閑話 お姉ちゃんは心配性(スズ姉サイド)
私には弟と妹がいる……といっても別に血縁があるってワケじゃない。
昔から近所にいた可愛がっている年下の幼馴染ってヤツだ。
彼らが小さい時は、良く二人でこの喫茶店に遊びに来ては私のつたない腕前で入れたミルクと砂糖たっぷりのコーヒーでもてなしていた。
そんな二人も成長と共に次第に一緒に遊ばなくなって、一緒に喫茶店に来てくれる事は無くなっていった。
どんなに仲が良くても異性という壁がある以上、それはいずれは訪れる普通の事。
男女で幼い時と同じようにずっと仲良くなんて出来ず次第に離れて行き、そしてそれぞれがそれぞれのコミュニティーを築いて、離れ、他人になって行く。
寂しい事だけど、仕方のない事。
でも、この二人はちょっとだけ毛色が違った。
理由は……まあ自惚れじゃなければ私の存在でしょうね。
弟君は突然距離を置かれた事を『嫌われたのか?』と思い悩み、妹ちゃんは自分が気恥ずかしくなり素っ気なくしてしまって話し出す切っ掛けを悩み、どっちも私に相談していたから。
だからといって私はここで直接仲を取り持つ事はしなかった。
なんというか、それは物凄く無粋な事だと思ったのよ。
だから私は最低限、二人が完全に離れない程度のつなぎ役としての立場をとる事にしていた。
それが功を奏したのか否かは分からないけど、変化は2週間くらい前に起こった。
何を切っ掛けにしたのか、それとも誰かから聞いたのかは分からないけど、弟君が突然聞いてきたのだ。
「なあスズ姉……もしかして、天音もここに来る?」
「…………ん~? どうした突然、何でそう思った?」
私は曖昧な受け答えをしていたが、ここに彼女が“何で”来ているのかというところまで、うっすらと予想している風の顔に内心『へぇ~やっと気が付いたか?』と驚いていた。
高校生に上がってまで疎遠になりつつも、内心お互いに気にし続けていた二人……あの二人は上手くいけば化ける……!
そして今日、弟君が再び店に訪れた。
公言した通り一人じゃなくて妹ちゃんの方も一緒に。
『来たああああ! 男だねぇ~~~~』
私が心の中で大喝采を上げていると、その顔が気に入らなったのでしょうね。
弟君は私を睨みつけていた、若干顔を赤くして……。
ハイハイ、若いもんの邪魔は致しませんって。
私はそんな仕草すら嬉しくなって、二人が揃った時に入れてやろうと思っていたとっておきのコーヒー豆を棚から取り出す。
あの頃と比べて私だって腕を上げているし、二人もコーヒーの味が分かる年でしょうし……分かるよね?
「え!?」
しかし私がカウンター越しにチラリと二人を見ると、テーブル席に座った二人は向かい合わせに座らず、一つの本を一緒に見るためなのか隣の席に並んで座ったのよ。
テスト勉強か何かなのかな?
ただ体を近付ける妹ちゃんは余り意識していないようだけど、弟君はバリバリに意識しているようで、くっつきそうな二の腕の辺りをさっきからチラチラ見ている。
……え? なにあの距離?
まさか昨日今日仲直りしたばっかりで、もうそんな仲に!?
私は知らないうちに急激に大人になってしまったような、存在が遠くなたような弟と妹に一抹の寂しさを感じてしまう。
「お~いスズ、手が止まってんぞ。な~にニヤニヤしながら聞き耳立ててんだよ」
「邪魔しないでよ父ちゃん! これは姉貴分として聞かなきゃいけない事なのよ!!」
こんな面白そ……いや姉として健全なお付き合いかどうか、厳粛に審査する必要が。
く、残念だけどカウンターとテーブルでは距離がある。
くう~テレビで特集している時は嫌悪感しか無かったけど、盗聴器を仕掛けるヤツの気持ちが今なら少し分かるわ。
聴覚最大! 何としても二人の会話を拾い上げるのよ、私の両耳!!
「いい……あれは夢だからね。絶対にカウントされてないんだからね……勘違いしちゃダメなんだからね……」
……え?
今、妹ちゃん何て言ったの?
カウント……カウントしてないとか言った……言ったよね今!?
女子がカウントとか拘るのは、それはもうファースト的なアレしかないワケで……。
え? え? どういう事?? どういう事ですか妹様!?
まさか……二人とも長年の疎遠が解消された切っ掛けで、その場の勢いというか流れで、その……アレして……翌日には正気に戻って……的な??
「今夜は一緒に合体するんだからね。先に寝ないでよ?」
「わ~かってるって」
ガシャン!! 私は更なる爆弾発言に思わずシンクにカップを落としてしまった。
合体? 先に寝る!? 何よ!? 何を口走っておられるのでしょうか妹様!?
まさか君たちもうそこまで進んでしまったと言うのですか!?
私よりも年下の君たちは、すでに私など置き去りにして高みへと飛翔しているとでもいうのでしょうか!?
「おいこら! 商売道具を粗末に扱うんじゃない。あ~あ、カップ一つ割っちまった……何ボーっとしてんだよ」
「いや、だって父ちゃん、あれ!」
「あれって……ほう」
ご近所で付き合いのあった二人の事は当然父も知っているし、何より顔見知りだ。
しかし二人の姿を見た父は柔らかい笑顔を浮かべて笑う。
「へえ~あの子たちがねぇ~分かんないもんだな」
「いやでも、ちょっと行き過ぎって言うか……」
私がそう言うと、父は少し目を丸くして溜息を吐いた。
「いや、いくら可愛がっていた子たちとはいえ、あのくらいで目くじら立てるなよ。お前ももう大学生なんだしよ」
何故か父に不本意なお子様認定されたようで、二人に視線を戻すと……妹ちゃんが弟君にケーキをあ~んさせていた。
………………いやいやいや確かに微笑ましい光景だし、付き合いたてのカップルっぽくて良いとは思うけど、その事を別に私は気にしているワケじゃない!
「いや、違うって! 私は……」
「そろそろお前も彼氏の一人も連れて来いよ。 ……あのくらいのスキンシップに目くじら立てて二人に先越されてる場合か? お姉ちゃんがよう」
「だから違うって!!」
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