第二十四話 『夢の対決』だがドリームマッチとは違う戦い

 ……あ、危なかった。

 スズ姉の警告で慌てて『共有夢』を使って天音の夢の中に侵入してみたら、すでに天音は絶体絶命の状態。

 恐怖で腰を抜かしているところに迫りくるバカげた大きさのミキサーみたいな物から、這いつくばって必死に逃げている。

 俺は……そんな泣きながら逃げている天音の姿を見て……キレた。


『ロケットランチャーでもあればブチ殺してやるのに……』


 多分そんな事を考えたんだと……思う。

 そして俺は“思い通りに”ロケットランチャーを手にしている事に何の疑問も抱かず、特に思案する事もなく、感情のままに巨大なミキサーに向かってぶっ放していた。

 …………至近距離だという事も考えずに。


 暴力的な爆炎と爆風が晴れた時、俺たちがいる車両にはホットドックを中心から齧ったような形状の大穴が上部にボッコリと出来上がっていて、巨大なミキサーなんて跡形も無くなっていた。

 しかしそれでも走行を続ける電車のせいで、大穴から強風が吹きつけて来る。

 俺たちは二人とも全身ススだらけになって、ムクリと起き上がった……ボンバーヘッドになっていないのは幸運だったのだろうか?


「ゲホゲホ……いや~ゲームだったらこのくらいの距離でも問題無かったのに、ちょ~っと近過ぎちゃったな~あはは」

「アハハじゃ、ないでしょ!」


 同じくススだらけになっている天音は口から煙でも出すような勢いで詰め寄って来た。


「あんな近くでぶっ放す武器じゃないでしょ! 折角助かったと思ったのに、味方と一緒に自滅だなんて、シャレにならないでしょ!!」

「いや……それはマジでわるか……」


 しかし詰め寄って来た天音は俺が言おうとした言葉を遮り倒れ込むように、俺に抱き着いてきた。

 それは強い抱擁で……彼女の体は震えていた。


「…………怖かった……怖かった……」

「…………」


 俺は少し気恥ずかしい思いもあったけど天音の頭にポンポンと手を置いて、しばらく彼女が落ち着くのを待つ事にした。


                  ・

                  ・

                  ・


 しばらくしてようやく天音も落ち着いたみたいで、抱き着いていた事が今更恥ずかしくなったのか慌てて離れたその顔は泣き顔なのに怒ったようにも見えて……真っ赤だった。

 大穴から入ってくる強風のせいで天音の髪がさっきからバサバサと靡いているのが、ちょっとした演出にも見えるから不思議だが。


「私が憑り付かれている? スズ姉がそう言ったの?」


 俺がこの夢に侵入した経緯を話すと、ある意味予想通りに天音は意外そうに目を丸くした。

 正直言って俺も同じ事を思ったからな。


「スズ姉ってこういうオカルトめいた話はあんまり興味無さそうなのにね」

「……俺はこの前話した時にはむしろ嫌いなんじゃないかと思ったけど、さっきの電話では憑りつかれている事だけじゃなくて『夢の本』の事すら知っている風だったんだよな」


 まるでベテランの“何か”のように……。


「天音の首筋に付いていた2つの痣、コレが3つになった時取り殺されるとかいってたけど……これってどういう夢なんだ?」


 考えてみれば俺は“天音が危ない”という状況だけで条件反射的に動いていたから夢の詳しい内容までは知らない。

 俺の質問に天音は露骨に嫌そうな貌になった。


「ほら、この前の休み時間にカグちゃんが話してたじゃない。都市伝説の『猿夢』っていう怖い話の……」

「あ~あれか……あの結構グロい」


 言われてなるほどと納得する。

 見渡してみればここは電車の中だし、俺が開けた大穴があるけどかろうじてここが電車の3両目である事は分かる。

 都市伝説とかに詳しいちょっとギャルっぽい天音の親友神楽さんから俺たちは色々な怖い都市伝説を聞いていた。

