもそも『ちーちゃん』なのかの確証も無いんだし」


 最早泣きそうな表情で言うコノハちゃんに俺は慌ててフォローを入れる。

 ただ、そうは言いつつもその可能性も無いとは言い切れない。

 落ち込みそうな子狐をヨシヨシと慰める天音と目を合わせて、俺たちは無言で頷き合う。

 予知夢はあくまでも『夢の本』が示した警告だ。

 天音の時の事を考えれば同じように阻止する事も可能なはず……だったら。


「なんとかしないとな……俺たちで」




 ……と決意を新たに登校した俺たち二人だったが……校門をくぐった辺りから、妙な違和感と言うか視線を感じ始めた。

 それは教室に向かう過程でドンドンと増えて行って……視線の先を見れば大抵同学年の女生徒をしめす青のリボンを付けている者が多く……何というか好奇の視線と言うか。

 俺が理由も分からず不思議に思っていると、隣で天音が目頭を押さえて溜息を吐いた。


「あ~~~……これはもう、手遅れか……」

「何が?」


 天音が何を嘆いているのか分からずに聞くと、彼女は何故か顔を赤らめて言う。


「夢次君、一応ここからは別々に教室に向かいましょうか……気休めだけど……」

「はい?」

「多分……今日一日大変だと思うけど、頑張ってね? 私も頑張るから……」

「だから何が??」


 ワケが分からず2度同じ事を聞いても明確な事を天音は答えてくれなかった。

 しかしその理由を知った時、俺は女子の噂の伝達速度がどれほど恐ろしいのか……身をもって味わう羽目になるのだった。




 ……数分後、天音の指示通りに少し遅れて教室に入った俺が目撃したのは、机に座る天音が数多くの女性陣に囲まれている所。

 中心部にいるのが神楽さんと神威さんだから別に絡まれているって事じゃなさそうだけど……明らかに困っている様子なのは分かる。

 そして、取り巻いている彼女たちは俺が教室に入って来たのを全員で注目していた。

 な、なんだ!? 女子に注目されるとか、俺の人生において今まで一度も無かった経験だけれど……あの彼女たちの瞳から読み取れる『面白いのがキタ~』という感情は……。

 俺は中心に取り囲まれている天音の顔が真っ赤っかなのを見て直感した。

『あ、コレはヤバイヤツだ』と……。

 しかし緊急避難的に教室からの逃亡を考えた俺だったのだが、瞬間的に背後の逃走経路を塞ぐ者たちが現れた。

 それはいつものオタク寄りの男友達3人なのだけど……。


「どこへ行こうと言うのかね?」

「悪いな、ここは通行止めだ」

「知らなかったのか? 魔王からは逃げられない……」


 実に奴ららしい分かっている人間用の逃がさないセリフで立ち塞がる……主に天音の友人たちと同じような目で……。


「な、なぜそんな風に追い詰めるように……」


 本当にワケが分からず俺が恐る恐る聞くと、工藤が自分のスマフォを俺に見せて来た。


「な~に……君が逃げようとしなければ、我々も手荒な真似はせぬさ……この写真についての納得の行く説明をしていただけるのなら……な」

「写真って…………ブフ!?」


 スマフォの画面を見せられた俺は思わず吹き出してしまった。

 だって、そこに写っていたのは間違いなく俺と天音の姿…………ただ、それは同じベンチに二人で座って、更に俺が天音に覆いかぶさるように抱き着いて一緒に眠っている、昨日の神社でのワンシーンなのだから。


「な、なんでこんな写真が!? あの時神社では誰にも会わなかったのに!?」

「ほほう……つまりはこの写真に写る人物が自分であると、認めるのだな?」

「は!?」


 しまった!! 暗に認めるような発言を!?

 天音を取り囲む女子たちからは盛り上がる声が聞こえ、工藤たちと神楽さんたちはサムズイアップをしあっている……なんだそのグッジョブ的なやり取りは!?


「さあ~彼も認めたからには言い逃れは無しだからね!」

「納得の行く話を聞かせていただきましょうか?」

「あ~う~……だからそれは……」


 しどろもどろ友人たちの猛攻に困り顔の天音と一瞬目が合うと、彼女は視線だけで『ゴメン』と謝ってくる。

 ……多分事前に教えなかった事についてなのだろうけど、こんなの先に知っていたからどうこう出来るもんじゃないだろうしなぁ~。


「てめぇ~何目と目で通じ合ってんだ? こっちも納得の行く話を聞かせて貰おうじゃな~か」

「君は仲間だと思っていたのだが、まさかの裏切りとはな……」

「い、いや……裏切りも何も俺たちは……」


 か、顔が熱い!! ぐおおお! 何というか超恥ずかしい!!

 この手の揶揄いが自分に向く日が来るとは思った事も無かったから、初めての経験にどうしたら良いのか全く分からん!!

 混乱していると友人共は今度は優しく着席を進めてきて……自分たちも机を取り囲んで座った。


「まあ座りなよ夢次……俺たちはこの写真の経緯について、とやかく言うつもりは無いさ。若干のやっかみは無くもねーけど」

「ふむ、確かに神崎さんは我々には高嶺の花……と思いきや、我らの会話にも乗ってくれる稀有な女子。ちょ~っと悔しい気持ちも無くは無いが……」

「まあ、相手がお前だったら……アレに比べれば全然納得行くんだよな~」


 そう言いつつ工藤が示した先、教室の隅ではたむろしつつ俺の事を視線だけで殺そうとしているように睨むチャラ男の姿が見えた。


「ありそうで実は余りない幼馴染設定をリアルに体現してくれる、そんなファンタジーな存在が友人にいるのなら……文句などあろうはずがない!!」

「……設定言うなし」


 言っている内容はアレだけど、言いたい事が分かってしまうから困ってしまう。

 何だかんだ言って、こいつ等はこいつ等なりに祝福してくれているつもりなんだろう。

 

 ……もう、この際認めてしまうけど、俺だって天音と『そう』なりたいのかと言われれば……正直言って……なりたい。

 でもさ……俺たちは何年も疎遠で、仲直りしてからまだ数日しかたってないんだぞ?

 もう少しゆっくりと距離を詰めて行けたらと思っていたんだけどな~~。


「で、だ……夢次、大事な話があるのだが……」


 俺がしみじみ思っていると、友人たちが突然真剣な表情で声のトーンを落とした。

 そしてゾッとする程鋭い眼光で各々が俺を見つめる。


「他言は絶対にしないと誓おう……天地神明にかけて……」

「男の約束……これは未来永劫守られる事を保証する……」

「秘密の秘匿……これは我らの共通認識である……」

「お……おう……」


 俺は唐突な奴らの真剣さに一瞬飲まれかけて、息を詰まらせた。


「「「神崎さんとは……どこまでヤったんだ?」」」

「…………」


 俺は発言後も真剣な顔を崩さない連中が聞きたがっている事を理解するまで数秒を要し……理解すると同時にカバンから教科書を取り出して丸める。


「結局お前らが欲しいのはエロ話か! 男子高生!!」


 スパパ~~ン……

 俺が横なぎに振るった突っ込みは、連中の頭部に全体攻撃としてヒットした。




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