第四十一話 爆弾を放つ子狐(ボンバーマン・コノハ)

 余計な気遣いは彼女に対して侮辱に当たるのだろう。


「ゴメン……どうやら無粋な質問だったみたいだ」


 俺がそう謝罪するとテーブルの上のコノハちゃんはコテンと首を傾げた。


「いえ、夢次さんが私を気遣って下さったのは分かるです。ありがとうございますです」


 く……!? 何だこの出来た娘さんは。

 こんな良い子……人界ではお目に掛かれない絶滅危惧種じゃないのか!?


「やべえ……一瞬うちの子にしたいって思っちまった……」

「分かる……本気で我が家に迎え入れちゃおうかしら?」


 俺の犯罪集の漂うセリフに天音は腕を組んで同意する。


「おいコラ……幼女誘拐は犯罪だって言ってんだろうが……」

 

 きつねうどん改め素うどんを完食したスズ姉から冷静な突っ込みが入った。

 うん、大分俺たちんも思考がヤバイ方向に行っている自覚はあるんだけどな……。

 カワイイは正義であり……犯罪でもある。



 さて……そうなると兎にも角にも情報収集だよな。

 しかし件の『白鷺家』が存在したのは30年以上前、だから同じくらい昔から知っている人でないと行方を知っている、もしくは想定できる人はいないだろう。

 この中で一番の年長であるスズ姉だって生れた時からここに住んでいるけど、確か現在は20そこそこだったはずだし……。

 となると……必然的に30年前にここに確実にいたのが分かる人物、『過去夢』の中で出演(?)していた人に聞くのが確実だろうな。

 俺はそう考えて現在調理場で洗い物をしている店長、スズ姉の親父さんに声を掛けた。



「おじさ~ん、ちょっと聞きたいんだけど……」

「……ん? 俺か?」


 俺の声にこっちを向いた人のよさそうなおっちゃんの顔は、紛れもなく30年前の映像にいた中学生をそのまま老けさせた感じである。

 ……頭頂部に関しては言及を避けるけど。


「前にあの山に住んでたって白鷺さん家って知ってる?」


 俺がそう聞くと、おじさんは目を丸くした。


「白鷺って……また随分と懐かしい名前だな。ってか良くその名前知ってたな夢次……」


 手を拭きつつこっちまで来てくれるおっちゃん。

 まあ確かにここのテーブルにいる連中は狐を除くと全員が30より前の年齢、バブル期に近所に住んでいた地主の名前何て知っているハズがないからな。

 その辺の辺りをスズ姉が適当に合わせてくれた。


「この店の前の店長……山口さんから預かっていた手紙あったでしょ? 前にその話をこの子たちにした事があったんだけど、何かその白鷺家の娘がいつも着物で桜の髪飾りをしてたって話をたまたま聞いたんだって」

「なに本当か!」


 虚実を交えた説明なのにおっちゃんは普通に信じてくれたようだった。

 

「あ~でも確かに、今考えてみれば当時のあのお屋敷なら考えられるかも……今まで考えもしなかったけど、そうか……」


 おっちゃんは腕組みして嘆くように呟くが、それについては仕方が無いだろう。

 なにせこの手紙が届けられたのは『白鷺家』が夜逃げしていなくなった後の事。

 おっちゃんたちがこの店を引き継いで『ソード・マウンテン』として再始動したのは更に後の事だ。

 想像しろって方が無理がある。

 そうこうしているとおっちゃんは真剣な顔で頷いた。


「なるほどな……あの手紙が白鷺の娘に宛てた物なら、先代……山口さんなら何か知っているかもしれんな」


 山口さん、さっきスズ姉も言っていたけどどうやら過去夢で見た髭のダンディなオッサンの事だろうな。

 どうやら今現在も交流はあるようだ。


「後で連絡してみるから、お前らは後日また来てもらっても良いか?」

「何か分かったら、私から連絡入れるよ」


 おっちゃんとスズ姉の提案に俺と天音、そしてテーブルのコノハちゃんも頷いた。




 そして時刻は16:30を回った。

 辺りはすっかり夕焼けに染まる時間帯……結局俺たちは土日をフルに使って行動していた。

 そう……それはつまり休みの間中、天音と一緒にいたって事なんだが……。

 何だろうか……この湧き上がる充実感と言うか、優越感と言うか……こんなに充実した休日を過ごしたのは実に何年ぶりの事なのだろうか!!

 ゲームで潰す休日、それも素晴らしいけど……この充実感には遠く及ばない!!

 夕焼けにオレンジに染まる天音の肩には狐姿のコノハちゃんがちょこんと乗っかっている。その姿も某風の姫っぽくて本日のクライマックスにふさわしい。


「じゃあまた明日ね」

「ああ、それじゃ……」


 そういいつつ俺たちがそれぞれの家に入ろうとした時、天音の肩に乗ったコノハちゃんが不思議そうに言った。


『あれ? お二人は一緒に住んでいないのです?』

「え?」

「は?」


 何気ない疑問、とばかりに子狐がとんでもない爆弾発言をしてくれやがった。

 しかし思わずフリーズしかけるけど、俺たちは何とか立て直す。

「や、や~ね~。私たちはお隣同士だけど、家は違うわよ?」

「そうだぞ……いきなり何を言うかと思えば……」


 しかし子狐は構わずに今度は焼夷弾を投げ込んできた。


『でもお母様は“お二人は霊的に縛り合ったつがい”だからご家庭にご迷惑を掛けないようにと言いつけられて来たのです』

「「ぶふ!?」」


 つがい……さすがにその意味ぐらいは知っている。

 要するに人間的に言えば夫婦とかステディとかに分類される…………俺たちは思わず互いの顔を見合わせて……慌てて顔を逸らした。


「ななななんて事言うかな!? そんなワケ無いじゃない! 私たちまだ高校生よ!?」

「そそそそうだぞ!? まだ法的に不可能な年齢なんだからな!?」


 自分でも何を言っているのか理解出来ない……あかん!! このまま会話を続けるのは非常にまずい気がする!!


『でもお母様は間違いないって……』

「いいから!! もうお家に帰るの!! じゃ、じゃあね夢次君!!」

「お、おう!! またな!!」


 慌てて自宅のドアの向こうに引っ込んでいく天音の顔は夕日に負けない程に真っ赤になっていた……おそらく現在の俺もだろう。

 ……しかし番って……こういう物言いというか感覚は若干獣よりなのかね……あのケモ耳母娘。



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