 特にその手の話に詳しくなかった俺たち男どもは神楽さんの話に結構引き込まれていたくらいで……多分彼女の一番のターゲットは工藤だろうな~と睨んでいる。

 だって俺たちの中で一番ビビっていたのはヤツだったし。


「……つまり天音は今ひき肉にされる間際だったと?」

「そう……夢次君が来てくれなきゃ……どうなっていた事か……」


 神楽さんが語っていた都市伝説では3回目のオチがとにかく曖昧だった。

 2回目の悪夢から何とか目覚めたのに、どこからか『次は逃がさない』などという言葉が聞こえる……何とも後味の悪い、オチのないタイプだったから。

 予想として体は何ともなくても心臓発作で2度と目覚める事がない~とか言っていたけど。


「ねえ夢次君? そう言えば君、ロケットランチャーなんて……どうやって手に入れたの?」


 思い出したとばかりに俺が持ち込んだロケットランチャー……重いから下に置いた……を指さして天音が不思議そうに聞いてくる。


「どうやってって……」

「都市伝説の猿夢にこんな武器は無かったもん。だったらどうやって……」


 俺は天音の言葉で気が付いた。

 どうやら彼女は忘れている、と言うより認識にズレがあるようだ。

 

「天音……忘れているようだけど、ここは『夢の中』なんだぞ? 夢は夢って気が付いた時点でどうなって、俺たちはそれを利用して毎晩どうやって遊んでたんだよ」

「え………………あ!?」


 今気が付いたらしい。

 ここが悪夢で都市伝説の流れだから『何も出来ない』という先入観があったようだ。

 天音はスッと目を閉じて何かを念じるような仕草をして見せると……唐突に天音の手には武骨な連射式の銃『マシンガン』が握られていた。

 その黒光りする物騒な代物を手に……天音は心底悔しそうな顔になった。


「…………うかつだったわ、夢って気が付いた時点でコレは『明晰夢』なのね。その事に気が付かずに良いように怯えさせられてたなんて」

「はは……でも、もうこれ以上の事は……」


 起らない……俺はそう思っていた。

 初っ端の攻撃で既に『猿夢』は撃破したものと思い込んでいたのだ。

 だから……いつの間にか車内に吹きつけて来る風が強風でなくなっている事に気が付くのが遅れた。


 ……風が弱くなっている……いや、止まっている!?


 嫌の予感と共に大穴に目を向けると、いつの間にか大穴が何事も無かったかのように塞がっていた。

 そして、まるで……惨劇や破壊など何も起こっていなかったかのように、すっかり日常でもお目に掛かるような普通の、無人の車内へと戻っている。

 まるで映画の場面が急に変わったかのように……唐突に。

 そして、修復(?)が済んだ車内のスピーカーから“業務口調”なアナウンスが流れ始めた。


『ザ……ザザ……たいへん……オまたせイたしました……。トく例でハございますが……当シャ両『猿夢』はゲストの乗車……心より歓迎申し上げます。本来3回目のご乗車でのみのサービスでございますが、貴方様も“ひきにく”をご提供いたしたいと……』

「待ってねーよ! こんなのが歓迎とサービスだって言えるか! JRに謝れ!!」

「そうよ! ふざけないで!!」


 ガガガガと今までのうっ憤を晴らすかのように、天音はマシンガンをスピーカーに向けて乱射……スピーカーは穴だらけになって粉々に吹っ飛んだ。

 だが……瞬きするかの一瞬で、破壊したはずのスピーカーは元に戻っていた。


「な!?」

「こ、これって!?」

『我々は、貴方様方を侮っていた事を、深く謝罪いたします。どうやら軽度なれどお二人は『夢』を扱う術をお持ちのご様子……我々もこのような事態は想定外、前例のない事でいささか戸惑っております……』

「ゆ、夢次君……あ、あれ……」

「…………マジか」


 驚愕する俺たちの目の前で、不吉なアナウンスと一緒に手すりや座席、つり革や網棚などあらゆる車内のあらゆる物が命を得たように、現実ではあり得ない形状へとグネグネと動き出していた。

