第六話 思春期男子が一番見たい夢
喫茶店で手にした本『夢の操作方法』だが、スズ姉に聞いてみたけどどうも店で置いた本では無いらしく、いつからあったかのかも分からないらしい。
「誰かの忘れ物かね? うちは基本的に雑誌、漫画くらいしか置かないもの。店の趣向が違うから気に入ったんなら持って行って良いよ?」
タイトルを見ただけでスズ姉は、それだけでオカルト系のおふざけ系統の本だと思ったらしく、カラカラと笑って俺に本をくれた。
そして本は晴れて俺の物となったワケだが……所有してから数日後、俺はすでにこの本の事を疑ってなどいなかった。
俺は最近夜寝る時間が楽しみで仕方がない。
「昨日は仲間たちと強大な組織を一網打尽にする映画だったし、一昨日は魔王を倒す王道ストーリーだったからな~。今日はどれにしようか?」
俺はウキウキと『本日の夢候補』を漁る。
明晰夢 応用
夢を自在に操る入口として、魔法陣に自らが望む『物語』を置いて眠りに着け。そのストーリーで自らが望む役どころとなる事が出来るだろう。
補足 ただし知識にないストーリーは勧めない。どんな形でもストーリーを終焉に導かなくては目覚める事が出来ないゆえ。
いや~中二病はもう終わったつもりだったのに、この本のせいで再燃してしまったな。
現存する漫画や映画の中で自分を登場させて主人公と一緒に冒険したり戦ったりするストーリーを勝手に脳内で妄想していたもんだけど、まさかそんな妄想を夢として体験できるようになるとは……。
お陰で一昨日見た魔王を倒すストーリーは途中で“魔王が怒る原因を阻止”して“勇者と魔王が悪辣な王国を協力して滅ぼすストーリー”に誘導してしまった。
あれはあれで内政チートっぽくて非常に楽しかった……。
「今日はどれを見ようか…………これは……」
俺はその本を手に取って瞬間、何とも言えない……男ならば一度は考えてしまう感情に支配されてしまった。
その漫画は昼間に学校で工藤が貸してくれた単行本、そこそこの人気があるラブコメなのだが、そこそこである理由はただ一つ……支持する読者はほとんど男性オンリーだからだ。
……まあ、要するにあっち系な漫画って事だが、正直な話学校で工藤がこの漫画を進めて来た事は意外だった。
何しろこの漫画は可愛い女の子満載のハーレム系ではなく、あっち系とはいえターゲットがあくまでヒロイン一人にスポットを当てているラブコメなのだから。
「へえ~、お前はハーレム系一択だと思ってた」
「否定はせん! だが夢次、確かに複数の女性にモテてヒャッホーするのも男の夢と言えるがな、たった一人のヒロインに恰好付けるってのも男の夢と言えるのでないだろうか?」
彼の力説に俺たちは想像する……世界の危機を救った英雄が、数多の求婚や報酬を捨てて田舎でずっと待っていた少女の手を取る物語。
「分かる……」
「アリだな……」
「しびれるな……」
それも一種の男の夢の形……俺たちは虚空にそれぞれの妄想を浮かべて頷いた。
だが昼間のやり取りは取り合えず脇に置いておく。
俺は今そんなストーリーを想像してワケではない。もっと言えば本能にしたがってあっち系な夢が見てみたい……。
ちょっと……エロい夢ってヤツを……。
俺は脳内で色々とモンモンとしつつ、枕元に開いて置いた本の上に工藤から借りた単行本の6巻をそっと置いた……。
期待しすぎて中々眠りに付けなかったのはご愛敬……。
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