敢然と悪に立ち向かうのだった 2
わたしがゼネラルを殴りつけてゴタゴタしているうちに、大通りにはすっかり人気が失せていた。
その閑散としたメインストリートの向こうからツンと鼓膜に響くエンジン音が聞こえてくる。それが徐々に大きくなってこちらに近寄っていた。
「来ましたね」
ゼネラルが通りの向こうへ視線を向ける。
その先から一台の白いバイクが凄まじい速さで一直線に駆けてくる。
タイヤの径がデカくて隙間を空けて赤い
特撮じゃよく見かけるけど、正直わたしはバイクアクション以外あまり興味が持てなくて詳しくは知らないんだよね。
まるでブレーキを掛けるそぶりも見せず、バイクはまっすぐゼネラルカメレオンに向かって突っ込んできた。
キュィイイ! とデカいニワトリを絞め殺したような耳をつんざくブレーキ音と共にバイクが急停止する。
ゼネラルの眼前で停まったバイクは勢い余って後輪を浮かせた。
瞬間、前輪を支点に車体が反転。浮いた後輪が横薙ぎにゼネラルを殴りつけた。
ほれぼれするほどカッコいい……。けどゼネラルがちょっと横にどいといてくれなかったらわたしまでバイクを食らうところだった。
トラックに撥ねられた後、寝て起きたらバイクにも撥ねられるなんてまっぴらだぞ。
吹き飛ばされたゼネラルが距離を置いて着地したとき、バイクを駆った青年がシートから降りてヘルメットを外した。
想像通りイケメンだ。ちょっと甘えた感じの顔にヤンチャそうな短い茶髪。半袖のジャケットにカーゴパンツという衣装も活動的だ。
彼はゼネラルを見据えて声を張り上げる。
「来たぜ! 来たぜェ! 俺がッ! 俺っ様がッ!」
生意気で自信に満ちた態度。堂に入った主役の立ち居振る舞い。
間違いない。こいつだ!
青年が腰の左右に手をかざすと淡い光が溢れ、腰回りにしがみつく銀色のベルトが現れる。
そのまま前に突き出した片手には見せびらかすように一枚のコインが掴まれている。シカバネ博士がわたしに手渡したものに似ているが、こっちは白い色だ。
彼はそのコインをベルトのバックル部分に開いたスリットに滑り込ませ、叫んだ。
「変身ッ!」
地鳴りのように腹の底に響く低音がどこからともなく聞こえてくる。
同時に青年の全身が黒いボディスーツに包まれる。頭部まですっぽりと黒い覆面だ。
思ってた姿と違う。
わたしの場違いな落胆をかき消すように地鳴りの音が大きくなってくる。
それはドシンドシンと地面を踏み鳴らす巨大な足音だった。
いつの間にか青年の背後に、見上げるほど大きな肉食恐竜の全身骨格がそそり立っていた。
周りの建物は窓ガラス一枚たりとも微動だにしていない。これは、幻だ。わたしの身体を包む鉱物の装甲に直接伝播する非現実のイメージだ。
恐竜の骨――いや、白い化石が大口を開けて青年を飲み込む。
その口が彼を吐き出したとき、上顎の頭蓋以外は消失し、青年の身体には白い装甲がまとわれていた。
残った頭蓋骨が仮面となって彼の頭から目元を覆うと、黒々と空いた眼窩から赤い光が放射され、昆虫の複眼に似た大きく真っ赤な両目がはまった。
「ライザァー、REX! 参上ッ!」
本物だ。本物のライザーだ! 生ライザー! 今わたしライザーと同じ空気吸ってる!
自分が変身したときより如実に感じる。ここがライザーの世界なんだ!
REXと名乗ったライザーは赤いグローブを着けた手で鋭くゼネラルカメレオンを指差した。
「テメエのらんちき騒ぎもここまでだ! 覚悟しな! 今日こそ俺が食いちぎる!」
REXの暑苦しい口上を、ゼネラルは鼻で笑って返した。
「残念ながらあなたの相手は私ではありません。彼らですよ」
その声に反応して再生怪人たちがゼネラルの前に出てREXに立ちふさがる。
わたしも格好だけはなんとなく戦いそうなポーズをとっておく。
「なんだァ? この黒い怪人どもは」
「ドクター謹製の再生怪人ですよ。強さは以前より格段に上がっています」
「要は取り巻きだろうが。裸の王様にはお似合いだな」
「なんとでも吠えていなさい。私にはあなたに構っている暇など無いんですから」
ゼネラルがひらりと身体を翻すと、それだけで全身が空間に溶け込んで透明になる。
「それでは失礼しますよ、REXライザー」
虚空から声がしてささやかな足音が路地の奥へ消えていく。
ゼネラルカメレオンは退場した。
ということは……これで……。
これでようやく……わたしは従僕の身から解放されたんだ。
フハハハ! ざまあみろゼネラル! 自由だ! わたしは自由だァー!
もう命令に従ったフリもしなくていい。無軌道な悪事の片棒も担がなくていい。生のライザーとも触れ合えるし、話だってできる。
わたしの知らないライザーの情報を本人から直々に聞ける機会なんてないぞ。
これまでの活躍も知りたいし、これから何と戦うのかも――、
――Stegosaurus――
「え?」
何か囁くような音声が耳元をかすめた気がした。
その瞬間、地面の下から白い壁が高速でそそり立った。
REXライザーを取り囲むように、成人男性の身の丈を超える白い板が何枚も何枚も乱杭歯のように生えてきた。
「掛かったのは一匹だけか」
REXの言うとおり、白い板の隙間に再生怪人が一体、手足を挟まれてジタバタともがいている。
植物がモチーフの怪人なのか、表皮に繁った黒い葉っぱがモゾモゾと哀れっぽくのたうち回っている。
「まずは一匹……」
――T-REX――
再びあの声が聞こえた。
REXライザーは身動きの取れない植物怪人の前で片足を引き、その頭目掛けて回し蹴りを繰り出した。
光をまとった足先が怪人の頭を蹴り飛ばした瞬間、獣の吠え声がわたしの頭の中に響いてきた。
回し蹴りを浴びた怪人は全身から眩い光を発し、ついには爆発四散する。
「こ、これが必殺のライザーキック……」
間近で見るとえげつねえ……。
怪人は跡形もなく吹き飛び、後には地面に白煙が残るのみ――いや、よく見れば黒いコインが転がっている。それも真っ二つに割れて。
これが再生怪人の末路というわけか……。
REXは再びバイクにまたがると、白い板に向かってアクセルを開ける。
タイヤが傾斜のついた板に乗り上げ、それをジャンプ台にしてバイクが宙に飛び出した。
空中にはすでにREXに襲い掛かろうと飛翔していたコウモリ怪人がいた。
コウモリ怪人はREXライザーを待ち構える暇もなくバイクの体当たりを全身に食らう。
踏ん張りなんて利くはずもない空中だ。コウモリ怪人はバイクに乗ったREXと共に地面に投げ出される。
REXは着地と同時にバイクをコウモリ怪人の上に倒れ込ませて動きを封じると、片足を高く上げた。
掲げた足先に光が集まり、その足がギロチンのようにコウモリ怪人の頭に振り下ろされる。
「二匹目ェ!」
グオワァアア、と再び頭の中に咆哮が響き渡る。それが聞こえなくなるとコウモリ怪人の存在もこの世から消滅していた。
あの声が必殺技のサインなのか。ライザーの玩具によくある『
鉱物に覆われた指の先がカタカタと震えている。
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