第二十一話 やり直すあの日思い出

 結局俺たちは“喫茶店で軽く昼飯とコーヒーを”何て事にはならず、はち切れんばかりにガッツリとした昼食をとって、スズ姉の喫茶店を後にした。


「う~む満腹だぜ……さすがに食いすぎた」

「う~~~やってしまった……。明日の体重計が怖い……」


 そう思うならホットサンドまでしっかり食わなきゃ良いのに……ワリと貧乏性なところも昔から変わってないようだ。


「さ~て、それじゃあ次は……どこに行こうか?」

「どこにって……」


 天音の言葉に俺たちはどっちも大して計画性もなく外出している事に今更ながら気が付いた。

 別に目的は無く、単に天音の気分転換って感じだったしな……。

 そして遠出するにも、そんなに持ち合わせは無い……喫茶店ではあの量に比べて相当にサービスして貰ってはいるものの、財布にはそれなりにしか残っていないのが現状だし。


「どこ行くにしても先立つものは余り無いですぜ旦那」


 金無い宣言は男としては若干情けない気もしなくもないが、ない物は無い……悲しいけどコレが現実。

 所詮学生の身分では限界があるのだよ。

 しかし天音は気にした様子もなく朗らかに笑っていた。


「あはは、そんなの気にしない気にしない。学生=お金がないのは基本じゃない? だったらお金の掛からない事をすれば良いのよ」

「金の掛からない遊び? そんなの……」


 天音の言葉に俺はオタク知識以外には乏し脳みそをフル回転させてみるけど、あまり建設的な意見は湧いてこない。

 せいぜい自宅でゲームかゲーセンでゲームか……むおお、こんな貧相な発想しか無いのか?

 そうで無ければ……ウインドウショッピングだの、図書館に行くだの……く、くく……ギャルゲーの選択肢しか浮かんで来ねぇ……。


「ちょっと、考えすぎだって夢次君。あんまり相応な遊び場を考えるからいけないのよ、こういう場合は」

「相応な遊び場?」


 天音が何を言いたいのかピンと来ない。

 しかし間の抜けた顔をする俺に彼女は満面の笑みで言った。


「お金を掛けたくなければ金額だけじゃなく、私たち自身も下げれば良いの。主に精神年齢の方だけど」

「…………は?」


 発想の転換……と言って良いのだろうか、コレ?

 それから俺たちは休日の午後を、おおよそ高校生の男女ではあり得ないようなルートを二人で巡っていた。

 公園に行って遊具で遊んで、落ちていたボールでキャッチボールをした。


「私のフォークを……打てるものなら打ってみよ!」

「打てるか! キャッチボールだっての」


 河川敷に行っては靴を脱いで川でバシャバシャと水を掛け合い、飽きたら水辺で水切りで勝負した。


「10、11、12、13……く、そんなはずは無い、もう一回よ!」

「フハハハ、まだまだ俺の20には程遠いな~」


 そして何年かぶりに行ってみた駄菓子屋で、ガキどもに交じって一つ十円相当の菓子をおまけ付きで購入と……まるっきり小学生のような一日を送っていた。

 ただ……まあ楽しくないかと言えばそんな事は無く……天音に乗せられた感はあるものの、俺も久しぶりに天音と過ごす休日を満喫していた。

 駄菓子屋のバアちゃんが俺たち二人の事をしっかり覚えていたのには、ビックリしたけど。


「ほ、ほ、ほ、ガキの時にゃ一緒でも大抵でかくなりゃ離れ離れになっちまうもんなのに……お前らは変わらんなぁ~そうかいそうかい……」


 何をもって“そうかい”なのか……。

 実際には一度疎遠になってからの今日だから、バアちゃんの見解は間違ってはいないんだけどな。



 そんなこんなで……俺たちはまるで幼児期に戻ったみたいに地元を巡る休日を二人で過ごして、そして……さすがにここまで来れば天音が今日俺と一緒に回ったコースの意図も分かっていた。

 ワザワザ精神年齢を落としたような、二人には共通していた遊び場を巡って……そして最後に辿り着く場所は“あの頃の俺たち”には決まっていた。

 それは二人だけの秘密の場所だった……裏山の秘密基地。

 予想通り、天音が最後に行きたいと言ったのはその場所だった。


「へぇ~、今になって来てみると……結構狭くて小さかったのね」

「俺たちがここに入り浸っていたのが何歳の時だと思ってんだよ……」


 秘密基地、なんて当時の俺たちは勝手にそう言っていたけど、それは裏の山に投棄されていたスチール製の朽ちた物置だった。

 一応光を入れる窓なんかもあって、俺たちはガキの頃ここを正義の秘密基地として遊び場にしていたのだった。

 ……天音が突然来なくなった、あの日までは。


 本当に何年振りかに見た秘密基地は当時よりも錆が広がっていてボロボロだったけど、内部はそれ程でもなく、あの当時は宝物と思っていたスーパーボールやらキラキラ光るシールやら……今となっては当時ほど価値を見出せなくなった品々が転がっていた。


