第二十六話 足の多い乗客対応

「知ってんの? この駅……猿夢の関係か?」

「ううん、アレとは違う都市伝説に出て来る駅の名前だよ。この駅に行き着いた人は行方不明になるっていう……」


 聞くと天音は青い顔のまま首を振って答えたが、俺はそこで妙な違和感を覚えた。

 別の話? 天音が憑りつかれていたのは『猿夢』の都市伝説を代表にする何か、じゃなかったのか?

 都市伝説の中で鉄道関連で繋がりがあるから、そもそも同じ部類の“ナニか”だとでもいうのだろうか?

 何だろう……この釈然としない気持ちの悪さは。


「どっちにしても、そんなあからさまに怪しい駅だったら入らない方が良いよな」

「その通り、そうよね! ベタなホラー映画じゃないんだから『取り合えず入ってみよう』なんて言って怪しい場所にワザワザ入っていくのはそもそも間違いだものね!!」


 俺の常識的な意見に天音も大いに頷いた。

 ホラー映画、ホラーゲームの常識……怪しい場所に好奇心で入らない! 危険を回避してもホッとしない!! 某社のヘリコプターには絶対に乗ってはならない!!!

 コレが実践できるかどうかで生存の確率は相当上昇する事だろう……。

 しかし……俺たちはそういう常識的な判断を下したと言うのに、瞬きもしない瞬間に……俺たちはすでに駅の内部、しかもホームに突っ立っていた。

 どうやら電車の時と同じように、場面転換のように場所を強制的に変えられたらしい。


「チッ……またか」

「入場する気さえ無かったのに……」


 突然薄暗い無人のホームに移されてしまった俺たちは最大限の警戒をしつつ、背中合わせになって銃を構える。

 無人のホームには電車も走っていないし駅員もいない……不気味なほどの静寂さだけが漂っていた。


「なあ……ちなみにきさらぎ駅の都市伝説ってどんな話なの? ってかきさらぎ駅ってそもそもどんな場所なんだ?」


 連れ込まれてしまった以上敵の目的がどうあれ、都市伝説をなぞっているなら『きさらぎ駅』の概要を知っていないと対応が出来ない気がする。

 しかし天音は渋い顔で首を振る。


「実は……話の中でもきさらぎ駅って名前をメールかもしくはアナウンスで聞いた後、相手が行方不明になるってオチで……駅がどんな所とか詳しい概要はあんまりないのよ。異界の駅とかあの世に行く為の駅……なんていう人もいるけど……」


 つまり『後のご想像は貴方にお任せします』エンドか……。

 普通だったらポジティブに解釈したいところだけど、この状況ではどうあがいてもポジティブな事になる気がしないな。


「く……そうなるとますますルールの分からないホラーゲームみたいだな」


キーーーーーーーーーーーーン…………


「ん!?」

「な、何!?」


 しかし俺が呟いた時、不気味な静けさに包まれていた無人の駅の構内に突然スピーカーのハウリング音が響き渡った。

 スピーカーからの音……それだけで俺たちにとっては凶報でしかないけど……。

 そして、その予感は実に残念な事に正解だった。


『ご入場されたお二方……大変お待ちしておりました。当方としましては精一杯のおもてなしをと考え、あらゆる手法を用いて歓迎致したいと存じます……』


 流れ出す真面目腐った業務口調……だが本職の駅員とは違ってスピーカーの向こうで声の主はニヤニヤと笑いながらしゃべっている事が手に取るように分かる。


「猿夢の次は違う都市伝説のきさらぎ駅とか……ちょっと節操無いんじゃないのか?」


 俺の苦し紛れの軽口が駅のホームに響く、だがスピーカーの声は俺の言葉を無視するように物騒なダイヤを口にし始めた。


『まもなく~4番線より電車が到着致します。お降りの“節足動物”にくれぐれもご注意くださいませ~』


キキキキキーーーーーーーーー


 そのアナウンスが終わると、俺たちの目の前『4番線』に何の予兆もなく、突然電車が走り込んできて……止まった。

 俺も天音も……目の前に止まった電車に冷や汗が流れる。


「あ、天音? 今アナウンスで何か不吉な事を言ってなかったか?」

「い、いや……私は……信じない……」


 あ……そう言えば天音って……足の多いヤツは……。

 考えている間もなく、到着した列車の扉が開いて……そして望まない現実が突如として溢れ出した。

 まるで栓を抜かれた汚水の如く、黒いのやら長いのやら、小さいのから大きいのから、這うのから飛ぶのから……形容し難い、いや形容したくない光景が目の前にひたすらおぞましく広がった。


「イヤアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ……………


 天音は半狂乱になってマシンガンを乱射し始める。

 しかし幾らマシンガンとはいえ、ホームを覆いつくさんばかりに湧き出してくる虫の大群に対抗出来るハズもなく……それどころか多少他の虫が弾丸で吹っ飛ばされても止まる事はなく、そのままジワジワと近寄って来る。

 ……大量射出するからって、弾丸じゃ埒が明かない。


「天音落ち着け! 銃じゃダメだ武器を変えろ!!」

「かかかか変えるって何によ!! イヤアアアア来ないでえええええ!!」


 俺だって目の前の光景には鳥肌が立つけど、こうも隣で取り乱されると返って冷静になるもんだよな。

 俺は虫の大群へ対抗する為に違う武器を手に持った。

 昔から害虫駆除と言ったら薬の噴霧か、そうでなければ……。


グゴオオオオオオオオオオ…………


 俺は手にした火炎放射器で目の前のおぞましい光景に向かって膨大な炎を浴びせかけた。

 高熱の炎を浴びた大量の節足動物たちは瞬時に火に焼かれ燃え上がり“バチバチ”と嫌な音を立てて破裂していく。

 焼かれる虫の悪臭がホーム内に立ち込めるけど、背に腹は代えられないし……。

 俺が火炎放射器を使ったのを見て天音も「なるほど」と呟いてから自分も火炎放射器を装備して虫の駆除にかかる。

 終始涙目だったけど。

 …………明晰夢では喜々としてゾンビを撃ちまくっていたのにな。



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