閑話 ヒロインとマスコット(天音サイド)
夕食後、部屋に戻る私はさっきコンビニで買ってきたいなり寿司を手に持っていた。
もちろん本日の小さなお客様であるコノハちゃんのご飯だ。
扉を開けた時、私が持っている物を目にした瞬間にベッドに丸まっていた子狐がパッと立ち上がって期待に満ちた目で見つめる仕草が……たまらない。
「ほらコノハちゃん、ご飯持って来たよ~」
「! ありがとうなのですお姉ちゃん!!」
テーブルに置いてあげるとポンと飛び乗ってからお礼を言ってくれるコノハちゃん。
う……呼んでと頼んだは良いけど、一々呼ぶ時に“アマネ”を付けるのが面倒になったのか……いつの間にかお姉ちゃんだけになっている……。
……いい、すごくいい!!
そして器用に両手を使っていなり寿司を美味しそうに頬張る……。
くう……彼女が霊体で、写真には写す事が出来ないのが心底悔やまれるわ!
コレほどインスタ映えという物を体現した被写体は中々お目に掛かれないだろうに……。
「世の中、恐怖を誘う心霊写真ばっかり横行しているのに……可愛いのが映らないのは理不尽よね……ん?」
そして、私はそれでも何とかならない物かとスマフォを手にして気が付いた。
今日一日で相当数の着信が入っていた事実に。
「う……これは……」
まあほとんどがいつものカグちゃんとカムちゃんからのものだけどね……。
正直な話、ずっと着信があった事は知ってはいたけど……今日はほとんど夢次君と一緒だったし、コノハちゃんに関する事もあったから放置していた。
だって……ぶっちゃけ今日の半分は寝ていたワケだしね。
「え、えええええ!?」
しかし私はラインを開いてみて……その内容に思わず声を上げてしまった。
神楽『本日正午付近、天地とお前が一緒だった目撃情報あり』
神威『ネタは上がっています! さあ、本日は今まで何をしていたのかキリキリ吐いていただきましょうか?』
「うえ!? なんで!? どこからどうやって今日のってか数時間前の出来事がコイツらに知られているのよ!?」
二人は特に仲の良い友人だけど、住んでいる地元が違うから当日の、しかも数時間後に情報が流れるのはおかしい。
今日に至っては人と出会う事すら少なかったのに……。
『どうかしたのですか?』
いなり寿司を食べ終えたコノハちゃんがポンとベッドに腰掛ける私の隣に乗っかった。
彼女はスマフォ自体は山の通行人を見て目撃した事はあったそうだけど、それがどういう代物なのか全く分かっていなかったらしい。
その機能について教えてあげるとすごく驚いた。
『すごいのです!この小さな板で遠くの人とお話できるのですか!?』
「電話って事なら何年も前からあるけどね」
『……そんな便利な物があったら、ちーちゃんともお話出来たかもだったのに』
しゅんとして尻尾を下げるコノハちゃん。
しかし気持ちは分かるけど、彼女たちが離れ離れになったのは30年前。
スマフォどころか携帯……見た事は無いけどポケットベルだってあったのだろうか?
探し人の『ちーちゃん』と連絡を付けたくても今みたいに万人が携帯を持っている時代じゃ無かったから……それは叶わない夢でしょうね。
『それで……お姉ちゃんは何を驚いていたのです?』
「……友達に情報が伝わるのが早すぎるの」
気を取り直したように聞いてくるコノハちゃんに、私は昼間の事がすでに二人に伝わっている事について説明した。
そうするとコノハちゃんは首を軽く傾げて唸った。
『関係があるのか分からないのですが、お姉ちゃんと夢次さんが一緒にお母様と交信していた間……何人かの女性の方が神社にお参りにいらしてたのです』
「……はい?」
それは初耳だ。
『夢の本』の使用上の欠点、それは眠らないと使用出来ない夢が多々ある事。
『夢枕』もその一つ、つまり交信中私たちはずっと眠っていたから、その間に周囲で何が起こっても知る事が出来ないのよね。
「ね、念の為に聞いておきたいけど……その人たち……どんな人たちだったの?」
な~んか途轍もなく嫌な、と言うか恥ずかしい予感がする。
……というか今になって冷静に考えると、自分の行動が恥ずかし過ぎる。
何で私はあの時、ワザワザ彼に包み込まれるようにされる態勢を取ったんだろう?
それも完全に自分からだ……。
私たちは幼馴染とは言え、つい最近まで疎遠だったんだ……それなりの……その、距離の詰め方ってのはあると思うんだけど……。
唐突に、異常に積極的に動く自分がいるというか……。
私が悶々としているとコノハちゃんが情報を教えてくれる。
『あの神社を目印に鍛錬する女の人たちがいるのです。良く分からないのですが「次の大会の願掛け』とか言ってたのを思い出したです』
大会の願掛け……何とも部活っぽいセリフね。
しかしあの神社は地元でも知る人ぞ知る感じの場所だった……それなら、その人たちが私の知り合いだったかどうかはまだ分からないわ。
『それと……お揃いの黒いお洋服で、背中に字が書いてたのです!』
「字? それは……何て書いてたのか覚えてる?」
変な汗が流れる……揃いのお洋服がジャージで、背中の文字が学校名だとすれば……。
『え~っと……ぎんそく高校、女子ばすけっとぼーる部って書いてたです!!』
アウトだったああああああ!!
全身の血液が頭に上るのを感じる!! もしかしたら火が出ているのかもしれない!!
女バスには友人が沢山いるのに!?
そんな決定的な現場を奴らに見られたって言うの!?
学校からここまで軽く5キロはあるでしょうが!!
何気合い入れて走ってんのよ! 今年のインターハイへ向けての意気込みか!?
『ちなみに私には良く分からなかったですが、その人たちは“事件だ”とか“意外”とか“すくーぷ?”とか口々に言ってて、それと同じ板から何か光らせてたのです』
いや~~~~!! 確実に写真撮られてる~~~~~!!
私が悶えていると、スマフォが着信を知らせて来た。
恐る恐る画面を見ると……。
神楽『やっとラインを開いたな!! さあ色々と聞かせていただこうじゃないか……夜はまだ始まったばかりですぜ』
神威『女バスから色々な物的証拠が回って来たんですよ……。納得の行く、面白い話が聞けると期待して待ってたんですよ?』
神楽『とりあえず土日に彼と何があったのか……そこから行こうか?』
既読に気付かれたらしい……友人(ハイエナ)が群がってきおった!!
不覚! 何の対策もせずに開いてしまっていた!!
「どどどどどうしよう……そう答えれば……」
『何を困っているのです? あった事をそのまま話せば良いと思うのです』
「あった事……土日に夢次君とあった事……」
土日にあった彼との出来事……私はそれを最初から全て思い出して…………そのすべてがハイエナのごちそうにしかならない事に頭を抱えるしか無かった。
開示したら多分私は骨も残らない。
「言えるはず……無いでしょ!?」
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