読んでもらう ための 文章

 『銀河の片隅で科学夜話』という物理学者が執筆した本を読んで慄然としました。

 

 詩のような文体は、化学にまったく興味のない人でも楽しめるからです。


 まだ読んでいない人はどのページでもいいのでほしいです。

 さらっと文章を眺めた瞬間に「あ、これは読みやすい!」と直感します。

 

 この読みやすさは本当に凄いです。


 他の理数系(物理とか数式とか)の本は、たとえ易しい本でも熟読に苦戦するのに。

 もちろん、読む意気込みはあります。(やる気があるから手に取るわけでして……)


 それにしても、どうして理数系の本は初心者向けでもつまずくのでしょう?

 予習不足や、やる気不足などの読者の努力を問題視したくないので、作者に焦点を当ててみます。


 もし、自分が天才物理学者で、世に本をだすとしたら……。


「専門的な内容になるけど、この本を手に取る人は興味を持っているんだよね? 

 じゃあ用語を出してもいいよね。補足説明も加えればわかりやすくなるだろう。

 物語を読み慣れている人は、はじめこそ真面目な文体に目が滑るかもしれないけど、日ごろから文章を読んでいるなら大丈夫でしょ。

 文章が難しくても許容範囲だよね。それに論文と比べたら格段に読みやすいほうだよ」

 

 なんだか「読み手の読解力をお前の都合で過信するな」と指摘されそうでヒヤヒヤしますね。

(そもそも日常的に物語を読む人を読者として想定していないかもしれません)


 とにかく一般的な理数系の本は、興味を持ってくれる人を想定して書きます。


 では『銀河の片隅で科学夜話』はどんな人を読者に想定したのでしょう?


 おそらく作者は、専門的な話に微塵も興味を持たない人でも読みやすいように、文体を意識して書いているのでしょう。


 わかりやすい文章と読みやすい文体が合わさったから、いろんな人に本を読んでもらっているのです。


 さて、わかりやすい文章と読みやすい文体の違いってなんだろうと思った人に別の1冊を紹介します。


 『こわい! 赤玉』は児童向けのホラーアンソロジーです。

 かつて青い鳥文庫の企画で行われた、プロ・アマを問わない『「こわい!」話大募集』の優秀な作品を選んで出来上がった本です。


 この本を読んだ感想は「どの話も読みやすかった。読者が児童であると念頭において文章を書いている」です。


 児童向けの書籍なのだから児童向けの文章で当たり前だろうと思ったあなたに質問です。

 『こわい! 赤玉』はどの学年向けだと思いますか?

 

 自分の場合ですが、児童向けの本は小学生が読むものだと思っていました。


 しかし低学年向けの本と高学年向けの本は全然違います。

 低学年向けはストーリーがシンプルでありながら面白く、高学年向けは描写の書きこみ量が多く深い味わいがあります。


 『こわい! 赤玉』は低学年から楽しめるアンソロジーです。

 

 もちろん児童向けだから、わかりやすい文章を意識して書くべきです。

 さらに、何歳の子が楽しめるかまで突きつめた作品が選ばれたと思うのです。


 つまり、理解してもらう文章と読ませる文章はぜんぜん違います。

 たまに、物語を理解しておしまいの本ってありますよね。

(感想文を書くのなら感想がわく本を選べきというアドバイスをようやく理解しました)


 この読書経験から、読者に「面白かった」と思ってもらうために、書き手は読者像を細かく設定するべきではないかと推測してみました。


 さて、肝心の読んでもらう工夫ですが……検討中です。

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