 正直言って……不快感が半端でない風景だ。


『我々と致しましては初の試みとなりますが『夢の対決』と行かせていただこうかと存じます。どうぞ心行くまでお楽しみ下さい……』


 そしてスピーカーからのアナウンスが消えた瞬間、今まで不快感全開にうねっていたつり革やら手すりやらが俺たちに襲い掛かって来た。


「ちい! 舐めやがってえええええ!!」

「こんなものの『何が夢の対決』よ!! 東映VSサインライズくらいのビッグタイトルを持ってきなさいよ!!」


 ドガガガガガガガ!! ドン! ドン! ドン! バンバンバンバンバン…………


 飛来するあらゆる大量の“変形する金属の物体”は元が公共設備であるはずの面影もなく、虫のように、蛇のように襲い掛かって来て……俺たちは手にした重火器を乱射する。

 ここは夢の中、自在に出来る明晰夢と自覚すれば武器は無限に手にする事が出来る。

 マシンガン、ガトリングガン、手榴弾、機関銃、RPG……はては創作上でしか実現していないレールガンやらレーザーキャノンなどなど……。

 飛来する“変形する金属の物体”は俺たちの集中砲火を受けて即座に細切れになって行く。


 しかし…………黒煙が晴れた時、俺たちが目にしたのは……何事もなく、傷一つなく日常のままの……無人の電車の風景だった。

 そして……またもや何事も無かったかのように、あらゆる金属が動き始めて俺たちに飛来し始める。

 これでは……いわゆるジリ貧ってヤツなのでは?


『備品の破損に対する修理、交換はお任せ下さい。迅速が当列車のモットーでございます』


 皮肉のつもりか、真面目腐った口調で馬鹿にするような事を言いやがる……。


「マジかよ……反則だろこんなの!!」

「これじゃあ埒が明かないよ!」


 レーザー式ガトリング砲で飛来する物を打ち落としながら天音は眉を顰めて言う。

 確かにその通り……コレが相手の言う通りの『夢』を用いての戦いなら、今現在俺たちが攻撃を加えても何のダメージも無い気がする。

 相手を倒す為のルールが分からない限り、対等の勝負にはなりえない……ならば。


「一端舞台を変えよう! このまま電車に乗っていても悪夢の延長でしかない気がする!!」

「え? 舞台を変えるって言っても……どうやって? ドアも窓も開かないわよ?」


 天音はすでにドアも窓も開かない事を確認していたみたいだ。

 正直つり革やらを自在に操作しているんだから、そのくらいは想定内だけどよ。

 でも……だったら!


「古来よりバトル系主人公は言ってた。道は自ら切り開くモノであると!!」

「……えっと、それって」


 それだけで俺が何を考えているか予想が付いたようで、天音は口元をヒク付かせる。

 俺は自分で言った言葉を実践するために、再び『ロケットランチャー』を装備する。


「ようするにさっきと同じ事をするってだけさぁ!!」

「やっぱりね!!」


ドゴオオオオオオオオオオ………


 次の瞬間、走行中の電車の3両目に再び爆炎と爆風が巻き起こり、側面が吹っ飛んだ。

 さっきもそうだったけど、さすがにここまでの大穴だと瞬時に修復とは行かないらしく大穴から再び強風が流れ込んでくる。

 俺たちはその強風に向かって駆け出した。

 つまり……走行中の列車の外へ。


 良い子も悪い子も絶対に真似してはいけない危険行為。

 ……だが今俺たちがいるのは夢の世界、明晰夢だ。

 今の俺たちは“何にでも”なる事が出来る!!


「ハリウッドのアクションスターは走行中の列車から飛び降りなくてはいけない法律があるらしいからなあああああ!!」

「コレは夢、コレは夢、コレハユメエエエエエエエ!!」


 絶対に100キロ以上は出ている列車から俺たちは勢い良く飛び出した。

 恐怖心を見ないように……自分たちは大丈夫だと自分に言い聞かせ、思い込んで……。

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