閑話 自覚の無い独占欲(天音サイド)

 夜、一人部屋で考え事をしていると、ラインが入った。


『ちょっと聞きたいんだけど……昼休みに天地に腕枕させてたって……マジ?』神楽

『私は夕方、二人で壁ドンしてイチャ付いていたって目撃談が……』神威


「ふ~~~~~…………」


 私は親友二人から心配しているのか興味本位なのか……おそらく両方何だろうけど、確認を求める文面に思わずため息が漏れる。

 私はスマフォを思わずベットに放り投げてから、思いっきり枕に顔を沈ませる……声が漏れないように……。


「ああああああああ~~~~~何で私あんな事しちゃったんだろ!? いくら相手が幼馴染の夢次君だからって!?」


 私は今日一日を振り返ってみて、冷静に考えた結果……自分が学校でやらかした事について顔から火が出るほど恥ずかしくなっていた。

 本当に……今更なんだけれど!?


 昼休みだって、本当は夢次君が寝ている横で寝ている彼に何事も無いように見張って、授業が始まる前に起こしてあげるだけのつもりだったのに……。

 ふと……変な気分と言うのか、感情と言うのか……うまく表現出来ないのだけれど『今なら彼の隣で腕枕してもらえる』という気になってしまったの。

 この辺が自分でも全く分からない。

 まるで今までそうする事が自然だったとでも言うように、私はその時そんな考え方を『ごく自然な事』として捉えていた。


 放課後の壁ドンの態勢を夢次君にさせた事だってそうだ。

 あんなの、やるとしたら完全に付き合っているカップルが悪ふざけでやる以外には告白以外にはあり得ないシーンだろうに……。

 今思い出しても夢次君の近すぎる顔が真っ赤に染まっているのを思い出して……恥ずかしいやら申し訳ないやら……。

 なのにあの時の私は何故か『やってもらった事が無いからやってもらおうかな~』何て妙に軽いノリで提案していたのよ。

 気分的は悪ふざけをしているカップルのノリで……。


「う~~~あ~~~…………何なの私は? 折角夢次君とまた仲良くなれた矢先に……」


 私は思わずベットに突っ伏したまま足をバタ付かせる。

 ……そりゃ、夢次君は私にとって特別な男子だった。

 でもそれはあくまで私が自分勝手な振舞から疎遠になってしまった幼馴染に対しての罪悪感からだったから……。

“そんな関係になりたかったのか?”と言われると……良く分からないとしか……。


 でも、じゃあ何故?


 切っ掛けになったのが“あの夢”である事は明白……私と夢次君が異世界に行って一緒に冒険をして……お嫁さんになっちゃうあの夢。

 最初あの夢を見た時、私は激しく動揺したし、そして夢の原因は夢次君本人が望んでみていた夢を『共有夢』で私が見ていた事を知った時は私も怒った……なのに。


 嫌悪感は欠片も無かったのよね……。


 今冷静に思い返してみても、私はあの夢をまるで『大切な思い出』かのように感じてしまっている……愛おしく、懐かしいかのように。

 ……頭が熱くなる、混乱する。

 初めて知った燃えるように激しい『何か』と、知った上でふんわりと包み込むような『何か』が今一度に私に対して襲い掛かって来ているというか……。

 内と外から同時に焼かれている気分というか……。


「…………私は一体どうしたらいいのかな?」


 窓から見える夢次君の部屋の明かりはまだ付いたまま、夢次君はまだ起きているみたいだ。


 ……全部“あの夢”を見てしまってから始まった。

 思い出すたびに顔が熱くなって頭が沸騰しそうになるのに、思い返すたびに鮮明になってくるあの夢。

 あらゆる困難に打ち勝ち潜り抜けて来たはずの彼が、その言葉を言ってくれる為に何倍もの勇気が必要だったって……後で教えてくれたくらいの渾身のプロポーズ。


『いいよ……たった一週間だけど、仕方ないから私が貴方のお嫁さんになってあげる』


 夢の中で私が口にした言葉…………。

 だけどこの言葉に嘘が混じっている事を私は知っている。

 夢の中の私なのだけれど、私はそれが嘘だと確信する事が出来てしまうのだ。


「「一週間で終わってあげるワケ、ないじゃない」」


 思わず口に出した言葉が『夢の中の自分』の言葉と重なったように思えて……私は猛烈に恥ずかしくなって枕を抱きかかえた。

 本当に……本当に私はどうしてしまったのかな?

 自分で自分が分からなくなる。

 そんな不安にしかならない状況だというのに……あの夢の事を、彼の事を考えるだけでワクワクドキドキしているだなんて……。

 そんな風に頭を悩ませていると、またもやスマフォから軽快な着信音が鳴り響く。

 相手は無論現在既読スルー中の友人二人……。

 私が返信を躊躇している事も織り込み済みで連発しているわね……これは。


「あ~~~も~~~~なんて返せば良いやら……」


 知りたがりのハイエナと化している友人たちに、どうしたら貪られずに済むのか……本気で頭を悩ませる事になった。





               *



 翌々日の朝、全国ニュースである事件が流れた。

 真面目な表情で女性のアナウンサーが淡々と読み上げて行く。


「死亡したのは高校2年の天地夢次さん16歳、昨日の夕方下校中に暴漢に襲われた同じ高校に通う女子生徒を庇って刃物による刺し傷を背中に受けたのが直接の死因と見られています。犯人とみられる人物は同じ高校の…………」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る