第十九話 残弾を気にしないと別のタイトルになってしまう夢
惰眠を貪る……休日における実に贅沢で正しい過ごし方の一つではないか。
土曜日の午前中、太陽はとっくの昔に登り切っているというのに、俺は未だにベッドの中で終生の友とばかりに布団と共に人生を謳歌していた。
このまどろんだ時間がたまらない……ずっと続けば良いとすら思ってしまう。
ちょ~っと昨日見た夢が過激だったというのも原因にあるけれど。
最近毎晩の恒例行事、明晰夢のリクエストは『銃で敵を倒すヤツ』という天音のザックリとした意見で某ガンシューティングゲームになっていた。
まあ最近のガンシューティングはセットでゾンビが付き物になっていて、御多分に漏れず昨日選ばれたのは世界一有名なゾンビゲームのアレになった。
夢というジャンルで考えると『何か得体のしれないモノに追いかけられる』のストレスの象徴、追い詰められている心象風景などと言われるが……そのゾンビがほとんど『ヤツ』の顔をしていたのは……偶然だったのだろうか?
*
ガガガガガ…………ドドドドドド…………バンバンバンバン……
『オラオラオラ! アンタの自分語りは面白くないってんだよ!! アタシらのトークに入ってくんじゃないわよ!!!』
『いい気になって見下してやがるけどなあ……誰もテメエを羨んでねーんだよ!! 面倒だから関わりたくねーだけなんだってんだよタコ助!!!』
『『『『『ア、アアアアア…………』』』』』
*
うん、偶然だな。
一掃されたゾンビの群れの中心で俺たちは凄く良い笑顔で重火器を片手に良い汗をかいていただけだもの。
色々とあったから『現在一番ブチ殺したいヤツ』をデストロイ出来る状況を楽しんでストレス解消しているってワケではないよな!
ただ……ちょっとだけ弊害も起こっていた。
それは夢だというのにちょっとリアルな問題で……弾切れだった。
強力な武器が手に入った途端、二人とも一度撃ってみたい衝動に駆られて無駄にチャラ男ゾンビにテンション爆上げでぶっ放してしまったのだ。
特にショットガンとグレネードランチャーの消費は激しく、一度に一掃されるゾンビに悦に入っていたら……気が付いたらボス戦の前に使用不能に陥っていた。
実際のゲームでもよくありそうな状況だけど。
「普通あんな状況に陥った奴は真っ先に殺されるだろうな~」
「ゾンビ映画だったら一番最初に食われる銃持っていい気になってるお調子者枠よね……」
俺がベットから体を起こして呟くと、天音からも苦笑交じりの同意が返ってくる。
「強力な武器が手に入ったら『一回だけ!!』って言ってゾンビに向かってぶっ放すから……」
「あ~君だって『俺にもやらせろ!』ってノリノリでグレネードぶっ放してたじゃん。貴重な火炎弾まで使い切っちゃうし……」
うん不毛だ……この会話は止めよう。
結果、昨日の夢の後半戦はガンシューティングではなく『無双系』になってしまっていた。
地形や鉄骨を利用して鉄棒を振り回し、更に有り合わせの道具や材料を使ってトラップを作成して、何であるのか分からない溶鉱炉に敵を叩き落としたり……。
「あはは、あれじゃバ〇オじゃなくデ〇ド・ラ〇ジ〇グだよね」
「罠も駆使してラスボスを倒したから、蒼〇灯か悪〇官も…………」
そこまで自然に話していて……俺はようやく一番始めに気が付くべきだった事に気が付いた。
「……え? 何で天音が俺の部屋にいるの?」
ここは俺の部屋で俺はまだ寝ていた。
普通だったら彼女がこの部屋にいるのは不自然な事件なのだけれど……。
しかし彼女は悪びれた様子もなく部屋の窓枠に腰掛けて足をプラプラしている。
子供っぽい仕草がちょっと可愛い。
「おはよう……ってもうお昼だけどね。2階だからって窓に鍵かけないと不用心だよ~」
……つまり天音はまたしても屋根伝いに俺の部屋に侵入を果たしたらしいな。
しかし勝手に入られた事については怒るべきかもしれないけど、天音が気安く、幼少期のあの頃のように俺に会いに来てくれたって考えると嬉しくもあり……文句も言いづらい。
「……ってか、どうかしたのか? こんな朝早く……は無いけど、昨日の夢の反省会?」
昨日の夢は色々と問題があったけど、最終的には消火器を振り回して嬉々としてゾンビの頭を潰していた天音は凄く生き生きとして楽しそうで……若干怖かったくらいだけど。
俺が気を取り直して言うと、天音は苦笑交じりに首を振った。
「ちょっと相談……じゃないね。報告があってね……」
「ん?」
そう言うと天音はストンと窓枠から降りて床に腰を下ろした。
「さっきなんだけど、新藤さんがご両親と一緒に家に来たの。この前の階段の件で……」
「…………え?」
俺がさっきまで惰眠を楽しんでいる頃、神崎家では意外過ぎる来客を迎えていたらしい。
搔い摘むと、新藤さんは嫉妬と思い込みから先日天音を階段から突き落とした事実を自白した後に丁重に謝罪する為に来たらしい。
しかも驚いた事に両親同伴で、だ。
それはつまり、彼女は昨夜のうちに自分の犯した罪を両親へ報告したって事だ。
……俺たちが“チャラ男ゾンビ”をデストロイしまっくって悦に入っていた昨夜のうちに。
「ユルフワだった茶髪がバッサリ切られてて、黒く染め直してたから私も最初“ダレ!?”って思っちゃった」
「すげえな……それ……」
一気に目が覚める……それくらい衝撃だった。
個人的には彼女から謝罪があっても、学校で本人同士によるものくらいだと考えていたし、天音としてもそのくらいでも絶対に許していたはずだ。
親に自分の犯した罪を話すって事は、常識的な親だとしたら刑罰すら覚悟しての行動。
慰謝料どころか学校の退学すらも覚悟しての事だったろうに……中々出来る事じゃない。
つまり……
「真剣に、マジに反省して、正式な謝罪をして来たって事か……」
「ご両親共々土下座されちゃって……私的にはもうそれ程気にして無かったんだけど、あそこまでされちゃうと……ね」
困ったように天音は頬を掻いた。
余りに真摯な姿勢、そして訴訟を起こして頂いても構わないとの事に、事件自体を今日初めて聞いたおじさんとおばさん(天音の両親)は怒るどころか「反省されているようです謝罪は受け取りました。幸い娘に怪我は無かったようですから」と示談を進めたとの事。
これで怪我でもしてたら別だっただろうが……。
「……そんなワケでさ夢次君。これから私とどっか出掛けない?」
「…………は?」
脈絡なく天音が凄い良い笑顔でそんな事を言ったので、俺は間の抜けた声しか返せなかった。
出かける? 天音と?? 休日に女の子と出掛ける???
それって……それって所謂……。
俺の混乱を他所に天音は「ん~」とい伸びをし始めた。
「な~んか、折角の休日なのに、しょっぱなに堅苦しい儀式になっちゃったから、少し気を緩めたいのよね~」
「儀式って……」
言いたい事は分かるけど……。
俺が戸惑っている間に天音は「じゃあまた後でね」とだけ言い残して、再び窓から屋根伝いに自分の部屋へと戻って行った。
休日に女の子とお出かけって……。
世間ではデートって言うヤツじゃ……?
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