「うわ懐かしい……この怪獣のソフビ、夏祭りで取ったヤツじゃない?」

「これって……無くしたと思ってた合体ロボット……ここに置いてたんだな」


 多分当時の俺は“大事な物は秘密基地が安全”とか安易な考えで持って来たんだろうな~。

 これを発見して『プレミアは付くだろうか?』とか真っ先に考えてしまう俺は、なんと薄汚れてしまった事だろうか……。


「ねえ、夢次君?」


 そんな事を考えていると、唐突に天音が何やら真面目な声色で俺を呼んだ。


「何?」

「君って……ここに来なくなったのって……いつからだった?」

「………………え~っと」


 問われて俺は一瞬言葉を詰まらせる。

 それは他愛もないガキの頃の記憶、世間一般にもよくある話で済まされそうな……でも、俺にとっては仲の良かった友達に嫌われたと思った苦い記憶。


「天音が……来なくなって以来……かな?」

「…………そう」


 それだけ言うと、天音はソフビを手にしたまま体育座りになって俯いた。

 明らかに、落ち込んだ様子で……。

 その事は“あの夢”では結構最初の方で言っていた気がするのだが、この辺の夢は見ていなかったようだな。

 暗い顔で俯く天音を見ていると……何とも言えない罪悪感が湧いてくる。


「ゴメン……」

「……何で夢次君が謝るのよ。一方的に来なくなったのは私の方なのに……」


 思わず謝る俺に言葉を返す天音。

 それはまるで“あの夢”と同じようなやり取りだった。

 夢ではもっと口調がぶっきらぼうで、俺の事を呼び捨てにしていたくらいだったけど。


「……もしかして私がここに来なくなった理由、察しが付いてたりするかな?」

「あ~う~~ん……“あの夢”が参考になるかは分からないけど……揶揄われたって……」

「……夢の、ってか“魔導士の私”がそう言ってたの?」

「あ~~~、うん。もしかして間違って……」

「……ないよ。100パーセント正解」


 被せるようにそう言うと、天音はソフビで顔を隠しつつ溜息を吐いた。


「今日は男の子と一緒じゃないの? って言われて、つい君の事を『夢ちゃん』って言っちゃって……それから“夢ちゃんはいないの?” とか“結婚はいつ?”とか揶揄われて、ムキになっちゃって……気が付いたら……」


 まさにベタな展開、世界中のどこかで必ず起こっていそうな幼少期の他愛もない友達からの揶揄い……それは前に夢で聞いた出来事そのままだった。

 …………じゃあ、本当に“あの夢”は一体何だと言うのだろうか?

 天音の心情の正解を導き出すあたり、明晰夢と思っていたけど予知夢とかの一つだとでも言うのか?


「ゴメン……私が勝手に来なくなったってだけなのに……」


 しかしさみし気な天音の言葉に、そんな事はどっちでもいい事に気が付く。

 所詮夢は夢、参考には出来ても現実の自分に影響を与えるのはあくまでも自分自身だ。

 天音が来なくなったからって、嫌われる事を恐れて何もしなかったのは間違いなく俺である事は変わらない。

 今だって……『夢の本』が無かったら、間違いなく俺たちは一緒にここにいる事はなく、俺はただ漠然と高校生活を送っていたに違いないのだから。

 俺は少し泣きそうな天音の頭にポンと手を置く。

 ……自然にやったつもりだけど、内心心臓バクバクなのだが。


「ま、良いじゃん。そういう事を経て、今日一日を使って“あの日のやり直し”が出来るようになったんだからさ……」

「……夢次君」


 今日のコースがあの日、天音と遊ばなくなった日の定番コースで、それが彼女なりのあの日のやり直し、疎遠になっていた日々への区切りだったのは……なんとなくは分かっていた。

 ……色々なアクションが自分からでない事に……何というか。


「あ~~~情けねえ! 幼馴染と腹割って話すってのを自分からじゃ無いってのが! 我ながら男らしくねぇ~!!」


 俺が自嘲気味にそう吠えて仰向けになると、天音はクスリと笑って見せた。

 夕日に照らされたその顔は、やっぱり可愛い……天音には悲しい顔よりも笑った顔の方が良く似合う。


「何よ。切っ掛けになった『夢』は実に男らしかったと思うけど?」

「ぐ……」


 ちょっと意地悪くこっちを見る天音……いや、あれを引き合いに出すのはそろそろ勘弁していただけないかと……。


「あれは……その……アレで……どうせならもっと自然にかつ感動的にまた昔みたいな関係に戻れればベストだったって事で……」

「ふ~んだ……エッチめ」


 少し顔を赤らめてそっぽを向く天音に俺は苦笑するしかなかった。

 チラリと見えた首筋の2本の痣を気にする事も無く……。




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